前田達明「続・民法学の展開 (民法研究 第三巻)」(成文堂2017)
論旨が明確で一貫した記述だから、ではないかと思います。
また、記述の形式が、通常の論文形式のほかに、対話形式だったり、自説への疑問・批判に対してひとつひとつ解答していく、という形式があったりするのも、理解がしやすい要因かもしれません。
いくつかの論文はネットにアップされていて、すでに読んでいましたが、そのときはよく理解できていませんでした。
こうやって連続してよむと、そのときよりは理解できた気がします。
【本書に掲載されている論文含めた、「書斎の窓」(有斐閣)掲載の前田論文】
権威への挑戦(上) 2014.1月号(No.631)
権威への挑戦(下) 2014.3月号(No.632)
続・権威への挑戦 2014.11月号(No.636)
続々・権威への挑戦 法規不適用説VS.証明責任規範説 2015.7月号(No.640)
中国からの手紙2016.1月号(No.643)
引き続き「権威への挑戦」 ―― 主張責任と立証責任 2017.03月号(No.650)
法の解釈(上)2016.09月号(No.647)
法の解釈(下) ―― 言語表明 2016.11月号(No.648)
意思表示とは何か 2017年7月号(No.652)
『新注釈民法(15)債権(8)』を読んで 2017.09月号(No.653)
証明責任論争 2018.5月号(No.657)
反制定法的解釈について 2018.9月号(No.659)
前田達明氏の「権威への挑戦」に対する感想 2014.7月号(No.634) (奥田昌道先生)
○
構成は以下のとおり。
第一章 法解釈方法論
第二章 証明責任論
第三章 ドイツ民法史論
○
第一章は、いわゆる「立法者意思説」という亡霊を召喚しようとするもの。
あの、ご自身で「亡霊」って書いているので。
もちろん、立法者意思に絶対的に拘束される、という主張ではなく。
いきなり自己の価値判断に従った解釈をするのではなく、まずは立法者意思が何かを探求する、で、それが現在において正しくないと判断した場合には、立法者意思に反することを明示した上で解釈をすすめる、という手順をふむと。
で、これらのことは憲法により根拠づけることができると。
○
第二章は、証明責任の分配についての、いわゆる「司法研修所説」(と、それに盲従している学説)に挑戦しようというもの。
研修所説が、主張責任と証明責任の所在を必ず一致させることに対して、前田説では、証明責任を主観的証明責任(証拠提出責任)と客観的証明責任に分解し、主張責任と主観的提出責任の所在は一致するが、客観的証明責任は必ずしもそれらと一致しない、と主張されています。
で、こちらの主張も憲法によって根拠づけられると。
最初に個々の論文を読んでいたときは、私自身も研修所説を当然の前提としていたので、すんなり理解できなかったのですが、複数の論文を通して読むことで、ある程度は理解できた気がします。
ただ、
・主張責任の分配: 民法等の実体要件に忠実に従う
・客観的証明責任の分配: 個々の事案ごとに判断する
までは分かるのですが、「主観的証明責任(証拠提出責任)」が、上の2つとは独立して機能する場面というのを具体的に想像することができませんでした。
主張責任は、主張しないと裁判所に取り上げてもらえない、客観的証明責任は真偽不明になったら不利に判断される、という具体的な効果がそれぞれあるわけです。が、主観的証明責任というのは、どういった効果に結びつくのか。
現行民事訴訟法では、文書提出命令違反の場合の真実擬制(224条)や時機に遅れた攻撃防御方法の却下(157条)のような、「信義則」(2条)を具体化したような制度があるわけで、それ以外に、主観的証明責任というのが働く場面があるのかどうか。
ちなみに、おそらくですけど、実務的には「主張責任の所在=証明責任の所在」というルールは変えずに、前田説が言わんとするところは「事実認定」のレベルで調整するんだろうな、という気がします。
まあしかし、民法学の大家が、こういう権威的な見解にチャレンジするの、読んでいて面白いですね。
○
第三章はざっとしか読めていませんが、当時のドイツ民法において、「パンデクテン体系」なんて人工物を導入できた経緯が書かれています。
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