2019年04月15日

岡村忠生ほか「租税法 (有斐閣アルマ) 」(有斐閣2017)

 ※2020年に「第2版」が出ました。以下は「初版」の書評。

 コンパクトな租税法の教科書。
 所得税、法人税、消費税、租税手続法をカバーしています。



 岡村忠生、酒井貴子、田中晶国「租税法 (有斐閣アルマ) 」(有斐閣2020)

【租税法の教科書もの】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
中里実ほか『租税法概説 第3版』(有斐閣2018)
金子宏『租税法 第23版』(弘文堂2019)

 独学に向いているか、という観点からすると、残念ながら向いていない。
 凝縮した記述が多めなので。

 逆に、実務をやっている人が、知識の整理に使うにはいい感じです。
 記述密度が高めでかなり行間を読み込む必要があるので、自分の知識のあやふやなところを再確認できます。


 で、行間読み込みしてて、ちょっと理解ができなかった箇所があったのでメモ。

 「配当(税額)控除」についての記述(108頁)。

 「配当税額控除(配当控除)は、法人・個人の二重課税を緩和する措置であり、きわめて簡便な株主税額控除(インピュテーション)と考えられる。配当所得のうち、日本の法人税の対象となる利益から支払われたとみられるものは、その10%または5%(証券投資信託では、利子やキャピタル・ゲインを含むため、5%または2.5%)を、税額控除することができる(92条)。
 税額控除の率が変わるのは、そうしなければ高い税率を適用される者ほど有利になるためである。」


 配当控除についての説明、これだけです。
 これだけ読んで内容理解できますか?

 初学者からすれば、

・なんで二重課税になるの?
・なにインピュテーションて?
・簡便て何と比べて?
・その10%の「その」ってどの?
・法人税の対象となる利益から支払われたものって?(税引前or税引後?)
・利子等を含むとなんで控除率かわるの?
・税額控除の率が変わるって、「10%または5%」と「5%または2.5%」の間のことをいっているの?、それとも、10%⇔5%、5%⇔2.5%それぞれの間のことをいっているの?

て感じで、頭の中が「???」となるんじゃないかと(というか、ここまで具体的な疑問が浮かぶならまだましで、実際は、ただただよく分からない、てなると思う)。

 当然、我々実務家からすれば、そのへんは自分の保有知識で補いながら読んでいくわけですが、初学者には難しいですよね。

 こういう「なぜ・なに」がしっかり書いている本じゃないと、独学には向きません。

 それはそれとして、最後の一文の「有利」っていうの、どういう事例を想定しているのか。

 具体例をあげてみますけど、

No.2260 所得税の税率
No.1250 配当所得があるとき(配当控除)

 配当所得(剰余金の配当)200万円で、それを含む課税総所得が
  A 2000万円
  B 1000万円

の場合に、所得税額(総合課税)がどうなるかというと、
(分離でいいじゃんとか住民税がどうとか、そういう事情は諸々捨象します)

A
 所得税額  5,204,000円(限界税率40%)
 配当控除  ▲100,000円(200万円×5%
 納付税額  5,104,000円(税負担率25.52.%)

B 
 所得税額  1,764,000円(限界税率33%)
 配当控除  ▲200,000円(200万円×10%
 納付税額  1,564,000円(税負担率15.64%)

となりますよね(しかし超過累進課税、あらためて凄いっすね)。

 当然、Aが「高い税率を適用される者」なんですが、仮に適用控除率が「10%」になったとして、どのへんが「有利」になるんですかね。

A’
 所得税額  5,204,000円(限界税率40%)
 配当控除  ▲200,000円(200万円×10%
 納付税額  5,004,000円(税負担率25.02%)

 確かに、もし配当控除額の計算が、「税額」そのものにパーセントかけるようになっていたら、有利かもね、という気もします。

A”
 所得税額  5,204,000円(限界税率40%)
 配当控除  ▲520,400円5,204,000円×10%
 納付税額  4,683,600円(税負担率23.42%)

B”
 所得税額  1,764,000円(限界税率33%)
 配当控除  ▲176,400円1,764,000円×10%)
 納付税額  1,587,600円(税負担率15.88%)

 だから、控除率下げるんだと。これならまあ分からないでもない。
 でも、実際は「配当所得」にパーセントをかけるだけなので、別に有利ってほどでも。

 それとも、法人税率より所得税の限界税率が高い人でも控除受けられる一方で、逆に低い人が還付してもらえないのはずるい、ということですかね。
 おそらく、法人と個人の所得と通算してみたときに、同じ控除率のままだと限界税率が高い人が減らしすぎになってしまう、ということだと思いますが、この一文からそこまで読み取るの無理でしょう。

 この具体例も書いてみます。

・法人所得 1000万円 法人税率30%(単純税率とします)
・税引後利益を全額配当したとする。
・配当除く課税総所得(所得控除は無視)
 C 4000万円
 D    0円

