2019年01月28日

金子宏・中里実「租税法と民法」(有斐閣2018)

 租税法学の最先端の論文が読める、ということで、このシリーズ出版されるたびに買っているんですが、まあ読む余裕がなくって(主に気持ちの問題)。

金子宏・中里実「租税法と民法」(有斐閣2018)

 本当なら、読める余裕ができてから買えばいいんですけど、この手の本は初版以降再版されず、すぐに「マケプレのクレプラ」(アマゾンマーケットプレイスのクレイジープライス)になってしまいます。

 ので、いつか買おう、とかやってられずに、すぐ買わざるを得ない(下の三冊を見給え)。

 大学生のころに書店に当たり前に並んでた、あの本やこの本も、ことごとくそんな惨状。

 「オンデマンド版」がわりあい出るようになってきましたが、値段をみて「うひゃあっ」て声が出る感じの(オデマンのクレプラ?)。

【このシリーズ】
「租税法の基本問題」(有斐閣2007)
「租税法の発展」(有斐閣2010)
「租税法と市場」(有斐閣2014)


 いい加減、頑張って一本だけでも読もう、と思って、本書所収の吉村典久「イェーリングは21世紀日本の租税法を救うことができるか?−純粋借用概念論批判」を読んでみました。

 私が抱いていた「借用概念」という概念に対するモヤモヤ・違和感を明確にしてくれる論文で、読んで良かったです。

 結論だけを私なりに要約すると、借用概念なんて余計な概念を経由せずに、直接、租税法規の文脈・構造・体系及び趣旨・目的から解釈すべき、で、結果借用してると解釈できるのであればそうすればいい(借用概念無用論)、ということになりますかね。
 租税法規を解釈したことの結果として借用しているかどうかが決まるのであって、解釈の入口で固有概念か借用概念かを論ずる必要はない、と。

 全面的にそのとおりだなあ、とは思うのですが、前田達明先生の「法解釈論」に関する論文を最近読んだばかりの私からすると、その解釈のスタートは「立法者意思」だ、とされていないのがやや残念(註に「議会の意図」という文言があるので、そこにそういった意味合いを見出すことができるかもしれませんが)。

前田達明「続・民法学の展開 (民法研究 第三巻)」(成文堂2017)


 極めて真面目な論文なんですが、真面目が故に、言い回しがユニークなところがあると余計目立つ。
 ホッブズ先生の「リヴァイアサン」を引用したときもそうですが、一見真面目ふうなのに・・、といった文章が好みみたいです。

 いくつか引用させていただきます。

151、158、163頁
「なんでもかんでも借用概念」
(これ、3箇所もでてくる。私が「マケプレのクレプラ」とか「なんちゃって同居」みたいな造語を頻繁に使いがちなのと同じですか(違う)。)

156頁
「借用概念論にかかる思考の入り口でチェックを甘くしたつけが、私法上の用語の意味の模索という統一説に基づく借用概念論にかかる思考の出口の方に回ってきているのである。」

163頁
「借用概念は一般私法の概念と同義に解釈すべしと力んでみたとしても、そもそも一般私法の概念自体の意味内容が曖昧若しくは空疎であるとか、あるいは、複数あるということのため、同一に解釈すべき一般私法の概念の意味内容が特定できないということがある。」

165頁
「統一説に基づく伝統的な借用概念論は、概念法学時代の万古不変の私法理論を前提としているかのようであり、その後の利益法学若しくは価値判断法学の思考に基づく私法の発展の可能性を無視しているのかもしれない。」

166頁
「しかし、私法上の概念の内容についてさえ必ずしも一義的なものがないような現在の状況を見る限り、統一説に基づく伝統的な借用概念論を採れば法的安定性は高まるというのはイルージョンのように思われる。」

【なんちゃって法的安定性といえば】
中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)
posted by ウロ at 10:18| Comment(0) | 租税法の教科書
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