2018年12月10日

大屋雄裕「裁判の原点:社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)

 「法学入門」ないしそれに類するタイトルの本、ものすごい量出版されていて、なんかまとめ記事書きたいなあと思っているんですが、消化量が圧倒的に少なすぎて道半ば。

 ざっくり範疇(ざっくりはんちゅう)としてはこんな感じだと思うんです。

1 法学部以外の学部の「法学」という講義で使うテキスト
2 大家が自分の法学観をまとめたもの
3 著者が工夫を凝らして法学の魅力を伝えるもの


 もちろんこれに尽きる、ということではないですけども、私の限られた観測範囲で、ということで。

○2の例




団藤重光 法学の基礎 第2版 有斐閣2007
星野英一 法学入門 有斐閣2010
田中成明 法学入門 新版 有斐閣2016
五十嵐清 法学入門 第4版 新装版 日本評論社2017
三ケ月章 法学入門 弘文堂1982
グスタフ・ラートブルフ 法学入門 東京大学出版会1964

○3の例




木庭顕 誰のために法は生まれた  朝日出版社2018
道垣内弘人 プレップ法学を学ぶ前に 第2版 弘文堂2017
道垣内正人 自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版 有斐閣2019
末弘嚴太郎 新装版 法学入門 日本評論社2018
山下純司、島田聡一郎、宍戸常寿 法解釈入門 補訂版 有斐閣2018

(1の例はあげません)


 1は、どうしても浅く広くとなるので、無味乾燥な記述になってしまいます。
 が、それは役割上、まあしょうがない。

 ただ、こういう本だけ読んで「法学はつまらない」と誤解してほしくないなあと。

 じゃあってことで、「法学入門」と書いてあるからといってうっかり2のグループに手を出してしまうと、余計こじらせてしまう。

 たとえば、団藤重光先生の「法学の基礎」、昔は「法学入門」と名乗っていた時代がありました。
 で、そのころに「法学出門」と言われた、なんて自虐がはしがきに書いてあったり。

 この本、私も何度か読み返してますけど、これは一定程度勉強が進んだ人が、節目節目でマイルストーン的に読むと効いてくるものであって、初学者がお気軽に読めるものではないです。


 ということで、初学者が文字通りの「法学入門」として読むべきものが、3のグループに属する本です。

 今回読んだのは、大屋雄裕のこの本。



大屋雄裕 裁判の原点:社会を動かす法学入門 河出書房新社2018

 大屋先生ご自身は法哲学を専攻されている先生ですが、この本は、あくまでも日本の裁判所で法がどのように実現されているか、を記述した本になっています。

 扱っている裁判例は憲法判例。
 現に通用している法規範を記述する、という意味では、以前紹介した戸松秀典先生の体系書と、コンセプトが近いんじゃないかと感じました。

戸松秀典『憲法』(弘文堂 2015)

 で、この本読んでてふと思い出したのが、長谷部恭男先生の『法とは何か』という本。
 (河出書房新社て、法学系の書籍ほとんど出してない出版社ですが、なぜかたまたま同じ出版社。)



長谷部恭男 増補新版 法とは何か 河出書房新社2015

 長谷部先生は憲法学者ですが、この本では、現代日本の憲法判例とは関係なく、過去の思想家の思想から、「あるべき法」を見出そうというコンセプトの本になっています。

 ので、お二人のそれぞれの専攻からすると、なんかねじれが生じているような。

  法哲学者: 現代の憲法判例から、現実に法がどうあるかを論ずる。
  憲法学者: 過去の思想家の思想から、法はどうあるべきかを論ずる。

 長谷部先生のほうは「法思想史入門」を謳っているので、勝手に「法学入門」的な期待をするのは、こちらのお門違いなんでしょう。
 実際、内容お優しくないですし。


 大屋先生の本に戻って、この本、「裁判は正義の実現手段ではない」とか「正義とは正しさではない」とか、やや煽り気味の章タイトルがついています。

 が、『ぼくのかんがえたさいきょうのけんぽう』なノリが苦手な私からすると、とても共感のできる内容でした。
 特定の人の、正義と信じるところのものが保護されるわけではないと。

 また、憲法判例の記述がメインではありますが、「三権分立」の意味合いについてもしっかり記述されています。
 ので、法学者の書く書物が、往々にして司法権を重視しがちなのに対し、立法権についても目配りがされています(行政権は弱め?)。


 ということで、単に制度の羅列だったり高い法の理念を謳った本ではなく、現に法がどのような機能を果たしているか、をメインで論じている本なので、理解がしやすいと思います。
posted by ウロ at 11:58| Comment(0) | 法学入門書探訪
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