法解釈論的には、独禁法21条が主たる対象、ということには一応なります。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第21条
この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。
白石忠志「技術と競争の法的構造」(有斐閣1994)
で、例によって、私個人の業務には関わりがないのですが、頭のいい人の鮮やかな分析を読むのは面白いよね、ということで読んでみました。
【身の丈に合わない研究書を読む所作について】
法学研究書考 〜部門別損益分析論
○
この手の研究書、私の能力が追いつかないこともあって、註を読み飛ばしてしまいがちなところ。
が、ちらっと目に入った註の記述で気になるところを見つけてしまい、註もしっかり読まざるを得ないことに。
本文の内容については、門外漢の私が評価できるものではないです。
ということで、註の中でいいなと思った記述を引用したうえで、気に入ったフレーズを摘示させていただきます。
【これらと同じノリ】
ホッブズ『リヴァイアサン』 〜彼の設定厨。
金子宏・中里実『租税法と民法』(有斐閣2018)
ミシェル・トロペール(南野森訳)「リアリズムの法解釈理論」(勁草書房2013)
○
10頁
筆者の感覚では、独禁法をめぐる制作を論じる者の多くは、自らが信じる「私家版独禁法像」に基づいて自説を展開しているにすぎず、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」の条文すら丹念に読んだことがないのではないかと思われる。
⇒私家版独禁法像
22頁
結局この点は、「本来的行使」を適用除外としながら、「本来的行使」であっても行為者に「独占の意図、目的」があれば独禁法を適用可能とする独自の見解を根拠づけるための場当たり的論理にすぎないということであろう。
⇒場当たり的論理
23頁
○○は、知的財産権の濫用は権利の社会的経済的目的に照らして判断されるもので、すべての競争抑圧的な行為を濫用と性格づけることはできないとするが、根拠を明示しない独自の解釈論であるにすぎない。
⇒根拠を明示しない独自の解釈論
24頁
旧不競法6条の削除は、政策の変化を意味しているのではなく、同条所掲の知的財産法の権利行使を絶対視する者が二度と出ないようにするための措置であるということであろう。
⇒二度と出ないようにするための措置
37頁
以上の論述からわかるように、「独禁法」なる語は、競争的規整の象徴として用いられる場合と、独禁法という法律そのものを指す語(公取委の縄張りを表す語)として用いられる場合とがある。この区別を明確に認識しないまま「☆☆と独禁法」なる問題のたて方をすることが、同床にいて異夢を見るさまざまな論者による複雑怪奇な議論の混乱を招いていることは想像に難くないであろう。
⇒同床にいて異夢を見るさまざまな論者による複雑怪奇な議論の混乱
46頁
経済法研究者の多くが、第二章第一節第一款で見たように排他権神聖視の傾向をとりながら、本章に示した規整の傾向に特に異論を唱えていないのも、複数の事業者による排他的利用の場合には当該論者の頭の中での排他権の神聖度が低減するからであるのかもしれない。
⇒論者の頭の中での排他権の神聖度が低減する
84頁
essential facility理論の日本語訳としてはさまざまなものが考えられるが、辞書的直訳である「不可欠な施設」という訳が適切でない以上、いかなる訳語をひねり出してもそれは当該論者独自の訳とならざるを得ない。訳語の見本市を開いても仕方がないので、本書ではあえて訳を付さないことにする。
⇒訳語の見本市を開いても仕方がない
114頁
なお、これらの概念の名称は文献によってさまざまであり、混乱している。同じ概念を違う名称で呼んだり、違う概念を同じ名称で呼んだりすることが少なくない。
⇒同じ概念を違う名称で呼んだり、違う概念を同じ名称で呼んだり
122頁
これらの論考においては「技術革新の効率性」なる語が用いられている。この語は本来、将来における経済的厚生を指すにすぎず、どのような場合にそれが増大するかについては中立的な色彩をもっているはずであるが、実際には、現時点での競争がそれを増大させるという論者の信念が注入されていることが少なくないことに注意する必要がある。
⇒論者の信念が注入されている
159頁
なお、競争者被害型抱き合わせについて「自由な競争の侵害」の観点から「公正競争阻害性」を想起することに批判的な主張も根強く、最近では○○がそのような主張をおこなっている。このような反応があることは白石〔註(341)〕においてすでに予測済みのことであり、したがって○○への返答としては白石〔註(341)〕をもってすれば足りるのであるが、その論法があまりにも予測どおりの典型的な反応であるだけに、ここで簡単に検討しておくことがむしろ後学のためになろう。