法人
 法人所得  10,000,000円
 法人税    3,000,000円(30%)
 税引後利益 7,000,000円

ここまではCDとも共通です。

C
 配当所得  7,000,000円
  他所得 40,000,000円
 課税所得 47,000,000円
  所得税 16,354,000円(限界税率45%)
 配当控除   700,000円(700万円×10%)
 差引税額 15,654,000円

 合算税額 18,654,000円(3,000,000円+15,654,000円)

 合算所得 50,000,000円(10,000,000円+40,000,000円)
 理論税額 17,704,000円(限界税率45%)
  過納付   950,000円

D
 配当所得  7,000,000円
  他所得      0円
 課税所得  7,000,000円
  所得税   974,000円(限界税率23%)
 配当控除   700,000円(700万円×10%)
 差引税額   274,000円

 合算税額  3,274,000円(3,000,000円+274,000円)

 合算所得 10,000,000円(10,000,000円+0円)
 理論税額  1,764,000円(限界税率33%)
  過納付  1,510,000円

 と、あるべき税額(理論税額)と比べたときに、Dのほうが納めすぎになっているということですね。Cも過納付ではあるんですが、Dは理論税額との比率がすごいことに(85.6%増)。

 ので、控除率を5%にすることで(控除額▲35万円)、Cの過納付が130万円になって多少は緩和されると(が、この例だと大したことない)。

 ここの例では法人税の税率を単純化してしまいましたが、実際には資本金とか所得で法人税率も変わってくるので、さらにややこしいことになるはずです。
 また、法人と個人の所得を通算する、といっても、法人が上場会社なのか同族会社なのかでも、利益状況が違うように思いますし。

 今回はブログネタ用に、長々と具体例を展開してみましたが、実際にはすべての文章について、逐一ここまで考えているわけではないです。
 基本的には「たぶんこういうことね。」くらいの理解で読みすすめていきます(すぐ上の「ややこしいことになるはず」と書いたのがそういうノリ)。

 が、自分の理解があっているかどうかあやふやな場合には、こうやって具体例書いて確認してみるわけです。
 実際、私が最初に頭に思い浮かんだABの例は正しくなかったですし。

 にしても、ここまでの具体例を思い浮かべなければこの文章を理解できないわけで、初学者がこれを教科書として使うの、なかなかハード。


 消費税の章(209頁〜)。

「コンビニ」(209頁)
「レストラン」(209頁)
ケーキ屋さん」(221頁)
「牛乳販売業者」(225頁)
「美容院」(242頁)

 明らかに「ケーキ屋さん」だけに思い入れが出ちゃっている。
 せめて、「牛乳販売業者」は「牛乳屋さん」でしょう。しかし「牛乳販売業者」て・・。



カメントツ こぐまのケーキ屋さん(小学館2018)
カメントツ こぐまのケーキ屋さん そのに (小学館2018)
カメントツ こぐまのケーキ屋さん そのさん(小学館2018)
カメントツ こぐまのケーキ屋さん そのよん(小学館2019)

 確かにこの子見たら、「おい、ケーキ販売業者!」と言えないのは理解できますが。


 この本、最初に書いたとおり、基本的に行間読み込み系の簡潔な記述なんですが、国際絡みの消費税の箇所だけが、異様に詳しめ(消費税の章50頁のうち20頁がそれ)。

 単なる制度の記述ではなく、なぜそういうルールになっているのか、相当丁寧説明してくれています。
 他の箇所からは、思いっきり浮いていますが。

 この箇所読んで、川口恭弘先生の金融商品取引法の入門書と同じノリだな、と感じました。

川口恭弘『金融商品取引法への誘い』(有斐閣2018)

 ので、論点絞って、これと同じノリで論点本みたいのを書いてくれれば、ぜひ読みたいところ。


 「内外判定基準の役割」という表をまるまる1ページつかって載せているんですが(249頁)、この表の意味がいまいちよくわかりません。

 たとえば、「資産の譲渡等(2条1項8号)」とか「電気通信利用役務の提供(同項8号の3)」は判定の要否が『否』となっていて、他方で、「課税の対象(4条1項)」とか「納税義務(5条1項)」は『要』となっています。

 でも「電気通信利用役務の提供」だったら、役務の提供を受ける者の事業所の所在地で内外判定、てやるわけですけど、この表では『否』って書いてあるわけです。

 これはどういうことかと。

 もしかすると、それぞれ用語の定義の中に「国内において」が含まれている(built-in)かどうか、という趣旨なのかもしれません。
 が、用語ごとに分断して判定の要否並べておくって、どういう場面で必要になるんでしょうか。私にはわかりませんでした。

 何かしら、私の不勉強なんでしょう。
posted by ウロ at 10:12| Comment(0) | 租税法の教科書
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