2018年の相続法改正や2019年の特別養子の改正までフォローしているので、旧版を持っている人でも買わざるをえないところ。
窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)
親族法と相続法を両方カバーしているとはいえ、668頁というのはなかなかのボリューム。
なぜこんなボリュームになるかというと、通常の教科書でいうところのいわゆる「行間」を、ぐいっと広げて、我々常人が理解できるレベルになるまで、そこにひたすら言葉を詰め込む、ということをしているせいです。
駄菓子屋のおばあちゃんが、おまけとかいって袋にものすごい量のお菓子を詰め込んでくれる的な、親切心に溢れた所作(こういう喩えは、もはや伝わらない世代が多いのでしょうか)。
その、論理飛躍のない地の足についた説明のおかげで、ボリューム感をあまり感じずにスムースに理解することができます。
下手に「条文引き写し系」の薄い本を読むよりも、理解するのは早くなると思う。
逆に、丁寧な説明をしたせいで、いまいち論理が薄いところがあぶり出されてきます。
が、そういった箇所は率直にそういうものとして言ってくれるので、安心して読めます。
ひたすら文章による説明で、図表の類がほとんど出てこないのは、あえてそうしているのかどうか。
同じコンセプトで、『不法行為法』も出ています(むしろこちらがご専門)。
窪田充見「不法行為法 第2版」(有斐閣2018)
○
ちなみに、潮見佳男先生の「詳解 相続法」は相続法だけで756頁もあります。
潮見佳男「詳解 相続法 第2版」(弘文堂2022)
さぞかし説明が丁寧かと思いきや、そうではなく、ものすごい数の「CASE」が載っているせいでこうなっています。
本文の解説自体は簡潔なところがほとんど。「事例で語る」といった趣の(「事例を」ではなく)。
という感じなので、窪田先生の本で理解した知識を潮見先生の「CASE」で実践してみる、という使い方をすると良さそう。
○
個人的に、「お!」と思った文章。
「個人的なことになるが、具体的相続分の計算という問題、筆者は、比較的好きである。計算ばかりであんまり好きではないという諸君も多いのではないかと思うが、そうした計算の前提となる仕組みの中には、相続をめぐる基本的な問題が見え隠れしていると感じられるからである。」
私のブログを読んでくれている人であれば、なぜこの文章を引用したかお察しいただけるかと思います。
これとの対比をするためです。
三木義一ほか「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
「この本を読んだ方が、税法の中に数式ではなく、人々の生活の息吹や社会の動きを感じ取って、税法の面白さを少しでも理解してくれたら」
行為/裁判規範がらみで散々イジった本ですが、この数式に否定的な見方をする税法教科書と、肯定的な見方をする民法教科書とのコントラストを味わってどうぞ(勝手に対立を煽る)。
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
煽っておいてなんですが、後者の文章も、本当は窪田先生と同じ趣旨のことを言いたかったのかもしれませんね。
が、やっぱり数式「ではなく」はないよなあ。
○
巻末に「特別講義」として、「家族法×税法」の絡みについて佐藤英明先生と対談されています。
佐藤先生も、窪田先生と同様に分かりやすい教科書をお書きになる先生です。
佐藤英明「プレップ租税法 第4版」(弘文堂2021)
佐藤英明「スタンダード所得税法 第4版」(弘文堂2024)
比較的丁寧に説明してくれているものの、多分これだけ読んでも理解するの難しいと思う。
ここは、なんかそういう論点があるんだなあ、くらいの雰囲気が掴めればいいんじゃないんですかね。
で、あとは佐藤先生の教科書を読むと。
いっそのこと、巻末のおまけなどではなく、独立の一冊ものとして、家族法全体を税法の観点から総点検する本を、このお二人で作ったほうがいいんじゃないでしょうか。
○
ところで、窪田先生は「はしがき」の中で、太田武男先生のおかげで、的なことを書いています。
のに、〈参考文献〉には太田先生の教科書がなぜか掲げられていない。
なぜだ?
太田武男「親族法概説」(有斐閣1990)
太田武男「相続法概説」(一粒社1997)
もちろん、古いとか入手困難とかで載せないってことはありますが、〈参考文献〉には古くて入手困難な本も載っているんですよね。
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