2019年07月01日

高橋美加ほか「会社法(第2版)」 (弘文堂2018) 〜付・税理士と会社法の教科書



 実務家にとって、ボリュームたっぷりの教科書を頭から読む、というのはなかなか大変ですが、やっと読み通せました。

 このブログでは、商法総則・商行為法、手形法の記事は書いてありましたが、会社法の教科書は正面から扱っていませんでした。

会社法・商法

 ということで、この本の感想の前に、税理士が会社法の教科書とどうやってお付き合いするか、という観点から書いてみます。

 「税理士が」なのは、もちろん私が税理士だからではありますが、射程としては「法曹以外」と捉えてもいいと思います。


 会社法に限らず、実定法の学者の書く教科書って、

  ・条文に書いてある制度の解説
  ・裁判で問題となった論点に対する判例、学説

で構成されているのがほどんどです。

 ・制度解説でも、単なる「条文引き写し」から「制度趣旨」をしっかり書いたものまで、
 ・判例解説でも、学説からみた判例理解から判例を内在的に理解したものまで、

幅はありますが、基本線は上記のとおりだと思います。


 わがブログタイトルとの対比でいうと『訴訟系法務』とでも称せる内容。

  日常系 ⇔ 訴訟系
   税務 ⇔ 法務

 裁判で問題になるような論点がメインで、日常的にどう使うか、という視点は薄め。

 もちろん「将来紛争になったらどうなるか」ということを見据えて、という視点は、それはそれで大事。
 なんですが、法律を使う場面て、必ずしもそれだけではない。

 判例のない領域だったり、あるいは、そもそも判例になりえない領域について、この制度どうやって使うの、ということが、日常の業務ではあれこれ出てくるわけです。


 また「紛争」といっても、民法だったり会社法の教科書で扱われている紛争は、基本的に

 「私人×私人」

の紛争がほとんど。
 「納税者×税務署」で起こりうる紛争については、触れられていない。

 もちろん「対税務署」なんていうのは、直接的には税法上の紛争ではあって、私法上の紛争ではありません。
 が、その前提として、その行為が私法上どう扱われているか、というのが、当然問題になりうるわけです。

 ここでは、単に税法だけ知っていればいいのではなく、会社法についても精通している必要があるわけです。
 で、こういった形の紛争というのは、必ずしも判例として現れているわけではない。

 ここで、あえて「対税務署」と書いたのは、国が相手となる「訴訟」レベルの話でなく、訴訟になるほどでもない「税務調査」レベルで使えるかどうか、という意味合いからです。



 学生にとって会社法の学習が難しいのは、会社を経営したこともなければ、株式取引をしたこともない、のでイメージがしにくい、という問題があるからだと思います。

(このこととの対比でいうと、「刑法学」が、刑法典に規定されている「自然犯」メインで議論されているのは、学生がイメージしやすい、という意味では望ましい。
 はずなのに、刑法学を難しいと感じてしまうのは、扱っている事柄のほうでなく「理論」がややこしいから、ではないかと。
 おそらく、細々とした構成要件を扱う「特別刑法」までやるようになったら、細かい理論詰めてる暇ない、てなる気がします。)

 他方で、税理士なり実務経験のある人にとっては、そういうハードルは低め。

 もちろん、私のようにお客さんに上場企業がいない場合は、上半分は想像の世界。
 
  ・上場会社法
  ・中小会社法

と区分して構想されることもあるとおり、別々に論じたほうが本当は理解しやすいはず。

 のに、同じ「会社法典」の中に入っているせいで、並列的に論じられてしまっているのがほとんど。

 たとえば、「持分会社」が会社法の中で別立てになっているように、大会社と中小会社も別立てにしたほうがわかりやすいんじゃないかなあと。

 適用される制度が異なるだけでなく、そこで衡量される事情も、大会社と中小会社では違うわけで。
 裁判例の読み方も、どちらの会社の紛争かで違ってくるはずですし。

 法制上、条数節約したい、とか、大会社⇔中小会社のシームレス感を出したい、ということで一緒くたに規定するにしても、教科書までそれに倣わなくてもいいんじゃないかなあと。
 まあ、こちらはこちらで紙数制限、という問題があるのかもしれませんけども。


