「法学入門」ないしそれに類するタイトルの本、ものすごい量出版されていて、なんかまとめ記事書きたいなあと思っているんですが、消化量が圧倒的に少なすぎて道半ば。
ざっくり範疇(ざっくりはんちゅう)としてはこんな感じだと思うんです。
1 法学部以外の学部の「法学」という講義で使うテキスト
2 大家が自分の法学観をまとめたもの
3 著者が工夫を凝らして法学の魅力を伝えるもの
もちろんこれに尽きる、ということではないですけども、私の限られた観測範囲で、ということで。
○2の例
団藤重光「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007)
星野英一「法学入門」(有斐閣2010)
田中成明「法学入門 第3版」(有斐閣2023)
五十嵐清「法学入門 第4版 新装版」(日本評論社2017)
三ケ月章「法学入門」(弘文堂1982)
グスタフ・ラートブルフ「法学入門」(東京大学出版会1964)
○3の例
木庭顕「誰のために法は生まれた」(朝日出版社2018)
道垣内弘人「プレップ法学を学ぶ前に 第2版」(弘文堂2017)
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
末弘嚴太郎「新装版 法学入門」(日本評論社2018)
山下純司、島田聡一郎、宍戸常寿「法解釈入門 第2版」(有斐閣2020)
(1の例はあげません)
○
1は、どうしても浅く広くとなるので、無味乾燥な記述になってしまいます。
が、それは役割上、まあしょうがない。
ただ、こういう本だけ読んで「法学はつまらない」と誤解してほしくないなあと。
じゃあってことで、「法学入門」と書いてあるからといってうっかり2のグループに手を出してしまうと、余計こじらせてしまう。
たとえば、団藤重光先生の「法学の基礎」、昔は「法学入門」と名乗っていた時代がありました。
で、そのころに「法学出門」と言われた、なんて自虐がはしがきに書いてあったり。
この本、私も何度か読み返してますけど、これは一定程度勉強が進んだ人が、節目節目でマイルストーン的に読むと効いてくるものであって、初学者がお気軽に読めるものではないです。
○
ということで、初学者が文字通りの「法学入門」として読むべきものが、3のグループに属する本です。
今回読んだのは、大屋雄裕のこの本。
大屋雄裕「裁判の原点 社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)
大屋先生ご自身は法哲学を専攻されている先生ですが、この本は、あくまでも日本の裁判所で法がどのように実現されているか、を記述した本になっています。
扱っている裁判例は憲法判例。
現に通用している法規範を記述する、という意味では、以前紹介した戸松秀典先生の体系書と、コンセプトが近いんじゃないかと感じました。
戸松秀典「憲法」(弘文堂2015)
で、この本読んでてふと思い出したのが、長谷部恭男先生の『法とは何か』という本。
(河出書房新社て、法学系の書籍ほとんど出してない出版社ですが、なぜかたまたま同じ出版社。)
長谷部恭男「増補新版 法とは何か」(河出書房新社2015)
長谷部先生は憲法学者ですが、この本では、現代日本の憲法判例とは関係なく、過去の思想家の思想から、「あるべき法」を見出そうというコンセプトの本になっています。
ので、お二人のそれぞれの専攻からすると、なんかねじれが生じているような。
法哲学者: 現代の憲法判例から、現実に法がどうあるかを論ずる。
憲法学者: 過去の思想家の思想から、法はどうあるべきかを論ずる。
長谷部先生のほうは「法思想史入門」を謳っているので、勝手に「法学入門」的な期待をするのは、こちらのお門違いなんでしょう。
実際、内容お優しくないですし。
○
大屋先生の本に戻って、この本、「裁判は正義の実現手段ではない」とか「正義とは正しさではない」とか、やや煽り気味の章タイトルがついています。
が、『ぼくのかんがえたさいきょうのけんぽう』なノリが苦手な私からすると、とても共感のできる内容でした。
特定の人の、正義と信じるところのものが保護されるわけではないと。
また、憲法判例の記述がメインではありますが、「三権分立」の意味合いについてもしっかり記述されています。
ので、法学者の書く書物が、往々にして司法権を重視しがちなのに対し、立法権についても目配りがされています(行政権は弱め?)。
○
ということで、単に制度の羅列だったり高い法の理念を謳った本ではなく、現に法がどのような機能を果たしているか、をメインで論じている本なので、理解がしやすいと思います。
2018年12月10日
大屋雄裕「裁判の原点 社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)
posted by ウロ at 11:58| Comment(0)
| 法学入門書探訪
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