2018年11月19日

後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)



後藤巻則 契約法講義(弘文堂2017)

 井田良先生の書評記事でも触れましたが、民法で、総論部分を契約類型ごとに溶け込ませた本があったらいいな、と常々思っていました。

【総論 ⇔ 各論(L⇔R)】
井田良「講義刑法学・各論」(有斐閣2016)
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)
関俊彦「商法総論総則」(有斐閣2006)

 で、もしかしてこの本がそういうコンセプトなのかと思って読んでみました。

 が、結論からいうと、契約に関係する個々の制度を一冊にまとめた、ただそれに尽きる、という感じでした。

 『目次』(記事の最後に引用)をみてもらうと分かりますが、個別の契約類型とそれ以外が分断されています。
 では、それ以外は一体になっているのかというと、それほどでもなく。

 たとえば、「意思表示」だったら、民法総則の教科書の該当箇所をそのままこの本にもってきたような記述になっています。
 でも、契約の効力を阻害する制度はほかにもあるんだから、それら制度との役割分担とかを書いたほうがいいと思うんです。
 一通り基礎知識があって、そういったことを自分で考えられる人なら、一冊にまとまっていることは便利なのかもしれませんが。

 まあ、大学の授業のコマが民法の編別ごとに分かれてしまっているので、分けても使えるように配慮しなきゃいけない という事情でもあるんですかね。


 そしておなじみ、「第1刷」は誤字多め。

 訂正表でてますけど、まだ直ってないのありますからね。民法の誤字界隈ではレギュラークラスの「損賠賠償」とか、当然直ってませんし(強い)。

 訂正表・補遺(一般)
 
 直したところでも、たとえば321頁の訂正後はこうなります。

 「622条の2第2項は、敷金返還債務の発生前に、賃貸人は賃借人が賃貸人に対する債務を履行しない場合には、敷金をその債務の弁済に充てることができること(同項前段)、および、この場合に、賃借人は、その充当を請求することができないこと(同項後段)を定めている。」

 条項を主語に持ってくるという、訂正前の文章の構成を維持したまま、条文引き写しをしようとするとこうなるんですが、日本語の文章としては変ですよね。

 ちなみに、数字の全角半角は原文のままです。
 なんか1桁(全角)と2桁以上(半角)で使い分けがされていて、酔いそうになる。

 また、改正法対応で書き換えた部分ならまだ弁解の余地はありますけど、賃貸借契約の解除の効力が「遡及効がある」⇒「遡及効がない」に訂正されたのとか(319頁)、なんでしょうね。

 これ、第1刷とはいえ「第4版」のだからまだこれくらいなんでしょうけど、同出版社の別の本で、「初版」の第1刷の訂正表がものすごい量になっているのを見たことあります。

 こういう本て、教え子の皆さんに、勉強のためとかモニターとかいって、校正してもらえるものかと思っていましたが、違うんですか。



 以下、個別にツッコミいれていきます。
 ただ、この本自体にどうこう、というよりも、理想の契約法の教科書があるとしたらどんな感じになるだろうか、という観点からのツッコミです。


・XX 民法典の体系と本書の構成

 はしがきや帯で「第4版から消滅時効追加したよ」とアピールしているのに、この表には反映されていない残念感。

 と思いきや、債権総則の「第7節 有価証券」に対応しているらしいですよ。
 何言ってるか分からないと思いますが、この表にそう書いてあるので。

 これ、貼り付け場所の間違いから、コピペレポートがばれる学生さんみたいな。


・XX 民法典の体系と本書の構成

 物権法が本書の対象からごっそり抜けています。
 契約法(債権法)を中心に記述する、という方針からは、まあそうなるんでしょう。

 にもかかわらず、個別の論点の中には、対抗要件の問題とか物権・債権の違いとか共有とか担保物権とか、結構でてきてます。
 のに、物権に関するまとまった記述がないので、初学者には理解しにくいと思う。


・第1章 契約の成立、第2章 契約の内容

 「第1章 契約の成立」の中で、意思表示(錯誤とか)が論じられてしまっていますが、通説的な発想からすれば、意思表示は契約が成立した後の効力(有効/無効)の問題ですよね。

 また、「第2章 契約の内容」のところで、契約内容の確定が論じられているのですが、これ意思表示を論じるより前の問題ですよね。
 契約内容が確定してから、じゃあその契約内容に対して錯誤とかがあるのかどうかを検討する、という流れなはずです。

