2019年08月05日

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その4)

 過去3回まで書いたこのネタ、これまでの記事に組み込まなかったものを拾い上げておきます。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その3)


 (その2)では「法定利用行為限定説」を前提とした場合、「利用」を無料にして「使用」の料金だけにしたら、源泉不要になるのか、ということを書きました。

 この著作権等の対価を無料にすれば源泉不要、というスキームが通用するのだとすると、次のようなパターンではどうなるか。

《疑問1》
 「著作者人格権」の不行使の対価のみにしたらどうか。

 たとえば、
  ・複製するのも使うのも自由
  ・ただし、使うためには「改変」をすることになっている
  ・この「改変」の料金のみ徴収する

 法にも通達にも、なぜか「著作者人格権」は明示されていないところ。
 この事例では「同一性保持権」不行使の対価のみ徴収しているわけですが、これは「著作権の使用料」に該当しないことになるのか。

 もちろん、著作権法20条2項の除外事由にあたれば、著作者人格権の対価ですらないわけですが。

著作権法 第二十条(同一性保持権)
 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変


 ちなみに、この「人格権をお金に換える」みたいことができるの、プログラムのような「機能的著作物」を著作権に取り込んでおきながら著作者人格権もそのまま適用、なせいでのバグみたいに思います。
 しかも奇しくも「改変」なんていう、プログラムにふさわしい用語使っているし。

 で、税法側が著作者人格権を無視しているのは、完全なる推測ですけど、「著作者人格権はお金に換えられる」という側面が意識されていなかった時代の名残なんじゃないかと。
 所得税法の「著作権の使用料」とか、通達の「著作物の利用の対価」とかいった表現をみると、どうも著作権というのを「利用できる権利」として理解している気がします。

 しかし、著作権はあくまでも「利用禁止権」です。
 他者が自己の著作物を利用するのを禁止する権利なわけで、正確に表現するならば、「著作権の不行使料」とか「著作物の利用禁止解除の対価」と言わなければなりません(私の一連の記事でも、本当はちゃんと表現したいところ)。
 著作者人格権にしても、同じように「禁止権」として作用するわけです。

 著作者人格権をここにあてはめると、

  著作者人格権の使用料

だとしっくりきませんが、

  著作者人格権の不行使料

だと意味が通じることになります。
 人格権を他人が代わりに利用することはできませんが、本人がお金をもらって人格権を行使しない、ということはできるわけです。

 いずれにしても、著作者人格権(不行使)の対価にすれば源泉不要と現行法上は読めてしまう、これでいいのか、ということです。

《疑問2》
 「所有権」の譲渡代金のみとした場合はどうか。

 著作権法47条の3により複製権は制限されるので、「著作権の使用料」に該当しないということでよいか。
 
著作権法 第四十七条の三(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)
 プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において実行するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。ただし、当該実行に係る複製物の使用につき、第百十三条第二項の規定が適用される場合は、この限りでない。
2 前項の複製物の所有者が当該複製物(同項の規定により作成された複製物を含む。)のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、その者は、当該著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存してはならない。


 「所有権」の譲渡なら該当しないというなら、以下のようなスキームが成り立つのかどうか。

【事例】
 日本のA社は、海外のソフトウェア会社Bの販売代理店
 AはBからあらかじめ販売用のデータを預かっておく
 Aが顧客から注文を受けると、手元にあるデータを複製して顧客に送信
 Aは複製の数量に応じてBに料金を支払う

⇒これでは「著作権(複製権)の使用料」に該当してしまう。そこで、

【代替案1】
 Aは顧客から注文を受けるとBに連絡する。
 Bが複製をして顧客に送信 
 Aは送信数に応じた料金をBに支払う
 
【代替案2】
 Aは顧客から注文を受けるとBのサーバーにアクセスして顧客にデータを送信
 Aは送信数に応じた料金をBに支払う

【代替案3】
 AはBから販売予定数量のデータを購入する
 Aは顧客から注文を受けると顧客にそのままデータを送信
 Aの在庫がなくなったらBからデータを補充してもらう

 これら代替案なら、著作権の対価ではなくなって源泉不要ということになるかどうか。

 【代替案2】は、Bがサーバーにアクセスして送信の過程に「複製」がある、とこじつけることも可能でしょうか。
 【代替案3】は、このデジタル時代においてギャグみたいな案ですが、Aが複製しないかぎり複製権の対価とはならないわけで。「カラオケ法理」だって、著作者B自身の複製を複製権侵害とまではいわないでしょう。

《疑問3》
 「みなし侵害」の場合はどうか。

 「みなし侵害」は、あくまでも著作権そのものが行使できないことを前提に、著作権侵害行為とみなすという規定です。
 たとえば著作権法113条2項だと、法定利用行為に該当しないプログラムの「使用」行為をみなし侵害としています。

 これは明らかに「著作権の」ではないわけですが、このような場合にも使用料を支払ったらどうなるのか。

著作権法 第百十三条(侵害とみなす行為)
2 プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物(当該複製物の所有者によつて第四十七条の三第一項の規定により作成された複製物並びに前項第一号の輸入に係るプログラムの著作物の複製物及び当該複製物の所有者によつて同条第一項の規定により作成された複製物を含む。)を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。


《疑問4》
 「私的録音録画補償金」の支払いはどうなるか。

 (この制度に『海外メーカー』がどう絡んでくるのかちゃんと理解していないのですが)機器購入時の代金に含まれる補償金は「著作権の使用料」に該当しないのか。
 この補償金の性質が、複製権制限の一部解除なのか、それとも複製権とは全く別物なのか、でも評価がかわってきそうですが。

著作権法 第三十条(私的使用のための複製)
2 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。



 このように、「所得税法の『著作権』は著作権法の借用概念である」というだけでは、判断できない問題があるわけです。

 単に表向きの定義だけを借りてくるのか、上記のような制限規定や拡張規定まで取り込んで判断する必要があるのか。
 また、著作権法の「文言」だけを借りてくるのか、「解釈論」まで借りてくるのか。
 
 さらに、上記はいずれも「日本の」著作権法に即して記述していますけど、利用地が日本以外の場合に、当該国の著作権法を取り込む必要があるのか、取り込むとしてどのように国内税法に反映させるのか。
 (その3)では触れませんでしたが、他国の著作権法を取り込む際に「法の適用に関する通則法」を介在させるのか、あるいは日本の著作権法を通して反映させるのか、それとも属地性からダイレクトに国内税法に反映させるのか、といったことも考える必要があります。

 ・外国の著作権法 ⇒ 法の適用に関する通則法 ⇒ 国内税法
 ・外国の著作権法 ⇒ 日本の著作権法 ⇒ 国内税法
 ・外国の著作権法 ⇒ 国内税法

 これ、渉外案件だから問題が表にでてきてますけど、本来は『借用概念』全般の問題だと思います。
 税法が「私法」から概念を借用している、といったときに、その「私法」は国内法だけなのか外国法も含むのか、外国法も含むとした場合「法の適用に関する通則法」を経由するのか、国内私法を通して反映させるのか、それともダイレクトに反映させるのか、といった点。

 しかもこれが、たとえば『翻訳』のような事実概念だったら、どこの国の、なんてことを論じなくても概念確定ができていたはずです。
 のに、『著作権』なんて権利概念を用いてしまったせいで、準拠法を決定せざるを得なくなってしまったわけです。

 当然のことながら、これらの問題について借用先には何も書かれていないわけで、「借用」といいながら、結局のところ税法独自の観点から解決していくしかないのではないかと。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その5)
posted by ウロ at 10:11| Comment(0) | 国際租税法
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