関連条文拾ってみるとこんな感じ。
・所得税法 225条1項
「支払の確定した」
・所得税法施行規則 第84条2号
「その年中に支払の確定した報酬等の金額」
・所得税法施行規則 別表第5(8)2
(4)「支払金額」の項には、その年中に支払の確定したものを記載し、支払調書を作成する日においてまだ支払つていないものについては、これを内書すること。
(5)「源泉徴収税額」の項には、その徴収される税額を記載し、支払調書を作成する日においてまだ支払つていないため徴収していない税額があるときは、これを内書すること。
この「支払の確定した」という言い回し、どっちとも読めますよね。
たとえば「月末締め・翌月末日払」の場合、
・発生ベース読み
目的物の受領が完了したので、来月末に支払いをすることが確定したよ。
・支払ベース読み
でも、支払日がくるまでは、実際に支払うかどうかは確定しないよ。
どちらとも読めます。
○
個人的な見解としては、
・原則として支払ベースで計上する。
・ただし、
A 契約上の支払日が月末日で銀行休業日の場合は翌営業日となっている
B 支払期限は年中なのに遅延している
などの場合は、支払金額に含めた上で、調書作成時点でもまだ支払ってないなら内書する
ということかなあと。ネーミングするとしたら、支払「期日」説ですかね。
なお、Aのほうは、いわゆる「たまたま説」からの着想です。
【たまたま説とは】
ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ
○
私の勝手な体感からすると、税理士事務所において、
・経験が浅い人 ⇒支払ベースで集計する
・それなりに経験積んだ人 ⇒発生ベースで集計する
とやっている感じがします。いずれにしても、明確な根拠があってそうしてるということではなく。
最初は、「支払」って書いてあるんだから支払ベースでいいんでしょ、というところから入って、どうやらこれ、個人事業主の人が確定申告のために使ってるらしいぞ、ということで発生ベースで集計してあげるようになる、という流れ。
や、勝手な邪推です。
○
ちなみに、「給与所得」の源泉徴収票は、みんな当たり前に「支払」ベースで集計しています。
(+Bの未払分も。Aのほうは「たまたま説」の記事でも触れましたが、給与の場合、労基法の建前上はありえない)
実際、条文見てみればわかるんですけど、給与のほうもまるっきり同じ「支払の確定した」て文言なんですよね(法226条1項、規93条1項3号、別表第6(1)2(3))。
のに、「報酬等」に関しては見解が別れているという謎の現象。
給与なんて、一連の労働法規で手厚く保護されてたり一般先取特権がついていたりと、普通の報酬債権と比べたら支払いの確実性は高いはず(比べたら、です)。
なんだから、給与が支払日をもって確定というなら、報酬のほうだって支払日まで確定しない、といってもいいような気がします。
○
視点をずらして通達をみてみると、配当とか役員賞与における「支払の確定した日から1年を経過した日」については、「収入の年度帰属」ルールを流用しています。
181−5 法第181条第2項に規定する「支払の確定した日から1年を経過した日」とは、その支払の確定した日(36−4に定める日をいう。)の属する年の翌年の応当日の翌日をいうことに留意する。
183−1 法第183条第2項の規定する「支払の確定した日から1年を経過した日」とは、その支払の確定した日(36−9に定める日をいう。)の属する年の翌年の応当日の翌日をいうことに留意する。
ではあるのですが、「じゃあ報酬も同じだろ」(類推解釈)なのか「書いてないから違うんだろ」(反対解釈)なのか、どうにも決め手がない。
○
あれこれ書きましたが、単なる頭の体操であり条文解釈手習いにすぎなくって、結論的にはどっちかに決めといてレベルの話です。
実務的には、正しいかはさておき、やはり個人事業主さんの便宜を慮って発生ベースで計上するのが、波風立たなくていいのでしょうかね。
【追補】
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について【追補】
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発生ベースで作成した場合、まだ源泉徴収義務が発生していない(対税務署への債務が確定していない)源泉所得税を記載することになってしまい、違和感があります。