⇒あまりにも予測どおりの典型的な反応
166頁
この種の主張に対する常套的反論として、かりに競争者排除が成功して独占状態が形成されても、そのときに新規参入や再参入が起こるから問題はない、というものがある。
⇒常套的反論
166頁
略奪的価格設定の場合でも、参入障壁がまったくないとすることは非現実的な空理空論に近いであろう。
⇒非現実的な空理空論
166頁
第四章第五節では、経済的厚生最大化論に対する外在的反論と内在的反論とを分けて紹介したが、本文のように見ると、外在的に反論しても、内在的に反論しても、結論はほぼ変わらないということになる。いずれにしても結論が同じとなるということについては、偶然であるというよりも、むしろそのことがこの解釈の正統性を増幅させていると理解するのがよいのではないかと思われる。
⇒正統性を増幅させている
167頁
なお、「有効な牽制力ある競争者」の有無を価格・品質の支配の有無に結びつける考え方は、八幡富士事件同意審決で明確に示されたが、これに対しては批判が多い。しかし、この批判は、批判者の主観においてどのように考えられているかはともかく、これを冷静に検討するなら、「有効な牽制力ある競争者」という一般論への批判であるというよりは、その一般論の当該事案へのあてはめへの批判であるにすぎないと理解できるのではないかと思われる。
⇒冷静に検討するなら
177頁
ともあれ、ここで問題とするべきは、○○に垣間見える思考枠組み、つまり、「競争秩序維持」とは異なる「政策」なるものを脇に追いやり、臭いものには蓋をしたうえで、あくまで「競争秩序維持」を全面に押し出そうとする思考枠組みであろう(この種の思考枠組みは、本章第二章で取り上げた独善的な「悪しき独禁法中心主義」と根底でつながっているものと思われる)。しかし、公取委が決して取り上げないという事案が定型的に存在するなら、そのような「政策」を「競争秩序維持」に加味し、違反の範囲を縮小して提示するのが経済法研究者の責務ではないのであろうか。決して取り上げられない事案を含んだままで基準の明確性を標榜することに、どれほどの意味があろうか。
⇒脇に追いやり、臭いものには蓋をしたうえで
177頁
「競争の実質的制限」ないし「公共の利益に反して」のレベルでの違反範囲の縮小に対する右のような過剰反応は、「公正競争阻害性」のレベルでの縮小解釈に特に異論が出ないことと顕著な対照をなしており、「競争の実質的制限」ないし「公共の利益に反して」に関する激しい論争の落とし物であると位置づけることができよう(いわば、論争参加者の「意地」)。この事態を見るとき、論争に参加した世代と論争が昔話にすぎない世代との間に断層があるとの指摘がますます説得的となる。
⇒激しい論争の落とし物
⇒論争参加者の「意地」
182頁
「独禁法違反行為の私法的効力」と呼ばれる論点において有効説や折衷説が唱えられてきたことには、註(395)で見たような経済法研究者の非現実的解釈態度があずかる部分も少なからずあるのではないかと思われる。すなわち、独禁法違反(ないし下請法違反)か否かの判断基準が現実離れしているため、民事裁判官が本能的にそれを受け付けなかった例が、ないとはいえないであろう。
⇒非現実的解釈態度
○
なんか
このブログでも、イジり系の記事が結構ありますが、こういった洗練された表現を使いこなせるようになれたらいいなと。
なお、この本、とても面白いと思うものの、オンデマンド版になってボリュームとお値段が相当アンバランスな状態に(マケプレのクレプラよりはまともですが)。なので、万人にお薦めしにくいところ。
もちろん、本の価値をボリュームで図るな!と個人的に思うものの、それを無闇にひとに薦められるとかというと、さすがにねえ。
ので、「読む」のは全力でお薦めしつつ、「買う」のは一度読んでめちゃくちゃ気に入ったら、でいいのかなと。
が、読むにしても普通の図書館にはないであろうことが難点。
○
ということで、まずは教科書から買ってみたらどうでしょう。
教科書なので、さすがにここまでのエスプリの効いたフレーズはありませんが。
白石忠志「独禁法講義 第10版」(有斐閣2023)
体系書と事例集もあるので独学体制も盤石。
白石忠志「独占禁止法 第4版」(有斐閣2023)
白石忠志「独禁法事例集」(有斐閣2017)
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