 それが正しいかはともかく、この枠組みを正確に理解できていないと、通説的な契約法の構造を理解することもできないんじゃないかと。


 この契約の成立/効力のはなし、印紙税法からの逆噴射からはじまって、当ブログでも散々イジってきました。

【契約の成立と効力絡みの記事】
【書評】潮見佳男『新債権総論1(法律学の森)』『新債権総論2(法律学の森)』(信山社 2017)
ドキッ!?ドグマだらけの民法改正
私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法
どんな子にも親に内緒のコトがある。 〜民法98条の2の謎に迫る(迫れていない)
Janusの委任 〜成果報酬型委任と印紙税法

1 契約の成立 どのような場合に契約は成立するか。
2 契約内容の確定 どのような内容の契約か。
3 債務不履行・契約不適合 どのような場合に契約違反となるか。
4 意思表示 意思にどのような問題があった場合に効力が阻害されるか。

 理屈上はこのように分類できて、教科書のそれぞれの場所でバラバラに論じられています。

 が、それぞれの場所で考慮すべき事情って、具体的にどのような違いがあるんでしょう。
 結局のところ、当事者がどのような合意をしたかを探求する、というのが中心にあるんだと思うんですけど。

 それぞれの制度目的にしたがって考慮すべき事情が変わってくるのであれば、具体的な違いを示してほしいわけです。 
 こういうコンセプトの本に、そういった期待をしているんですが、残念ながら普通の教科書と同じノリ。


 ちなみに、2017年の民法改正では、
  1⇒522条で明記された
  3⇒415条で契約の趣旨を考慮することが明記された
  3⇒担保責任が吸収された
  4⇒動機(基礎事情)の錯誤を考慮することが明記された
といった改正が行われました(3と裏表の関係にある2にも影響)。

 そのため、それぞれのポジションが従来の見解から動いているはずです。
 ので、それらの関係を論じる必要性は高まっていると思います。

 特に、債務不履行責任の中に、担保責任という責任拡張規定を吸収した一方で、意思表示理論という責任制限規定との関係性は不明なまま。
 契約不適合を債務不履行責任に吸収しつつ、動機の錯誤を意思表示理論に組み込んだことで、債務不履行責任と意思表示理論がかなり接近しているんじゃないかと思うんですけど。

 概念上は、成立した法律行為から生じる債権債務の問題と、その法律行為を構成する意思表示の問題、ということで区別はできます。が、考慮すべき事情は相当かぶってますよね。

 契約に関する限り、意思表示理論を廃棄して債務不履行責任に一本化するところまで、あと一歩な気がします。たとえば、詐欺により形成された契約は、「取引の社会通念上」保護に値しないから債務不履行責任は生じない、とかいって。
 債務不履行責任が過失責任主義から抜け出した(ともいえる)のと同じように、意思表示理論も、当事者の善意/悪意や過失/無過失を直接の要件とせず、契約の拘束力判断の一要素に落とすとか。第三者への対抗も、契約責任規範の第三者効として論じるとか。


・23頁 原始的不能

 どの民法改正本にも書かれているのと同じように、原始的不能でも無効にならなくなった、ということが書いてあります。
 が、私にはどうにも理解できないのが、133条との関係。

(不能条件)
第百三十三条  不能の停止条件を付した法律行為は、無効とする。
(履行不能)
第四百十二条の二 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。


 133条では不能の停止条件がついてたら無効だって書いてあるんですよね。
 たとえば、「金ちゃん(ペットの金魚)を生き返らせてくれたら1000万円あげる」というのは、不能な停止条件がついた贈与契約、ということで無効になるのか。それとも、それは「停止条件」ではなく、負担付贈与とみるか、あるいは1000万円と対価関係にある請負契約とみて、有効のままなのか。

 改正前ならどちらでも無効だったわけですけど、改正後は条件とみるかどうかで結論が変わってしまいます。

 条件付贈与:1000万円あげる。金ちゃん生き返らせてくれたらね。 ⇒無効
 負担付贈与:金ちゃん生き返らせてくれたら1000万円払うね。   ⇒有効
 請負   :金ちゃん生き返らせてくれたら1000万円払うね。   ⇒有効

 概念上は、その契約がどういう趣旨だったかでどうにか区別できそうですけど(相手方自身の力によらず、何らかの力によって勝手に生き返った場合でも払う趣旨かどうか、とか)、そもそも、有効/無効なんて、両極端に結論の食い違いがでてもいいのか。
 契約の「要素」か「付款」かで決める、なんていったら、みんな毛嫌い『概念法学』みたいですし。
 それで区別するにしても、

