2001年に初版が出版されてから、もう「第13版」だそうで。
三木義一「よくわかる税法入門 第18版」(有斐閣2024)
私も初期のころに読んだきりで、まあわかりやすい普通の入門書だったかな、程度の認識でした。
久しぶりに読んでみようかと思いつつ、特にブログのネタにすることもないだろうなと軽く読みはじめたら。
まさかのアクティブ・ラーニング系!
【アクティブ・ラーニング系とは】
後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)
最初お気軽な気持ちで読んでいたのが、途中から「アレじゃないですか、あのアレ。」となって、気持ちを切り替えて読み進めざるを得なくなる、例の展開。
まずは端緒から。
○
この本、国税庁とか内閣府、財務省などのサイトから、統計情報とか図表とか、まあまあの数の資料を転記しています。
で、親切にも「URL」を記載してくれているんですが、古いリンクのままで更新されていないものがいくつか(全部なんてチェックしていられないので、控え目に「いくつか」と言っているだけで、実際どれくらいの数かは分かりませんよ)。
たぶん、最初に載っけたきり、改訂時に見直ししていないんでしょうね。
まあ、いまどきURL手打ちするやつなんていねえよ、ということで誰も気がついていないんでしょうけども。
が、私、こういうのに無駄に鼻が利く。
国税庁のサイト、最近リニューアルしてたけどちゃんと反映してるんだろうか、とか、昔の税調の答申なんてもう内閣府のサイトに残ってないんじゃないの、みたいな端緒から、探ってみたら案の定、という流れ。
(ちなみに、上の記事の本に対するツッコミも、そういう鼻の利かせ方から始まっています。)
で、こういうこまいチェックが抜けてる本て、大抵ほかにも何かしらある、という推測がつよーく働くわけです(そんなつもりなかったので、帯を読まずに捨ててしまったのは失敗)。
以下、そういう穿った見方からのツッコミのいくつかを。
○
初版はしがき
「この本を読んだ方が、税法の中に数式ではなく、人々の生活の息吹や社会の動きを感じ取って、税法の面白さを少しでも理解してくれたら」
なぜか数式に否定的な見方をしています。
ここは捉え方の違い、といってしまえばそれまでですが、わたし個人は、数式の中にこそ税法の中身が詰まっているのだと感じています。
この本の捉え方:
税法 ⇒ 人々の生活の息吹や社会の動き (数式ではなく)
わたしの捉え方:
税法 ⇒ 数式 ⇒ 人々の生活の息吹や社会の動き
たとえば、自己株式の取得とか有償減資するときに、資本等の金額・利益積立金額をそれぞれいくら減らすかの計算式ありますよね(みなし配当)。
あの計算式に数字をいろいろ入れてみることで、法人税法が「元手」と「利益」をどのように捉えているか、が理解できるじゃないですか。
抽象的に文章であれこれ書き綴るよりも、ずっと理解が早くなるはず。
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
この記事でも書いたんですが、数式の扱いがうすい本では、税法について充分な理解が進まないように思います(一応フォローすると、この本自体はそこそこ数値例がでてきます)。
もし、上の引用文の趣旨が「単に数式を暗記するだけでなく、その背後にある考え方をしっかり理解しなさいよ。」ということであれば、それはおっしゃる通りだと思います。
でも、そういう趣旨だというならば、「数式ではなく」なんて否定的な表現ではなく、「数式の中にある」とか「数式の背後にある」と書くべきでなんでしょうね。
【この記述イジり】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)
浅妻章如「ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか」(中央経済社2020)
24頁
「民法の場合は、当事者が原則として契約の自由を行使して、紛争が生じたときに裁判所に判断してもらう規範(裁判規範)ですから、裁判官が合理的に判断できればいいかもしれません。しかし、税法は税務署と納税者に直接向けられていて、両者ともに税法に定められたとおりにしなければならず(行為規範)、しかも、納税者は申告をしなければならないのです。」
う〜ん、こういう切り分け方どうなんだろう?
これは批判とかではなく、何かしっくりこないだけです。
(田中二郎先生の体系書が出どころっぽい)
田中二郎「租税法(第3版)」(有斐閣1990)
そして、この記述を起点にして、法規範についての記事を書くことに。
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
145頁
「配偶者控除の本質は専業主婦の最低生活費控除だからです。」
私のほうからはコメントいたしませんが、この本にこう書いてありました。
156頁
「個人所得課税の基本的な仕組み(イメージ)」という図表が載っています。
この図表の中で、「税額控除」に矢印が向かってて、「税額控除後の税額の一定割合を控除」と書いてあります。
最初これ、なんのこっちゃ?て思ったんですよね。
そして「あ!」と思い出して。
「定率減税」のことかー!!! 2006年までで廃止されたアイツ!
こんな子いたの、すっかり忘れてたわ(ごめんね)。
もしかしたら『昔の税調の図をいただいてきただけなんですー。』て、言うのかもしれません。
が、残念ながら「一部加筆修正」て書いてあって、実際、もとの図表に記載してあった「定率減税」の文字はしっかり削っているんですよね。
なぜわざわざ内容だけ残す?
元カレ・元カノのメール残しとく的な、連絡先は消したのに。
まさか復活(復縁)するつもりですか?
