2019年08月19日

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その6)

 このシリーズ、長くなったのは、
  ・所得税法・通達
  ・租税条約
  ・著作権法
  ・法の適用に関する通則法
が絡み合っているせいです。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その5)

 そこで、記事ごとにメインボーカルを入れ替えながら、同じ曲を順番に謳ってもらったわけです。

  その1 所得税法
  その2 所得税基本通達
  その3 租税条約(二国間)
  その4 著作権法
  その5 租税条約(三国間)

 本来ならみんな一緒に謳ってもらったほうがまとまりがあっていいんでしょう。
 が、この手の学際的な論点て、両分野に跨って深く論じられたものがないのが通常。

【学際的とは】
小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)

 ので、各分野ごとに検討する、というアプローチにならざるをえないところです。


 ということで、今回は「法の適用に関する通則法」をセンターに据えて、謳っていただきます。

 以下、同法を「法適用通則法」と略します。「通則法」と略したいところですけど、税法には「国税通則法」様がいらっしゃいますので(DAIGO(DaiGo)ってBREAKERZなのかMentalistなのか、みたいな話)。


 法適用通則法、学問分野としては「国際私法」に分類されているせいで、「公法」である税法とは無縁と思いがち。

 が、「私法からの借用概念」とかいっているとおり、税法上の概念のなかには「私法」の概念を利用しているものがあるわけです。
 そして法適用通則法自身も、規定されている「単位法律関係」が私法関係に関するものではあるものの、自身の適用範囲を私法に限っているわけではありません。

法の適用に関する通則法 第一条(趣旨)
 この法律は、法の適用に関する通則について定めるものとする。


 見給え、この堂々たる趣旨の謳いっぷり。
 「法の」とあって「私法の」に限っていないわけです。

 ので、「公法」だからといって法適用通則法の適用が当然に排除されるのではなく、税法の中にある私法概念を確定する際に、法適用通則法を経由すべきか、ということが問題になりうるわけです。


 ということで、税法において「私法から借用」といった場合に、どこから・どうやって借用してくるのか、ということを検討しなければなりません。
 (これ、税法に限らず「刑事法」とかでも私法概念を利用している場合には同じ問題が生じるはずですよね。)

 「どこから」というのは、日本の私法だけなのか外国の私法もなのかということ。
 「どうやって」というのは、直接税法に適用するのか、法適用通則法を経由するのかということ。

 事案が日本国内に収まっているかぎり問題にならなかったものが、渉外案件になったとたん顕在化したわけです。
 ちなみに、日本国内に収まっている場合でも、バックグラウンドで法適用通則法が粛々と働いている、と考えるのが道垣内正人先生の見解(というか、道垣内説を税法に応用しただけ)。

視野を広げるための、国際私法


 で、著作権のような「属地性」をもった権利概念の場合、ストレートに日本の著作権法を丸ごともってきてしまうと「債務者主義」が機能しませんでした。

 日本の居住者が外国で著作権を利用して使用料を支払った。
   ↓
 使用地主義では課税できない。
 債務者主義に置き換えることで課税できるはず。
   ↓
 ところが日本法の著作権は外国では効力なし(属地主義)
   ↓
 「著作権」の使用料が日本法のそれだとすると課税できない。


 と、せっかく債務者主義に転換しても、結論が使用地主義と変わらないことになってしまう。

 のはずなのに、一般的には当たり前のように「課税できる」とされています。
 てことは、ここに何らかの発想の飛躍があるはずです。

 そこで、その飛躍部分の穴埋めを考えてみます。


 外国が使用地の場合でも「著作権の使用料」に該当するという結論に導くための理屈としては、

1 日本法置換説
 あくまでも日本の著作権法に限る。
 ただし、日本を利用地に置き換えた場合に著作権が発生するかで判断する。

2 利用地法説
 利用地の著作権法で判断する。

3 法適用通則法説
 法適用通則法を経由して考える。
 ただし、著作権という単位法律関係はないので、条理により使用地準拠法で判断する。
 (結論は2と同じ)

4 抽象的権利説
「創作者に付与される物権類似の権利」などと抽象化して判断する。

といったところ。

 なお、法適用通則法を経由する場合には、単位法律関係の「範囲確定」という問題もあります。
 全体を使用地準拠法のみで考えるのか、それともそれは「著作権の効力」だけに限られ、それ以外の部分は「契約」や「不法行為」の準拠法で考えるのか。
 このあたりは国際私法プロパーの問題なので、問題点の指摘のみしておきます。


 上記理屈は「著作権」の場合の話です。
 純粋な「私権」というにはやや微妙な権利。

 これが「契約」一般の場合はどのように考えられるか。

 2説のような直接外国法に連結させる考えは、著作権のような「属地性」のある権利でしか成り立たないかと思います。
 債権一般で、権利の性質と地理的範囲がここまで密接に関連するものは考えにくい。
 とすると、契約一般まで広げて考えた場合には、2説より3説のほうが望ましいということになりそう。

 あとは、134でどれが結論妥当かで判断するしかないのでは。

 ただ、3説に対しては、著作権の場合はいいとして、契約一般まで考慮に入れた場合、国際私法上の「当事者自治」により当事者が任意に課税要件を選択できてしまい妥当でない、という批判があるかもしれません。

法の適用に関する通則法 第七条(当事者による準拠法の選択)
 法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。


 著作権の場合は、準拠法は利用地で固定なので、当事者が任意に選択するのは難しいわけです。
 あえて選択したい国にオリジナルを送ってコピーをする、とか、できなくもないでしょうが。
 他方で、契約一般に関しては、日本に居ながらにして「課税回避」となるような国の法を準拠法として選択することもできてしまうと。

 でもまあ、その場合は「公の秩序」に反するとして、セーフガード条項使えばいいんじゃないですかね。

法の適用に関する通則法 第四十二条(公序)
 外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。


 これに対しては、この「公序」はあくまで国際私法上の、という反論があるかもしれません。
 が、準拠法の任意選択によって国家の課税公権が侵害されているなら、まさしく「公の秩序」に反すると評価していいと思うんですけど。

 ということで、私自身は法適用通則法を経由する3説がいいと思うんですけど、どうでしょうね。


 と、いう感じで、検討すべき問題があれこれあるわけで、「借用概念を私法と同義と解すれば法的安定性が保たれる」なんていうのは、気のせいでは、と思わずにいられない。

 源泉の要否を検討していたはずが、いつの間にか「借用概念ディスり」で終わる結果に。
 そして、一通りメンバー全員センターをとったわけで、ここで一旦このネタ終わるはず、と思いきや、もう少し続きます。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その7)
posted by ウロ at 10:23| Comment(0) | 国際租税法
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