 ・契約の要素が不能 ⇒有効
 ・契約の付款が不能 ⇒無効

てことになって、付款が不能なだけで無効なのに、なんで要素が不能な場合は有効なんだ、と逆転現象が生じてしまいますし。

 両条を整合的に解釈しようと思ったら、原始的不能では無効だが(133条)、損害賠償請求することは可能(412条の2第2項)、と解するとか。もちろん、実際に賠償すべき損害が生じてるかどうかは別問題として。

 412条の2第2項を、
  ・有効だから損害賠償請求ができる
と読むのではなく、
  ・無効だけど損害賠償請求はできる
と読むこということ。

 こういう、民法総則(不能条件)と債権総論(原始的不能)にまたがる問題があって、特に今回の改正で原始的不能が有効となったことによって怪しい関係になっているはずなのに、特に何の記述もなく。


 条件絡みで、ついでにもうひとつの疑問。この本からはさらに離れます。

(条件の成就の妨害等)
第百三十条  条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
2  条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。


 130条2項の例として、仲介者の仲介を妨害して直接契約した場合、条件成就とみなされて仲介料支払わないといけない、という具体例が民法総則の教科書によくあげられています。
 他方で、危険負担に関して、使用者のせいで労働者が労務の提供できなくなった場合は、536条2項の法意から、労働者はその期間の賃料を請求できる、という具体例が契約総論の教科書にあげられています。

 これ、一方が「条件」の問題、他方が「危険負担」の問題、というようにまるで別々のことのように記述されているんですが、中身はほぼ同じですよね。たとえば、仲介者の事例を「危険負担」の問題として記述することもできるわけで。
 もっというと「受領拒絶」の事例ということもできますし。

 と、ここでも、民法総則(条件成就妨害)、債権総論(受領拒絶)、契約総論(危険負担)にまたがる問題があるはずなのに、特に記述もなく。


・77頁、359頁 代理・委任

 代理は契約の主体の中で、委任は個別の契約類型の中で、それぞれ別々に論じられてしまっています。

 完全にオーバーラップしないまでも、復代理が105条から644条の2に飛んだみたいに、代理と委任、かなり密接な関係があるのに。

 一冊本のメリットが活かされていない一例。

・105頁 契約上の地位の移転

 機能的には債権譲渡や債務引受に近いのに、なぜかそれらとは離れた「契約の主体」のなかで論じられています。似通ったそれぞれの制度が、どのように使い分けされているのか書けば、理解が深まると思うんですけど。

 債権譲渡・債務引受を「金銭債権の履行の確保」のための制度に括ったせいで、はみ出しちゃった感じですか。


・132頁 弁済

 『弁済とは、債務者による給付内容の実現である。100万円の借金がある者がこれを弁済する場合や、売主が目的物を買主に引き渡す場合のように、債務者による履行行為が弁済である。』

 下線は私が引きましたが、弁済の具体例をあげる中に「弁済」って入れるの、絶対ダメだと思うんですけど。
 しかも、『弁済とは、〜弁済である。』とかいってて、後ろの「弁済」余計ですし。

 この箇所読んで、あれ?この本もしかしてアレなんじゃ、と思いはじめ、ツッコミモードに切り替えて、あらためて読み進めていくことになりました。


・189頁 金銭債務の不履行についての特則

 『金銭債務の不履行について、419条は、2つの例外を定めている。』

 もちろんこのあとに内容の説明があるんですけど、どの原則に対する「例外」か、ということがこの一文の中に書かれておらず、読んでいて不安になりました。


・191頁 代償請求権

 建物賃借人が保険金受取人になれる火災保険なんて、今どきあるんですか?(この状況から入れる保険なんてあるんですか的な感じでどうぞ)。

 もし仮に、受取人になれない賃借人が何かの間違いで保険金を受け取ってしまっても、それは普通に「不当利得」だし、保険会社側からすれば「非債弁済」の問題だし(下手すると保険金詐欺)。
 
 どうにか現代でこの事例を活かすなら、賃貸人が受け取った保険金が、賃借人の負担する損害賠償金から控除されるかどうか、という「損益相殺」の話とかになるのでは。

 少なくとも、「代償請求権」の具体例としては相応しくない。
 おそらくですけど、ここで引用されている昭和41年の判例の事案て、本当はそういう事案ではないんだと思います。他の本からの孫引き孫引きを繰り返している間に、間違った要約がされていったと推測。

