2019年06月03日

判例の機能的考察(タイトル倒れ)

 松澤伸先生の著書を読んで、そして記事を書いて、さて実務へ戻ろう、と思ったんです。
 私も実務家なわけですし、そもそも刑法学に深入りする必要はないはずで。

松澤伸「機能主義刑法学の理論―デンマーク刑法学の思想」(信山社2001)

 が、そもそも「判例」ってなんだろうか、という思いが、急にぶり返してきてしまいまして。
 通り一遍の説明きいても、わかったようなわからないような。


 ということで、以下のような本を読んでみよう、ということになりました。
 でもまあ、税理士としても、当然税務判例を使う必要があるわけで、これはセーフでしょう。

中野次雄ほか「判例とその読み方」(有斐閣2009)
池田眞朗ほか「判例学習のAtoZ」(有斐閣2010)
藤田宙靖「最高裁回想録 学者判事の七年半」(有斐閣2012)
藤田宙靖「裁判と法律学 「最高裁回想録」補遺」(有斐閣2016)
奥田昌道「紛争解決と規範創造 最高裁判所で学んだこと,感じたこと」(有斐閣2009)


 まだまだ、道半ばなので、現状思ったことなどをメモ。
 念のため、上記本に書いてあることでは決してなくって、むしろ書かれていることに対して疑問に思ったことがメイン。


 「学生は判例を一般化しがち」みたいな記述をしばしばみかけるが、それどう考えても教える側の問題。
 「判例は○○説をとっている」とか、平気で教科書に書くじゃん。
 しかも、最高裁と地裁、高裁を並列的に書いたりしてるものもあるし。
 判決・判例・裁判例とか、明確なポリシーに基づいて言葉の使い分けをしているのか、怪しいのもあるし。


 実定法上「判例」というのは、あくまでも、上告理由(刑事訴訟法405条)、上告受理事由(民事訴訟法318条)としてでてくるにすぎない。
 抽象的な「判例」なる概念が存在するわけではない。

 そうすると、実定法上の記述としては、
  ・判決Aがでた時点では、それが判例であるかどうかは確定しない
  ・後の判決Bで、上告理由・上告受理事由として認められてはじめて、
   判決Aが判例だったことに確定する
という言い方が、正確な表現になりそう。
 そうはいっても、実務家としては、判決Aが出た時点でその射程範囲を検討する必要に迫られる。

 実定法上、判例がそういうものなのだとしたら、一般に出回っている『判例集』といったタイトルの書籍は、不正確な表現。
 後の判決で判例扱いされたものだけが正式な判例であって、まだどの判決にも引用されていないものは、「判例になりうるもの」という言い方をしたほうがいいのでは。

 もちろん、判決Aが出た時点でそれが「判例」であることは確定しており、判決Bはそれを確認しただけ、という見方できる。
 が、そうはいっても、どの判決にも引用されていない時点では、判例としての内実は不十分なものであって、判決B、C、D〜と関連する判決が積み重なっていくことで、密度が詰まっていくものではないかと。


 判例に対する一般的な見方としては、
 ・日本は、英米のような「判例法主義」ではなく独仏のような「制定法主義」である
 ・判例は「法源」ではない
 ・判例には「事実上の」拘束力はあるが「法的な」拘束力はない
というところ。

 が、上記のとおり、実定法上、上告・上告受理制度の中に判例違反が組み込まれている。
 のだから、ナントカ主義のような抽象的な物言いではなく、実定法上の制度に沿った説明をすべきではないのか。


 判決を結論命題と理由付け命題に区別し、判例となるのは結論命題だけで、理由付け命題は判例ではないという見解がある。
 しかし、最高裁判決の中には、理由付け命題も判例として扱っているものがある。

 そうすると、この区分は最高裁の実態とは一致していない。
 少なくとも、最高裁自身が、判決を出す際に、ここまでは結論命題だから判例、ここからは理由付け命題だから判例じゃない、などと明言したことはない。

 ただし、「最高裁」といっても、あくまでもその時々の裁判体が、これは判例として使う、これは事案が違う、などと個別に判断していった結果の集積にすぎない。
 ので、最高裁が判例をどのように捉えているかを一般論として抽出するのは、永遠に不可能かもしれない。

 実務家としては、結論命題とか理由付け命題とかにかかわらず、最高裁判決の記述すべてが判例になりうるものだ、と把握しておいた上で、
 ア 記述が抽象的な場合
   射程範囲は広い
   ただし、相応しくない事案が増えるに従って、規範が精緻化していく余地あり。
 イ 記述が具体的な場合
   射程範囲は狭い
   ピッタリの事案にはその規範を使わざるをえない
   それ以外の事案には、事案が似てるといって使うか、事案が違うといって使わないか
   どちらもありうる
と捉えておけばいいのでは。

 イメージとしては、
  ア 攻撃力は低いが射程が広い装備・魔法・スキル
と 
  イ 攻撃力は高いが射程が短い装備・魔法・スキル
をそれぞれ思い入れのあるゲームで思い浮かべてもらえれば、いいと思う。

 より精緻に分析するのであれば、
  ・攻撃力
  ・射程範囲
だけでなく、 
  ・重量
  ・サイズ
  ・連射速度
  ・弾速
  ・装填数
  ・再装填速度
なども数値化してみよう(GUNでの比喩例)。


 以上、さしあたり思ったことを整理してみました。
 が、これ以上すすんでも、おそらくドツボに嵌りかけて、どこかで途中下車すると思う。

【税務によせた判例理論の検討】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)

【参考条文】
憲法 第七十六条
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

刑事訴訟法 第四百五条
 高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。

民事訴訟法 第三百十八条(上告受理の申立て)
1 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。

裁判所法 第四条(上級審の裁判の拘束力)
 上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。
posted by ウロ at 12:07| Comment(0) | 基礎法学
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