2020年01月13日

税法・民法における行為規範と裁判規範(その4)

 前回の続き。

税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その2)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その3)

 「民法は行為規範ではない」なる物言いが税法に返ってきちゃってさあ大変、というのがここまでの話のメイン(そんな話か?)。

 で、前回仄めかした「延長線上」というのは、税法の先、というか中にある「刑罰規定」のこと。
 以下、これを「租税刑法」と称することにします。


 たとえば所得税法のやつ(省略入れてます)。

所得税法 第238条
1 偽りその他不正の行為により、第百二十条第一項第三号(確定所得申告)に規定する所得税の額につき所得税を免れた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。


 この「所得税を免れた」かどうかについて、課税要件を充足しているかが前提となるわけです(租税実体法の問題)。
 で、もし、課税要件の判断が民法に従属するというなら、なし崩しで租税刑法も民法に従属することになってしまいます。

  税法   「俺は明確だ!」
   
  租税刑法 「俺も明確だ!」
   
  民法   「あっしは不明確でっせ!!」(できる限りのアホ面で)

 税法と租税刑法が頑張って明確でいようとしているのに、民法のせいで税法も租税刑法も不明確に。
 できの悪い長男のせいで、全員ひっくるめてポンコツ三兄弟扱いされる的な。

 刑法といえば「刑罰法規の明確性の原則」、税法といえば「租税法規の明確性の原則」が高らかに謳い上げられているところ。
 のに、民法従属説がやってきた途端、みんなゆるふわ系に。

 腐った蜜柑のテーゼ。


 ちなみに「刑法×民法」でも、刑法上の違法性の判断を民法に従属させるか独自に判断するかということが議論になっています。
 で、独自説は処罰範囲拡大、従属説は処罰範囲縮小、という一般的な傾向。

【刑法×民法】
佐伯仁志、道垣内弘人「刑法と民法の対話」(有斐閣2001)

 が、独立説それ自体は処罰範囲を拡大するものではなく。
 独自に判断するとして、その違法性の中身を緩やかにすることが問題なわけで。

 他方で、従属説も必ずしも処罰範囲を縮小するものではなく。
 ゆるふわ民法をそのまま導入するなら、どうしたって処罰範囲が拡大してしまうわけで。


 そんなわけで、租税+刑罰法規の明確性を確保するために民法からは独立して判断すべき、という方向にいくのは、ひとつの一貫した見解。

 これに対して、民法の行為規範性を否定しておきながら課税要件を民法に従属させつつ、それでも税法は明確だというのは、筋が通らない。
 (前回までに引用した)田中二郎先生の記述Aの周到さと、それと表層だけ似ている記述Bとのコントラストが際立つ。


 そういえば、

  税法学×民法学

あるいは、

  民法学×刑法学

のカップリングは見かけますが、

  税法学×刑法学

のカップリングや、ましてや、

  税法学×民法学×刑法学

の、三角関係ってあまり見かけない気がします。
 私の不勉強なだけかもしれませんが。


 と、ここまで論じてきた行為規範の問題、ちゃぶ台ひっくり返すかも。

 次回へつづく。

税法・民法における行為規範と裁判規範(その5)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その6)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その7)
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。