 こんなこと、学生がゼミの報告でやらかしたら、教授にめたくそに怒られるやつよ(後藤ゼミは除く)。

【今どき相応しくない判例をあげる例】
小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)



・194頁、312頁 債権侵害

 どちらにも、不動産賃借権に妨害排除請求権があることが書かれてます。
 が、同じ判例を引用しているにもかかわらず、クロスリファレンスがない。

 せっかく一冊本にしたのに、結局、債権総論の教科書と契約各論の教科書を合本したのと変わらない。
 このクロスリファレンスの不徹底、逐一指摘しているときりがないので途中でカウントやめました。


・196頁 債権者代位権の意義・機能

 強制執行には「債務名義」がいる、でも債権者代位権行使すればいらない、てことが債権者代位権のメリットみたいに書かれています。
 それはまあ民法上はそうなんでしょうけど、現実的に考えるとどうだろうかと。

 自分が第三債務者Cの立場だとして、いきなり知らない人(A)から俺に払えとか言われて、はいそうですか払います、とはならないですよね。
 特に、債務者Bの「無資力」なんて第三債務者Cには判断しようがないですし。
 不安なら、債務者B本人に払うなり供託するなりするはず。

 ので、Bに対する債務名義をとってCに債権執行(+取立訴訟)をするか、Cに対する債務名義をとってCに強制執行をするか、という手続法上の違いはあるものの、「債権者代位権のおかげで債務名義なしに回収できました」と言い切れる場面は現実的に少ないはず。

 これ、転貸借に関する613条1項と比べると、第三債務者Cのおかれた「利害状況」の違いがわかると思います。

 613条1項では、転借人Cは賃貸人Aに直接債務を履行する義務を負うとされています。
 この規定、賃貸人A側からのメリットばかり強調されますが、転借人Cにとってもメリット大きいです。というのも、賃借人/転貸人Bの意向にかかわらず、自分自身が債務者として弁済したりできるので。
 転借人Cにとって、賃貸人がAであることは把握しているのが普通でしょうし、進んで支払うことに自分自身もメリットがあるわけです。

 他方で、債権者代位権の場面では、第三債務者Cは債権者Aのことなんて通常知らないですし、知っていたとしてもBが無資力かどうかを自ら調査してまでAに支払うインセンティブは何もないわけです。
 訴訟外でAに支払ったあとに、Bから請求されたらどうしてくれるの、とか考えますよね。

 ということで、実際の回収の場面まで想定すると、この点は債権者代位権のメリットとしてあまりアピールできるものではない気がします。

 「債権者代位権には事実上の優先弁済機能がある」ということもよく言われますが(この本では、なぜかそういう表現はでてこないです)、これが機能するのって、ラッキーにもCが任意に払ってくれたか、または、Cに対する強制執行が他の債権者の参加なく配当までいけた場合ぐらいですよね。
 で、後者の場合に他の債権者に優先できるのは、債権者代位権の効力というよりは執行法上の遮断効のおかげじゃないんですかね。債権者代位権の仕事は、Cに直接、訴訟提起⇒強制執行できる権利があるというところまでで、優先弁済機能は執行法の手柄ではないかと。
 とすると、債権者代位権の「事実上の優先弁済機能」というのは、前者の、Cが任意で支払ってくれるという奇跡的な事例でしか働かない、ということになりそう。

 いずれにしても、債権者代位権(あと詐害行為取消権も)の機能を理解するには、実体法だけでなく手続法の知識が必要となってきます。通常の場合と代位権行使した場合とで、交渉⇒訴訟⇒執行⇒回収のそれぞれの場面でどれほどの違いがでてくるかを理解する必要があるので。
 とすると、実体法側からだけ詳しく論じても、それほど意味がない。

 中途半端に「債務名義いらない」なんて手続法上のメリットぽいことを書くのはやめて、Cに直接請求できるとか、Cが払ってくれたら受領できるとか、実体法レベルの記述にとどめておくのがいいような。
 書くのであれば、たとえば森田修先生のように、債権回収という側面から実体法・手続法を一体として論じるとかしないと。



森田修 債権回収法講義 第2版(有斐閣2011)


