税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その2)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その3)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その4)
税法・民法における行為規範と裁判規範(その5)
税務上の取扱いに関する事前照会に対する文書回答について(国税庁)
これ「事前照会に対する」とあって、この「事前」は「申告期限前」を意味しているんだと思います。
国税庁の立場からすればまあそうだよなと思いつつ、(その3)までで引用した「記述B」のように、租税法学者が取引後申告前の時点で働く規範を行為規範というのはやはり解せない(しつこい)。
この文書回答手続、取引後のみならず、資料一式揃っていて具体的な事実が動かないなら取引前でも照会できることになっています。
「自ら実際に行った取引等又は将来行う予定の取引等で個別具体的な資料の提出が可能なもの」
こういう絞りをかけているのは、事実がすべて確定している状態でないと回答がちがってきてしまうから、ということなんでしょう。
いわゆる「税務シュレディンガーの○○」ですね(違う)。
【税務シュレディンガーの○○】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
また、回答の対象とならないものとして、たとえば、
1 照会の前提とする事実関係について選択肢があるもの
2 個々の財産の評価や取引等価額の算定・妥当性の判断に関するもの
4 取引等の主要な目的が国税の軽減等であるものや通常の経済取引等としては不合理であると認められるもの
ということが書いてあります。
ので、何でもかんでも事前に回答もらえるわけではない。
としても、個別の事案で回答がもらえるのは、「現実の」納税者の予測可能性を高めるのに役に立つといえますよね。
○
と、こういう制度があるものの、税務上の争いというのは未だ現実に存在しているわけで。
すべての税務上の問題が「文書回答手続」を経由することになっているわけではない。
こういう現状で、税法の予測可能性を高めるにはどうすればよいのか。
一つの極端な方向としては、疑義のある場合はすべて文書回答手続を経るべきで、照会しなかった場合は不意打ち的な課税をされてもドンマイ、というように考えるか。
もちろん、現状の「文書回答手続」のままではなく、法律レベルに昇格させた上で手続保障を充実させる、といった手当てが必要でしょうが。
ただ、法律レベルに昇格させるとしても、ここでの回答がのちの裁判所を拘束するとなると「三権分立」の問題が出てきます(中身はだいぶ違うが、かつての公取委の「実質的証拠法則」のような議論)。
これがたとえ納税者有利だとしても「合法性」の観点からは問題があるわけです。
ので、たとえば「当該事案限りで課税しない」という結論のみに拘束力が生じる、というように拘束力の範囲を限定する必要があるんでしょう。
○
他方で、すべて照会しろなんて、何でもかんでもお上にお伺いを立てる「護送船団方式」の復活かよ、というのであれば、事後的な救済理論を充実させるべき(結果、それが事前規範として働く)。
かといって、「不明確なら違憲!」みたいなデカい理論はなかなか発動されない。
とすると、やはり「個別の事案限りで課税しない」という理屈を考えると。
「将来効」的なやつ。
と、個別の事案を救済しつつ、判例+その後の立法の積み重ねによって税法の明確性を志向していく、というのが現実的な司法過程⇔立法過程なんでしょうね。
ひとり法律レベルでのみ税法の明確性を志向する、というのは無理がある。
○
そう考えると、下記判決が当事者救済のために奇妙な理論を打ち立てたり、
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
下記裁決が課税庁救済のために奇妙な理論を打ち立てたり、
加算税をめぐる国送法と国税通則法の交錯(平成29年9月1日裁決)
と、個別事案の救済・非救済と一般論を連動させてしまっているの、どうにかならなかったものかと。
たとえば前者であれば、「信義則」のような例外則で両者を分断できたわけですよね(後者のフォローは、理論が奇妙すぎて思いつかない)。
○
このあたりに裁判規範と独立した意味での行為規範のポジションがありそう。
税法・民法における行為規範と裁判規範(その7)
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