今まで読む機会を逸したじゃないか。
田中二郎「租税法 第3版」(有斐閣1990)
確かに「第3編 租税法各論」は、平成元年までの制度の概説どまりで判例の引用も論点の記述もほぼないので、ここを読む意義は残念ながら無いかなあとは思います。
が、「第1編 序論」と「第2編 租税法総論」はなかなかの読み応え。
金子宏先生が乗り越えようとした山々がここにある、という感じ(偉そうにすみません)。
金子宏『租税法 第23版』(弘文堂2019)
「租税法と私法」という枠組みでいうと、田中先生が租税法志向なのに対して金子先生は私法志向、みたいなコントラストが読み取れたり。
○
第3版は1990年出版ですが、田中先生ご自身は新版が出版された1981年の翌年、1982年にはお亡くなりなっています。
ということで、第3版は大蔵省(当時)職員の方々が税制改正に合わせて手を加えたようです。
継続的に税制改正を反映してくれるならそういう改訂でも意味があるんでしょう。
が、第3版一回きりで終わらせたんじゃ意味がない。
もし田中先生ご自身の筆が入った箇所が減っているなら、むしろマイナスともいえる。
で、この第3版が最終版としてオンデマンドで出版され続けてしまっている。
「はしがき」を読むと、すでに初版の段階から大蔵省職員の方々が執筆協力されているようです。
ので、第3版で本来やるべきだったのは、田中先生が記述されていない箇所を削る作業だったはず。
学問的意義という意味では、ダウングレードして純度の高い田中租税法大系を残しておいたほうがよかったのに(ジョブズの遺志を残す的なアレ)。
勝手に想像するに、「第3編 租税法各論」は田中先生がほとんど書かれていない気がします。
ので、ここを削って『租税法総論』として出版すればいいのに。
○
話はちょっと違いますが、能見善久先生が四宮和夫先生の『民法総則』を改訂し続けているにもかかわらず、四宮先生単独執筆の最終版(第4版補正版)をオンデマンドで出版する、という弘文堂の所作を想起してしまいました。
四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版)」(弘文堂2018)
○
ちなみに、下記記事で引用した「税法は行為規範だが民法は裁判規範にすぎない」という物言い、どうやら田中先生のこの本が出どころのようです。
三木義一ほか「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
が、田中先生の時代の民法理解を無批判に現代に持ってくるの、やっぱり説明不足だと思う。
土地法、労働法、消費者法、競争法などといった規律によって契約の自由が切り崩されている状況で、『それでも契約は自由だ』という原則がどれだけ妥当するものなのか。
もっというと、税法の規律のせいで契約の自由が事実上制約される場面もあるわけで、民法の純粋な部分だけを取り分けて、契約は自由ということに意味があるのかどうか。
行為規範/裁判規範の問題については、あらためて整理して記事にします。
【しました】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
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