この本、今までの記事の中でもおすすめしていましたが、やっと第2版をひと通り読み通せたので、正面から扱ってみます。
渡辺徹也「スタンダード法人税法 第3版」(弘文堂2023)
【租税法の教科書イジりの旅】
アクティブラーニング租税法【入門編】
岡村忠生ほか「租税法
(有斐閣アルマ) 」(有斐閣2017)
中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
○
私が租税法の「教科書」に求めていることは、
・前提知識無しでも理解できること
・具体例(数値例)が記載してあること
といったあたり。
そういう評価軸からすると、この本はベストです。
なぜそのような制度があるのか、なぜそのような要件が課されているのか、といった点をしっかり記載してくれています。
また、数値を用いた説明も多めなので、具体的に理解することができます。
「みなし配当」のところとか、数字と図解を交えての説明なので、「資本金等の金額・利益積立金額」の分け方とか、イメージがつかみやすいと思います。
類書だと、単に、掛け算割り算の計算式だけ書いて終わり、みたいのが多くて、なんでそういう計算するの、ということがわかりにくかったりしますし。
ちなみに、この数値で説明する、については、佐藤英明先生の「所得税法」の教科書がさらに徹底しています。
佐藤英明「スタンダード所得税法 第4版」(弘文堂2024)
ということで、「法人税法」の勉強としてはもちろんですけど、その他の税目を自分で勉強するにあたっても、こういう観点から分析していけばいいのか、という意味で参考になると思います。
○
と、全力で褒めておいてから、以下、若干のツッコミ。
1
「目次」がざっくりすぎで使いづらいです。
この本、本文が「Lecture」(基本)と「Next Step」(応用・発展)と別れているんですが、「Next Step」の中にもいろんな項目が含まれています。その中には横断的な内容もあるので、その記載箇所以外でも参照すべき項目だったりもします。
にもかかわらず、目次には「Next Step」としか書かれていません。ので、そこにどんな項目が含まれているかが分からない。
なもので、あとから探すのも大変。
ご丁寧に、目次の全部の箇所に「Next Step」とだけ書かれているの、見ているうちに、シュールレアリズムを感じずにはいられない。
2
で、この「Next Step」、本文よりフォントを落として記述しているんですが、結構な長さのものもあります。
これを延々と読んでいくのかなりきつい。内容的にも込み入った話がでてきますし。
この感じ、どこかで読んだな、と思い出したのが、佐久間毅先生の『民法の基礎』。
こちらの本も優れた教科書なんですが、「発展学習」「補論」と題した項目のフォントが極々小(極悪小)。
ページ数(=お値段)を圧縮するための手段なのかもしれませんが、極々小フォントが数ページにわたって続くの、読んでいて苦しくなってきます。
佐久間毅「民法の基礎1 総則 第5版」(有斐閣2020)
佐久間毅「民法の基礎2 物権 第3版」(有斐閣2023)
3
数値例はあるんですが、「仕訳」までは書いてないです。
でもたとえば、無償取引、低額・高額取引のところとかグループ法人税制のところなんかは、仕訳を書いたほうが圧倒的に理解しやすいと思うんです。
まあ、そうすると簿記の説明もしなきゃいけないし、ということでボリューム増々になってしまう、てことですかね。
4
中里実ほか『租税法概説 第4版』(有斐閣2021)
この記事の中で、適格要件のうち「支配関係継続要件」の「見込み」の評価についてツッコミを入れました。
ので、渡辺先生の本ではどう書いてあるか探してみたんですけど、特に評価までは書いていませんでした。
というか、「共同事業」の場合だけにこの要件が書いてあって、「完全支配関係」「支配関係」の場合の要件としては書かれていません(249頁)。
なんでそういう記述になるかを邪推すると、法令の構成が、
法: 親子関係+政令で定める場合
令: 親子関係+兄弟関係(継続要件必要)
となっていて、継続要件が必要な「兄弟関係」の場合が施行令にしか書いてないから、なんでしょうね、たぶん。
でも、他の箇所ではしっかり施行令含めた記述をしているのに、なんでここだけ施行令の内容を削ったのかがよくわかりません。
しかも、あとのほうには、適格合併後に適格合併が見込まれる場合のこととか、分割の場合に分割法人側の継続保有は要求されなくなったとか、継続要件が「緩和」されていることには触れられています。
のに、原則としての「継続保有要件」が正面から書かれていないわけです。
なんか、私の見落としですか。
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