第6版は債権法改正成立直前の出版ですが、改正法の評価について第7版でどこまで突っ込んで書かれているかは気になります。表現上の手直しくらいにとどめているかもしれませんが。
池田真朗「スタートライン債権法 第7版」(日本評論社2020)
1995年に初版が出版されてから2017年で第6版。
それだけでも、大変人気のある本だと分かります。
実際、個々の制度の説明はとてもわかり易い、わかり易い(2回言う)。
危険負担における「債権者」と「債務者」とか、初学者が躓きやすい箇所をしっかり解説されていたり。
が、ガチの初学者が一冊目として通読するにはしんどいかな、というのが個人的な感想。
というのも、本書のカバーする領域は「債権総論」と「債権各論」で、前半各論・後半総論と順序を入れ替えてはいるものの、それぞれの中身自体は民法の条文どおりの並びになっています。
特に「債権総論」の編成なんてパーツ感が強いので、頭から読んでいくのきついと思う。
ここまで教育的配慮を尽くしていながら構成は民法の編成どおり、というのはあえてそうしているんだと思います。
おそらく、どの大学の講義でも使いやすいように独自の組み換えはしない、ということかなあと。
最初に書いたとおり、個々の制度の説明はとてもわかり易い(3回目)。
ので、たとえば米倉明先生の「プレップ民法」のような入門書を読みながら、理解できなかった制度をこの本で理解する、といった利用方法がよさそう。
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
○
個人的には「ルール創りの観点から」と題するコラムがとても面白かったです。
2017年の債権法改正について、(改正法案の段階ですが)かなり批判的な観点から触れられています。
学者の学理的な関心からの改正になってしまっていて市民にとってわかり易いルールにするための改正になっていない、といった感じの。
まさしく仰るとおりで、私もこのブログでかなりイジってきたところです。
【債権法改正イジり】
ドキッ!?ドグマだらけの民法改正
時効の中断・停止から時効の完成猶予・更新へ
私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法
どんな子にも親に内緒のコトがある。 〜民法98条の2の謎に迫る(迫れていない)
潮見佳男「新債権総論1(法律学の森)」「新債権総論2(法律学の森)」(信山社 2017)
潮見佳男「基本講義 債権各論 第4版」(新世社2021,2022)
後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)
加賀山茂「求められる改正民法の教え方」(信山社2019)
○
初学者が読む入門書、という観点からして気になった箇所をいくつか。
第18課 多数当事者の債権関係(1)
分割債権・分割債務を同時に記述しようとして、どっちがどっちだよと悩まされる記述になっています(不可分債権・不可分債務も)。
「債権者」とか「債務者」とかどっちのことをいっているのか、一読して分かりにくい。
自分の頭で解きほぐすトレーニングなんでしょうか。「売主ら」とか自分で読み替えていく感じの。
第19課の連帯債務・保証債務では債務者側が複数の場合に記述を絞っているので、同じようにすればいいのに。
第21課 債権譲渡
譲渡通知が「観念の通知(表示)」か「意思表示」かみたいなことが書いてあるけども、それを論ずる実益が書いていないので、初学者にはなんのことやら分からないと思う。
第22課 債務引受・契約譲渡
債務引受とか履行引受とか、譲受人・引受人が何のためにわざわざ負担を引き受けるのかが書いていないので、イメージがしにくい。
池田真朗「スタートライン民法総論 第4版」(日本評論社2024)
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