2019年09月16日

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その10)

 前々回は「消費税法」にふれたので、今回は「相続税法」です。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その9)

 著作権も財産権なわけで、相続財産たりうるわけです。
 ので、相続税法も無関係を決め込んでいるわけにはいかない。


 で、相続税法にでてくる「著作権」は以下の箇所。

相続税法 第十条(財産の所在)
1 次の各号に掲げる財産の所在については、当該各号に規定する場所による。
十一 著作権、出版権又は著作隣接権でこれらの権利の目的物が発行されているものについては、これを発行する営業所又は事業所の所在
3 第一項各号に掲げる財産及び前項に規定する財産以外の財産の所在については、当該財産の権利者であつた被相続人又は贈与をした者の住所の所在による。


 制限納税義務者の場合に必要な、財産の所在の「内外判定」のところにでてきます。

相続税法 第二条(相続税の課税財産の範囲)
1 第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。
2 第一条の三第一項第三号又は第四号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものに対し、相続税を課する。


 で、ここまで検討してきた我々からすると、ここでいう「著作権」には外国法に基づくものが含まれているかどうか、が気になりますよね(著作隣接権の後ろに「その他これに準ずるもの」がないとか、気になるところはありますが、以下「著作権」のみで代表させます)。

 制限納税義務者と無制限納税義務者とで、分けて考えてみましょう。
 なお、上記の10条1項11号のとおり「発行されている」前提で考えます。未発行だとすると、通常は評価額がでないと思われるので。


 まず、「制限納税義務者」の場合。

 2条+10条によると、「発行者の所在地」が日本の場合に課税対象となることになっています。
 ここでいう「発行」については著作権法に規定がありますが、これは「借用概念」てことでいいんですかね。

著作権法 第三条(著作物の発行)
 著作物は、その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が、第二十一条に規定する権利を有する者又はその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。以下この項、次条第一項、第四条の二及び第六十三条を除き、以下この章及び次章において同じ。)を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾(第八十条第三項の規定による複製の許諾をいう。第三十七条第三項ただし書及び第三十七条の二ただし書において同じ。)を得た者によつて作成され、頒布された場合(第二十六条、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を有する者の権利を害しない場合に限る。)において、発行されたものとする。
2 二次的著作物である翻訳物の前項に規定する部数の複製物が第二十八条の規定により第二十一条に規定する権利と同一の権利を有する者又はその許諾を得た者によつて作成され、頒布された場合(第二十八条の規定により第二十六条、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利と同一の権利を有する者の権利を害しない場合に限る。)には、その原著作物は、発行されたものとみなす。
3 著作物がこの法律による保護を受けるとしたならば前二項の権利を有すべき者又はその者からその著作物の利用の承諾を得た者は、それぞれ前二項の権利を有する者又はその許諾を得た者とみなして、前二項の規定を適用する。


著作権法 第四条の二(レコードの発行)
 レコードは、その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が、第九十六条に規定する権利を有する者又はその許諾(第百三条において準用する第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。第四章第二節及び第三節において同じ。)を得た者によつて作成され、頒布された場合(第九十七条の二第一項又は第九十七条の三第一項に規定する権利を有する者の権利を害しない場合に限る。)において、発行されたものとする。


 そうだとして、「発行者の所在地」で判定するとなると、

  1 日本の企業が日本で発行した場合
  2 日本の企業が外国で発行した場合
  3 外国の企業が日本で発行した場合
  4 外国の企業が外国で発行した場合


と場合分けが必要となります(外国は条約加盟国とします)。

 1が課税対象、4が対象外なのはいいとして、2と3はどうなるのか。

 2は、10条の文言からすれば課税対象で問題ないように思えます。
 が、「外国で発行」となると、ここでいう「発行」含め、外国の著作権法に基づいて判断する必要があります。外国が利用地となるので。
 そうすると、2の場合には外国の著作権法を参照しなければならない、ということになるがそれでいいのかどうか。
 あるいは、発行についてはあくまで日本の著作権法に基づいて判断するのか。

 他方で3は、10条の文言からすれば対象外で問題ないように思えます。
 が、日本に輸出してめちゃくちゃ稼いでいたものでも、発行元が外国の企業だから、ということで対象外となってしまっていいのかどうか。

 ここでそこはかとなく感じる違和感は、著作物の発行地(利用地)ではなく、発行者の所在地で内外判定していることによるものだと思います。
 必ずしも、発行地に発行者の営業所なり事業所があるとは限らないですよね。

 著作権の属地性からすると、相続税法においても「利用地」で内外判定するのが自然な感じがするのですが、そうなっていないわけです。

 10条を文字通り解すると、日本で発行する場合でも、外国の企業に発行をお願いすれば課税範囲から外せる、ということになりかねないのですが、そういう読み方でいいんでしょうか。


 ちなみに、特許権などの登録主義による権利の場合は「登録地」判定になっています。

相続税法 第十条(財産の所在)
1 次の各号に掲げる財産の所在については、当該各号に規定する場所による。
十 特許権、実用新案権、意匠権若しくはこれらの実施権で登録されているもの、商標権又は回路配置利用権、育成者権若しくはこれらの利用権で登録されているものについては、その登録をした機関の所在