 会社法の教科書の理解しにくさ、という点でいうと、実体法と手続法が地続きで入り乱れている、という点もあるかもしれません。
 当然、実体法と手続法では、考慮(衡量)される事情が違うわけで。

 この区別を意識的にしてくれている教科書って、あまり見ない。


 と、長い前置きはこの程度にして、この本自体について。

 「教科書」の場合、前から読んでいってすんなり理解できるか、ということで論じる順番が大事だったりします。

 この本の構成は次の通り。

【主要目次】
 第1章 総 論
 第2章 株 式
 第3章 機 関
 第4章 資金調達
 第5章 計 算
 第6章 設 立
 第7章 定款変更
 第8章 企業買収・再編
 第9章 親子会社
 第10章 種類株式
 第11章 解散と清算
 第12章 持分会社

 何も考えないと、条文構成どおりに並べてしまいがちなところ。

 なんですが、この本では、条文構成と違って、設立が後ろのほうだったり、資金調達や種類株式、親子会社を別立てしているので、頭から順番に読むのに最適だと思います。

 しかしまあ、「定款変更」てのはどこにも行き場所がないんですかね。
 条文上は1章1条きりだし、どの本見ても、だいたい所在なさげなので。


 「条文ガイド」というのがあって、因数分解的な特殊な会社法条文について、読み解き方を書いてくれているのが親切。

 会社法の立法理由、「国民にわかりやすくするため」みたいなこと謳ってたくせに、出来上がった条文は、頭のいい人向けの込み入った構成になってしまいました。

 ので、こういう解説があると、自分で条文読み下すための取っ掛かりになりますよね。

 このノリで、全条文を分析した一冊本があってもいいと思う。


 具体例が豊富なので、イメージがしやすい。特に数字での説明が多めなのがいいですね。

 なぜそうなっているのか、といった制度趣旨がしっかり書かれてて。
 制度趣旨にそぐわない部分は、「立法論的には」と断った上でちゃんと批判しているし。

 機関構成のところとか、制度趣旨だけでなく、商法時代からの歴史的な沿革も触れられていて、経時的にも理解できます。


 税理士的には、「計算」の章がいかに分かりやすく書かれているかが、関心事になります。

【会計トライアングル】
 ・企業会計
 ・会社法会計
 ・税務会計

 「トライアングル」といえるほど、綺麗な音色を出せるような三角かは極めて疑問ですが、3つの会計があることについて、そう言い習わされています。

 で、「会社法会計」について、実務本だけでは理解できない、法的な観点から勉強するには、こういった会社法学者による本を読む必要があります。

 たとえばですけど、『無償減資で均等割下げよう!』みたいなやつ、あれは、「会社法○条による云々」という感じで、会社法上のルールにのっかってちゃんとやってるか、で判断されるので、会社法上の制度を勉強する必要があるわけです。

 「計算」のところ、ありがちな教科書だと、条文引き写しで終わっていたり、ただ貸借対照表を貼り付けただけだったり、力を入れてない感がダダ漏れだったりします。
 でも、「計算」の章こそ、具体的な数字で説明しないとだめな箇所なはず。

 で、この本がどうかですが、図やら表やら数字やらでかなり具体的に書かれているので、他書と比べたらかなり理解しやすくなっていると思いました。

 とはいえ、簿記の知識があったほうが、より理解は深まるでしょうが。


 第8章 企業買収・再編

 この章、合併、分割、株式交換・移転といった制度を横断的に論じています。

 一通り勉強した人からすると、こういう整理をしてくれると、自分の知識を整理し直すのにちょうどいい感じです。

 ですが、初めて勉強する人からすれば、合併なら合併と、縦割りで記述したほうが理解しやすそうですが、どうなんでしょうかね。
posted by ウロ at 10:58| Comment(0) | 会社法・商法
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