2019年08月26日

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その7)

 その1からその6まで、毎回メインボーカルを入れ替えて記述していましたが、ここで全員一緒に歌ってもらおうと思います。

 要するにここまでのまとめです。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その6)

【想定例】
 A社:日本の居住者
 B社:甲国の居住者(日本にPEなし)
 日本・甲国租税条約:使用料は債務者主義

1 A社は「日本」でB社の著作物を利用するため著作権の使用料を支払った。
2 A社は「甲国」でB社の著作物を利用するため著作権の使用料を支払った。
3 A社は「乙国」でB社の著作物を利用するため著作権の使用料を支払った。


【分岐1】
 所得税法にいう「著作権の使用料」が『法定利用行為』に対するものに限定されるかどうか。

ア 限定されない 《抽象的権利説》

 「創作者に付与される権利」などと抽象化することで、特定の国の「著作権法」には影響されないようにする。
 この説、外国法をどうやって取り込むかの一見解としてあげましたが、本来は最初の分岐ででてくるもの。

 機能的にみると、著作権という権利概念を事実概念に転換することで、著作権を「属地主義」から解放していることになります。
 ので、この説によれば、「属地主義」がどうたらとかいった以下の問題は、すべてすっ飛ばすことができます。

  1 課税される
  2 課税される
  3 課税される

イ 限定される ⇒【分岐2】

 こちらのルートは茨の道。
 ここまでごちゃごちゃ書いたとおり、所得税法、所得税基本通達、租税条約、著作権法、法の適用に関する通則法といった魔物を相手に、ひのきの棒一本で戦う覚悟があるかどうか。

【分岐2】
 限定されるというのが「日本の」著作権法で、かつ「属地主義」をそのまま適用した場合には、日本が使用地以外の事例(想定例2、3)でおよそ課税できないことになってしまいます。

 そこで、ここを乗り越えるかどうか。

ア 乗り越えない 《日本法限定説》

 日本の著作権法に限定され、かつ同法は日本国内でしか効力が生じない、として課税をあきらめる。

  1 課税される
  2 課税されない
  3 課税されない

イ 乗り越える ⇒【分岐3】

 さすがに課税できないというわけにはいかないので、どうにか乗り越える理屈を考える。

【分岐3】
 乗り越えるとして、「外国の」著作権法を取り込むかどうか。

ア あくまで日本の著作権法に限定される。 《日本法置換説》

   所得税法 ←日本の著作権法

 ただし著作権から「地理的範囲」を除外し、利用地を日本法に置き換えた場合に著作権が成立するかで考える。

  1 課税される
  2 日本法で著作権に該当するなら課税される
  3 日本法で著作権に該当するなら課税される

イ 外国の著作権法を取り込む。 ⇒【分岐4】

【分岐4】
 外国の著作権法を取り込むとして、どのように取り込むか。

ア 全ての著作権法が直接日本の所得税法に含まれているとする。《全著作権法説》

   所得税法 ←全ての著作権法

  1 課税される
  2 どこかの国で著作権に該当するなら課税される
  3 どこかの国で著作権に該当するなら課税される

 外国の著作権法が含まれる、を素直に解釈するならば、全ての著作権法が含まれるとすべきと思えます。
 事案によって適用される著作権法がころころ変化するなんて、税法にあるまじき状態だ!と言われそうですし。
 が、どう考えても課税範囲が広すぎるので、この説はとりえない。

イ 利用地の著作権法が直接日本の所得税法に含まれているとする。 《利用地法説》

   所得税法 ←利用地国の著作権法

  1 課税される
  2 甲国法で著作権に該当するなら課税される
  3 乙国法で著作権に該当するなら課税される

 ということで、直接取り込むとしたら、あくまで「利用地の」という限定をせざるをえない。

 租税条約適用前の所得税法レベルではあくまで「利用地主義」なんだから、そこでいう著作権法も利用地のそれ、という意味だと。
 で、租税条約で置き換わるのはソース・ルールだけで、著作権の意義は(日本法の、ではなく)「利用地法の」という意味で固定されたままと。

 なかなかテクニカルな解釈になりますね。

ウ 法の適用に関する通則法を経由する。 《法適用通則法説》

   所得税法 ←法適用通則法 ←外国の著作権法

 法適用通則法は税法(内の私法概念)にも適用されるとする。
 法適用通則法上の「条理」により利用地準拠法で判断する。
 租税回避事案には法適用通則法上の「公序」で対応する(利用地法説だと明文の武器がない)。

  1 課税される
  2 甲国法で著作権に該当するなら課税される
  3 乙国法で著作権に該当するなら課税される

 これによれば、事案によって適用される著作権法がかわってしまう、ことに対する法的根拠は明確になります。


 これまでの記事を一気にまとめるとこういうことになるみたい。

 私個人としては、法的根拠が明確な《法適用通則法説》が妥当かなと(条理だけど)。

 一般的には、《抽象的権利説》《日本法置換説》で考えられているっぽいんですけど、そもそも「属地主義」のことが考慮されていないような気がしないでもない。
 
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その8)
posted by ウロ at 09:33| Comment(0) | 国際租税法
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