※以下は第2版(2013)の書評です。
この本、「“一風変わった”法学入門」と自称されていて、確かにそうなっていました。
南野森「ブリッジブック法学入門 第3版」(信山社2022)
編者は憲法学者の南野森先生。
以前、トロペール先生の翻訳書を記事にしたことがあります。
ミシェル・トロペール(南野森訳)「リアリズムの法解釈理論」(勁草書房2013)
○
目次をあげると次の通り。
T 法学の基礎
第1章 法と法学
第2章 法と法学の歴史
第3章 法律と法体系
第4章 裁判制度とその役割
第5章 判例の読み方
U 法学の展開
第6章 違憲審査制と国法秩序
第7章 保証人とその保護
第8章 会社とその利害関係者
第9章 民事訴訟における主張共通の原則
第10章 刑罰権の濫用防止と厳罰化
第11章 刑事訴訟の存在意義
第12章 社会保障法による医療の保障
第13章 著作権保護と表現の自由
前半が一応、一般的な法学入門で触れられる基礎知識の部分になっています。
通常の授業でも使えるように、ということでのアリバイ的な記述に思えなくもない(邪推)。
ただし、南野先生執筆の第1章は、上記のトロペール先生の考えがバックグラウンドにあってとても読み応えあるので、とりあえずこの章だけでも目を通しておくといいと思います。
で、後半が「論文」と言われているとおり、かなり突っ込んだ内容になっています。
法学に興味をもってもらう、という趣旨では、こういう構成いいと思いました。
が、前半で得た基礎知識だけで後半が読みこなせるか、というと難しい。
学習過程を三段階に分けることってよくあると思いますが、「二段階目」が抜けているイメージ。
【三部構成】
安田拓人ほか「ひとりで学ぶ刑法」(有斐閣2015)
ので、後半読んでみて難しそうなら他の本に移って、しばらくしてから戻ってくる、という読み方がいいかもしれません。
○
こういうコンセプトの本読んでみて、思い出したのが下記の本。
落合 誠一編「論文から見る現代社会と法」(有斐閣1995)
論文執筆者が自分の書いた論文の解説を通して、各法分野の説明をするというもの。
社会人から入学した大学院生向けの導入講義を書籍化したもののようです。
この講義用の論文ではなく、もともとどこかの学術誌に発表したガチの論文を題材にしているので、内容は濃い。のですが、法学部以外の出身者を対象としていて法学の知識は前提としていないので、入門書として読んでもよさそう。
ただ、それなりの社会人経験もあるということは前提でしょうから、まっさらな学生さんがいきなり読むのは、それはそれで大変かも。
○
さて、話は戻って、この本を入門書として捉えたときに気になるのが、「法制史」にふれた第2章。
たとえば、「インスティテュシオン(法学提要)体系」とか「パンデクテン(学説彙纂)体系」とかって単語が書いてあるのに、その意味がどこにも書いていない。
法制史の記述って、紙幅が限られているとどうしても単語の羅列になりがちではありますが、まあ不親切。
限られた紙幅で法制史を記述するならば、たとえば、
・この本の他の章を法制史の観点から経時的にみることで立体的に展開する
とか、
・仮想通貨みたいな今どきの論点を法制史の観点から分析してみることで法制史の勉強にどんな意味があるのか理解する
とか、ポイントを絞って記述したほうがいいと思うんですけども。
ちなみに、上記2つの単語について、たまたま平行して読んでいた篠塚昭次先生の入門書では、「オープンリール式」と「カセットテープ式」などと喩えられていました。
さすがに時代を感じさせる喩えで、今となっては理解できるのはオールドオーディオマニアくらいでしょう(当時も?。
ですが、初学者(当時の)に理解してもらおうという親切心、読んでいて安心するわけです。
篠塚昭次「民法 よみかたとしくみ」(有斐閣1992)
なお、「法学入門」の法制史の記述で私が一番よかったと感じたのが、三ケ月章先生のもの。
三ケ月章「法学入門」(弘文堂1982)
過去の西欧から明治の日本法に到達するまでの、流れるような記述が素敵。
2020年03月23日
南野森「ブリッジブック法学入門(第3版)」(信山社2022)
posted by ウロ at 11:51| Comment(0)
| 法学入門書探訪
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