175頁
「資料14−4 法人税率の推移」
「18(注)」「15(注)」の(注)は何や! 注の中身がどこにも書いてないぞ!
189頁
「この『グループ法人税制』とは、従来の連結納税制度適用企業グループを含む100%支配企業グループのすべてを対象に、企業グループの内部取引の譲渡損益の課税繰延べ等を可能にする制度です。」
いいえ、強制です〜。
完全支配関係を選択すれば(←これが任意)繰り延べできるよ、という趣旨かもしれませんが、まあ誤解を招く表現。
「可能にする」って、あたかも繰延べしてもしなくてもどっちでもいい、みたいに読めてしまう。
「できる規定」なのか「しなさい規定」なのかの区別って、税法だとかなり神経質にならざるをえないところなんですが、こういう表現みると、そのへんに対する無頓着を感じてしまう。
196頁
「【第38条】(法人税額等の損金不算入)法人税は、法人の所得に対して課されるものです。これは、法人が株主に対して配当をすることと同じく、法人の所得の処分と位置づけられます。ですから、法人税を納付することは、所得稼得活動ではなく所得の処分行為であり、納付された法人税額は損金に算入されないのです。」
これ、理由付けとして成り立ってます?
私にはよく理解できませんでした。
しかもこの「所得課税」を軸にした説明だと、住民税均等割が損金不算入だったり、事業税所得割が損金算入な理由が説明できないですよね。
197頁
「『収益認識に関する会計基準』及び『収益認識に関する会計基準の適用指針』はこれまでの法人税実務と相容れないものとなっていました。」
そういうことでしたっけ?
『法人税法の側では、これまでの確定主義・実現主義ルールを明確にした上で、22条4項経由で取り込んじゃまずい会計基準についてだけ別段の定めを設けた』というのが私の理解だったんですけど、相容れないものとなっていたんですか、そうでしたか。
このへんはがっつり勉強していないので、私の認識不足なんでしょう。
209頁
「相続を禁止するなら、当然生前贈与も禁止しなければいけないわよね。」
なぜそうなる???
『死後の処分は禁止するので生きているうちに処分しときなよ』という制度設計だってありうるわけですよね。
決めつけの角度がきつすぎる。
223頁
「相続が争続・争族といわれるようにトラブルが多く、個人主義化している現実と大きな隔たりができてしまっています。こうした観点から相続税を見直してみると、面白い論点がたくさん出てくるはずです。」
「トラブルが多く」と書いたすぐあとに、「面白い」と書ける勇気。
ちょっと怖いかも。
226頁
「不動産鑑定士さんに頼んで、実際の時価を調べて、そちらの方が安ければ、その鑑定評価額で申告すればいいのよ。」
や、そんな簡単に鑑定評価が通るなら、皆さん苦労しませんて。
228頁
「時価を取引価格として課税すると事業承継が困難になります。そこで、事業に関する資産の評価額を減額するなどして、一定の条件の下で負担を軽くする事業承継税制があります(措法70条の7等参照)。」
一般に「事業承継税制」て言われている制度は、財産評価の特例じゃなしに、納税猶予の制度じゃなかったでしたっけ。
これは「小規模宅地等の特例」(措法69条の4)のことを言っているんですか?
引用条文違うけども。
337頁
「資料27-4のように、申告所得税だけで、年間約1万8000件の重加算税処分がある」
この資料の中のどこにも、この数字出てきません。
たぶんですけどこれ、前年の件数じゃないの?資料を新しいのに差し替えたのに、本文がそのままではないかと。
最初に書いたとおりリンク切れだけならまだしも、資料と本文が対応していないところもあるわけです。
340頁
「所得税を脱税している場合には市町村民税も脱税しているので」
都道府県民税は?
個人の場合は一緒に徴収だからかもしれませんが、まあ不正確。
素直に「住民税」って書けばいいのに。
○
以上、専門書が売れない売れないと嘆かれる昨今、こういう感じの書籍出版するのってどうなんですかね。
しかも、初版ならともかく「第13版」まで出ているのにですよ。逆に、今まで誰にも指摘されずにスルーできていたのが不思議。
法学研究書考 〜部門別損益分析論
手間ひまかけて丁寧に作ったって大して売れ行きに影響ないんだから、さっくし作って教科書採用活動に精力を注ぐ、そういう風潮なのかどうか。
がんがん改訂していけば、先輩のお下がり貰う、も防げますしね。
お前らみたいな重隅系のマニア(重箱の隅をつつく系)は、マケプレのクレプラ(アマゾンマーケットプレイスのクレイジープライス)で消耗しながら絶版本でも買ってれば、と言われている気がして悲しいわ(熱い被害妄想)。
しかしまあ、当時いい本だと思っていたのに、自分が勉強して戻ってきたらツッコミどころ満載だった、という経験、これと一緒じゃないですかやだあ。
小林秀之 「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)
これとはまったく逆に、団藤重光先生の『法学の基礎』のように、勉強して戻ってくるたびに新たな発見がある本もあるわけです。
団藤重光『法学の基礎』(有斐閣2007)
ということで、いい本探しの旅はいつまでも終わらない。
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