2020年01月06日

税法・民法における行為規範と裁判規範(その3)

 前回の続き。
 記述AとB、同じようなことを言っているようで意味合いが全然違う、という話。

税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その2)

A 田中二郎「租税法(第3版)」(有斐閣1990) 57頁
 「法規そのものの意義、性質についていえば、私法関係は、原則として、当事者の自主自律に委ねられ、私法法規は、当事者間で問題を解決することができない場合の裁判規範の性質を有するものであるのに対し、租税法規は、それに従って課税が行われるべき行為規範であると同時に裁判規範でもあること(租税法は、元来、当事者の話合いによる取引妥協を許さない)、私法と租税法では、その規律の立場を異にするため、概念の相対性を承認する必要があること、経済取引等の私法上の効力の有無は、直ちに租税法上の課税要件の存否に影響を及ぼすものでないこと等、租税法の独自性を認める必要がある。」

B 三木義一ほか「よくわかる税法入門 第13版」(有斐閣2019) 24頁
 「民法の場合は、当事者が原則として契約の自由を行使して、紛争が生じたときに裁判所に判断してもらう規範(裁判規範)ですから、裁判官が合理的に判断できればいいかもしれません。しかし、税法は税務署と納税者に直接向けられていて、両者ともに税法に定められたとおりにしなければならず(行為規範)、しかも、納税者は申告をしなければならないのです。」


田中二郎「租税法(第3版)」(有斐閣1990)
三木義一ほか「よくわかる税法入門 第13版」(有斐閣2019)


両記述を並べてみて、
 民法 裁判規範
 税法 行為規範+裁判規範
という部分だけ抽出すれば、如何にも同じようなことを言っているように読めます。

 が、そこから導き出される帰結は全く逆方向へ。


 まず記述B。

 記述Bは「税法では不明確概念は許されない」という文脈で出てくるものです。

 そのかぎりではごもっともな主張。
 なんですが、民法の行為規範性を否定したら税法に跳ね返ってきちゃうんじゃね、ということを前回までで述べました。

 これは税法における「課税要件の充足」をどのように判断するか、に関わります。

 物をもらうでも物を売るでも何でもいいんですが、これら取引をおこなった場合に税金が発生するかをどうやって判断するのか。
 もし、民法上の効力に「従属」させるという立場をとるならば、ひとり税法が明確であっても、民法が不明確なせいで課税要件の成否も不明確になってしまうわけです。

 契約に無効・取消原因があっても一旦は課税要件成立する、から民法上の効力とは直結していない、にしても、結局更正できるかどうかの判断に影響してきます。

 民法の行為規範性を否定しつつ課税要件を民法に従属させる立場をとった場合の帰結を図式化すると次のとおり(記述Bがそういう立場かまでは読み取れないので、あくまで一つのモデルとして)。

【モデルT】
 ・民法の行為規範性: 否定   《民法不明確》
 ・税法の不明確概念: 許されない 《税法明確》
 ・課税要件の成否:  民法従属 《税法不明確》

 この一貫してない感じ。
 それぞれ個別の主張としては、納税者の予測可能性を高める、というつもりなんでしょうが、実際には予測可能性を害する結果となってしまうわけです。

 よくある誤解が、「税法独自に解釈すると予測可能性を害する、ゆえに民法に従属させるべき」みたいな主張。
 が、実際に予測可能性を害するのは解釈がころころ変わる場合です。

 税法独自に解釈しようが、その解釈が安定しているかぎりは予測可能性は害されません。
 むしろ、融通無碍な民法解釈に税法を従属させるほうが、予測可能性が害されるおそれは高いともいえます。


 ここででてくる立場が記述Aの方向性(こちらも田中先生のお立場が必ずしもそうだとまでは読み取れませんので、あくまでも一つのモデルとして)。

【モデルU】
 ・民法の行為規範性: 否定   《民法不明確》
 ・税法の不明確概念: 許されない 《税法明確》
 ・課税要件の成否:  税法独自  《税法明確》

 これなら民法が不明確であっても、課税要件を税法独自に解釈することで税法の明確性を確保することが可能になります。
 民法の行為規範性を否定しつつ税法の明確性を確保したいのであればこのルートになるわけで、これはこれで一貫した主張といえます。
 が、民法の行為規範性を否定するのは現実的ではない、ということは前回までで述べたとおりです。


 ということで、民法の行為規範性を肯定した場合のモデル。

【モデルV】
 ・民法の行為規範性: 肯定    《民法明確》
 ・税法の不明確概念: 許されない 《税法明確》
 ・課税要件の成否:  民法従属  《税法明確》

【モデルW】
 ・民法の行為規範性: 肯定    《民法明確》
 ・税法の不明確概念: 許されない 《税法明確》
 ・課税要件の成否:  税法独自  《税法明確》

(もちろん「不明確概念は許される」という立場もあると思いますが、明確性を志向するモデルに限るということでここでは省略)

 と、民法の行為規範性を肯定してはじめて、課税要件が民法に従属するか独立するかを議論できるようになるんじゃないですかね。
 行為規範性を否定するのであれば、もはや民法とは独立して判断するしか道は残されていないわけで。


 この問題の延長線上にもうひとつ論点があると思うのですが、次回以降にまわします。

税法・民法における行為規範と裁判規範(その4)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その5)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その6)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その7)
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