・200頁 債権者代位権の転用

 『このような債権者代位権の活用を、債権者代位権の転用という。』

 他にどう言えって反論されると思いますが、「活用を転用という」って。

 ちなみに、法が正面から認めた類型については、いつまでも「転用」と言い続けるのはどうかとも思いますけども。


・253頁 承認による時効の更新

 『完全な行為能力は必要でなく、管理能力があれば足りる。』

 「管理能力」って法律用語っぽく書いてるけど何だ、と思ってもそこに定義が書いてありません。

 なんか行為能力絡みっぽいから、行為能力のところに書いてあるのかな、と頑張って探しても、まあありません。

 僕たち私たちの『法律学小辞典』にも「管理能力」のってませんし。

 「法律学小辞典」の『小』は「小スキピオ」の『小』


 共有における処分・管理・保存の「管理」を想定しているのかもしれませんが、特にそういう説明もないし。
 そもそもこの本に物権法の記述ないし。


・269頁、318頁 継続的契約の解除、賃貸借の終了事由

 おなじみ信頼関係破壊の法理。
 で、同じ判例を引用しているのに相互参照がないパターン。


・298頁 債権の売主の担保責任

 「債権売買」って、債権総論の「債権譲渡」に絡んでくるものです。
 ので、一緒の箇所で論じないまでも、相互参照があってもおかしくない。
 のに、ここでは単に569条の説明のみ。

 債権譲渡を「金銭債権の履行の確保」のための制度として位置づけているんだから、なおさら、担保責任だって重要なはずなんですが。

 その視点からの記述にはなっていない。


・315頁 転貸の効果

 転貸の効果って、債権者代位権(の転用)と機能が似ているよね、と思うんですが、例によって相互参照もなく。


・336頁 使用物の費用の負担

 595条2項で準用されている583条2項ってどんな内容だっけ、と思い、例によってレファレンスないパターンかと思って、目次から「買戻」の箇所を探して該当ページをみたところ、そもそも583条2項についての記載がないというオチ。

 そうきたか。


・338頁 要物契約としての消費貸借

『貸す側からすれば、契約書その他をきちんとしたうえで貸したほうが安全であるため、実際の金銭貸借においては、まず金銭消費貸借契約書を公正証書で作成し、次いで抵当権の設定登記をして、その後に金銭の交付がなされるのが一般である。』

 この記述、お金を貸す場合に、公正証書の作成と抵当権の設定をするのが一般であるかのように読めますよね。
 社会人であれば、んなこたーない、とツッコめるでしょうが、学生さんは誤解するかもしれません(学生ローン人除く)。

 公正証書の作成と抵当権の設定をする場合には金銭交付が最後にくる、という「順番」が一般だ、ということなんでしょうけども。

 誤解を招く書き方。


・345頁 請負契約と委任

 『請負契約は』『委任では』

 対比をしているんだから、表記揺れないでほしい。


・348頁 解除の非遡及効

 「非遡及効」というのははじめて聞きました。
 「将来効」か、あるいは「不遡及効」が一般的では。


・349頁 請負工事契約約款

 さらっと「約款」という言葉がでてきますが、「定形約款」との関係を書いてほしい。


・391頁 消費者契約の取消し

 『消費者契約法4条1項から4項の要件が充足される場合には、消費者は当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示を取り消すことができる。その結果、事業者と消費者との間で締結されていた契約は、契約締結時に遡って無効となる。』

 「その結果」て、できるってだけでまだ取り消すとは言ってませんけど!と思わず突っ込んでしまいました。
 ここまでくると、ツッコミぐせが強くなってしまって。


・394頁 不当条項

 「以下のような当該不当条項の全部または一部を無効とする規定を置いている。」

 「当該」いらなくね?


・418頁 資料1 貸室賃貸借契約書

 通常、この手のおまけ書式は読み飛ばすところなんですが、本文にこれだけツッコミポイントがあるんだから、おまけにもなんかありそう、と思って読んでみました。
 で、期待通り。

 どこかの書式をいただいてくるにしても、もう少しどうにかならなかったのかと。

・418頁 資料1 前文 

 『賃貸人○と賃借人○との間に、次のとおり貸室賃貸借契約を締結します。』

 これ主語ないですよね。
 「〜との間に〜締結します」て、え?これ誰が宣言してんの怖い。

 神託により契約が成立する(The Oracle of Contract God)、みたいな世界観ですか。
 一般私人には契約締結能力がなく、契約神のみが契約を締結することができる、そんな時代。