 このルールなら、

  日本で登録⇒日本で効力発生⇒日本の相続財産になる
  外国で登録⇒外国で効力発生⇒日本の相続財産にならない


と、効力発生地と課税範囲が一致するのですっきりします。
 なぜ著作権のほうも同様に効力発生地判定としなかったんでしょうか。

 ところで、著作権にも「登録」制度というものが一応存在します。
 こちらは効力要件ではなく、あくまで対抗要件ですが。

 が、相続税法からすると、「日本」で登録した著作権を「外国」の企業が「日本」で発行した場合でも、やはり対象外、ということになりそうですが、この理解でいいんでしょうか。

 発行者:外国 ←ここで判定?
 発行地:日本
 登録地:日本


 そういった疑問を残しつつ、では「無制限納税義務者」の場合はどうかというと。

 無制限納税義務者の場合は「内外判定」は不要で、すべての財産が課税対象となります。
 そうすると、上記1〜4全て課税対象となるということになります。
 
 ということは、2条1項にいう「財産の全部」には、外国の著作権法に基づく著作権も含まれている、と読むことになります。
 もちろん、外国の著作権法が無条件に日本人の著作権を保護しているわけではないはずで、日本の著作権法でいう6条2号3号に対応する規定の有無を確認する必要はありますが。

著作権法 第六条(保護を受ける著作物)
 著作物は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。
一 日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む。以下同じ。)の著作物
二 最初に国内において発行された著作物(最初に国外において発行されたが、その発行の日から三十日以内に国内において発行されたものを含む。)
三 前二号に掲げるもののほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物


 これと同様の規定が条約加盟国の著作権法にもあるとすると、著作権は「無方式主義」なので、条約加盟国における著作権が自動的に発生しているってことですよね。
 とすると、それら加盟国の著作権も全て課税対象に含めなければならない、のが理屈上の帰結になるはず。

 ただ、著作権の場合、その評価方法が「財産評価基本通達」に定められています。
 この定めに従えば、「印税収入」が発生していないかぎり著作権は0円となります。
(ここでいう「印税」って著作権の利用料全般のことなの?という疑問もありますが、さしあたりそういうものとしておきます)

財産評価基本通達 (著作権の評価)148
 著作権の価額は、著作者の別に一括して次の算式によって計算した金額によって評価する。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作権ごとに次の算式によって計算した金額によって評価する。
 年平均印税収入の額×0.5×評価倍率

 上の算式中の「年平均印税収入の額」等は、次による。
(1) 年平均印税収入の額
 課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作物に係る課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。
(2) 評価倍率
 課税時期後における各年の印税収入の額が「年平均印税収入の額」であるものとして、著作物に関し精通している者の意見等を基として推算したその印税収入期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率とする。

154(出版権の評価)
 出版権の価額は、出版業を営んでいる者の有するものにあっては、営業権の価額に含めて評価し、その他の者の有するものにあっては、評価しない。

154−2(著作隣接権の評価)
 著作隣接権の価額は、148≪著作権の評価≫の定めを準用して評価する。


もちろん、6のちゃぶ台返しには注意が必要ですが。

6(この通達の定めにより難い場合の評価)
 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。


 ので、世界中に広がりかけた課税範囲は、結果的には「印税収入」という事実概念の側から制限がかかることになります。


 評価方法がでてきたので、先の「制限納税義務者」の場合に戻ってみます。

 問題となりうるのが、パターン2の場合。

  2 日本の企業が外国で発行した場合

 もしこれが課税対象になるのだとすると、外国での稼ぎを考慮して日本の相続税額がかわる、ということになるが、それでいいのかどうか。それとも、日本の稼ぎだけに限定されるのか。

 「対象外」となる4と比較すると、発行者の所在地が日本か外国かという違いしかありません。

  4 外国の企業が外国で発行した場合

 2 発行者:日本
   発行地:外国 ←含まれる?

 4 発行者:外国
   発行地:外国 ←含まれない

 この事実をもって、相続税の対象/対象外と結論が異なる理由として十分ですかね?


 また、
  
  1+2 日本の企業が日本と外国で発行した場合

に、課税対象になること自体はいいとして、評価額は「日本+外国」の印税収入を合算しなければならないのでしょうか。
 制限納税義務者のそもそもの課税根拠を踏まえた上での、素朴な課税感覚からすれば、「日本での稼ぎ」にだけ課税となりそうですよね。
 が、特にそういう限定が明記されているわけでもなく。

 日本の発行者から得られる印税収入はすべて評価対象なんでしょうか。

 この、「組み合わせ」ということを考え出すと、たとえば、ある著作権につき、

  1+2 日本の企業が日本と外国で発行
  3+4 外国の企業が日本と外国で発行


と内外複数の企業が内外で発行した場合の印税収入はどこまで含めるのか。

 同じ著作権につき日本の企業が発行していることを梃子にして、外国の企業からの印税収入分も評価額に含めることになるのかどうか。

 ・課税範囲の判定 日本の企業が発行しているので課税範囲に含まれる
   ↓
 ・評価額の算定  その著作権に対するすべての印税収入が含まれる??


 ややこしくなるので、ここまでは「発行」を1つの行為として記述してきました。
 が、正確に言うと、著作権法上の「発行」は、条文記載のとおり、「作成」+「頒布」という行為から構成されています。

 そうすると、作成者は日本企業だが頒布者は外国企業(あるいはその逆)みたいな場合に、どうやって発行者を判定するのか。
 どちらかの行為が日本の企業なら該当するのか、あるいは頒布に重点を置いて判断するのか。


 以上、いまいち腑に落ちないので、もう少し考えてみます。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その11)
posted by ウロ at 11:36| Comment(0) | 国際租税法
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