・418頁 資料1 第7条

 『賃料の支払いをしばしば遅滞し』

 契約書に「しばしば」はないでしょ、「しばしば」は。

 「しばしば」
 「しばしば」
 「しばしば」

 どんだけ?(おなじみゲシュタルト崩壊)


・418頁 資料1 第16条

 「賃貸人の居住地の裁判所を第1審の管轄裁判所とする」

 正確には「居住地を管轄する裁判所」だし、専属的・付加的の区別もないし、地裁・簡裁の区別もないし、ゆるゆる。


・418頁 資料1 第15条 連帯保証

『連帯保証人は、賃料の支払い等本契約に基づく賃貸人に対する賃借人の一切の債務について保証し、賃借人と連帯して履行の責を負うものとします。』

 ここまでは細かい言い回し程度の話ですが、「連帯保証」に関しては致命的。
 改正民法が全く反映されていない。

 家賃の保証っていわゆる「根保証」に該当するので、極度額の設定とか通知義務とか、かなり気を使わなければならないことになりました。

 のに、ここでは昔ながらの文言。
 で、「保証」のルール確認しようとおもって、この本の該当箇所探してみたら、そもそも書いていない!

 まさかの。
 
 保証だって「金銭債権の履行の確保」のための制度なのに、まさか一言も触れられていないとは。
 やたらと詳しい「債権者代位権」や「詐害行為取消権」の記述を減らしてでも、ねじ込むべきものだと思うんですけど。


・422頁 資料4 約款の例

 なぜか主たる保険契約の約款ではなく、付加契約のほうの約款。途中で打ち切っちゃってるし。
 
 内容も、改正民法の「定形約款」ルールを織り込んだバージョンにすればいいのに、と思う。


・帯 クロスレファランス

 『クロスレファランスが、契約をまるごと理解するのに有効。』

 まさか帯までツッコむことになるとはね。

 カタカタ英語(reference)なのでどうこういうのもなんですが、通常は「レファレンス」か「リファレンス」ですよね。
 これだけ誤字があると、「帯まで誤字か!」とツッコみたくもなりますよ。

 そして、これ書いたせいで、私のグーグル日本語入力に記憶されてしまう罠。
 私自身もどこかで誤字る可能性がありますので、先に謝っておきます。



 以上、コンセプト自体はよさげだったんですけども。

【コンセプトだけを褒める系】
小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)
(本記事2度目の引用)

 さらっと読めてしまう本よりも、こうやってツッコミを入れながら読んでいける本のほうが、能動的な学習(アクティブ・ラーニング)ができるという意味ではいい本なのかも(フォロー・アップ)。

 でも、初学者にとっては難しいですよね。
 もっとしっかり読み込めば、色んな発見があるかもしれないので、チャレンジャーはぜひ。



 ということで、理想の契約法の教科書を妄想してみます。

・個別の契約類型ごとに、意思表示やら解除等の制度を溶け込ませて論じる。

・個別の制度特有の論点は、それぞれの領域の教科書に委ね、深入りしない。

・他方で、制度間の関係やそこから生じる論点は深く論じる。

・手続法との絡みはどこまで書くか。少なくとも誤解を生じる中途半端な記述はしない。

 さしあたりこんな感じですかね。思いついたら都度充実させていきます。


【理想の教科書を求める旅】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅


【主要目次】
序 章 民法典と契約法
第1章 契約の成立
 T 契約成立のプロセス
 U 契約成立の諸態様
 V 意思表示
 W 契約の主体
第2章 契約の内容
 T 契約内容の確定
 U 契約内容の妥当性
第3章 契約の履行
 T 正常な経過による債権の実現
 U 双務契約上の債務の履行過程における牽連性
 V 契約が期待通りに履行されなかった場合の救済
 W 金銭債権の履行の確保
 X 債権の消滅時効
第4章 契約の終了
第5章 契約の基本類型
 T 売買
 U 贈与
 V 交換
 W 賃貸借1(賃貸借一般)
 X 賃貸借2(宅地・建物の賃貸借)
 Y 使用貸借
 Z 消費貸借
 [ 雇用
 \ 請負
 ] 委任
 ]T 寄託
 ]U 組合
 ]V 終身定期金
 ]W 和解
第6章 消費者取引に関する特則
 T 消費者契約法
 U 特定商取引法
 V 割賦販売法
【資料/事項・法令・判例索引】
posted by ウロ at 12:01| Comment(0) | 民法
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