結論だけいうと、譲渡所得は売主の含み益に課税するものなんだから、同族会社となるかどうかは譲渡前の売主の支配力によって判定すると。
「通達を文理解釈する」などというストレンジ判決は、破棄されました。
【最高裁のサイト】
取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき,配当還元価額によって評価した原審の判断に違法があるとされた事例
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89339
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/339/089339_hanrei.pdf
取り急ぎ速報ベースで記事にしておきます。
判決文よく読んでから、そのうち再掲する予定(が、たぶん初見の感想とほぼ変わらないはず)。
○
当ブログでも原判決である東京高裁判決をイジり倒したところですが、補足意見を含めた最高裁判決の判断、このブログとほぼ同旨といっていいんじゃないでしょうか。
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
解釈の解釈の終わり? 〜さらば東京高裁平成30年7月19日判決
そうはいっても、残念ながらこれは「予測が的中したぜ、いえ〜い!」とドヤ顔できるほどのことではないです。
最高裁が、「通達を文理解釈する」などというエキセントリックな手法をとらず、法律の趣旨に則った解釈をするという、品行方正・清廉潔白な王道の手法をとったからにすぎません(対して原判決が邪道の極み)。
大昔のコンピュータリバーシゲーム的な。
定石どおりにしか打たないので、手が読めてしまう感じの。
判決はドキドキハラハラなゲームじゃないんだから、「予測可能性」という観点からはそれでいいのです。
理由付けがシンプルで説得力のある判決だと思います(急に謎の上から目線)。
最高裁であっても、一般民事・刑事以外の領域だと、ときとして妙な判決を出すことはあります。
結論はともかく、たとえば武富士事件判決には、そこはかとなくそういう感を、私は感じます(ということから、やたらと最高裁判決を神格化させる学習法には違和感バリバリ)。
【借用概念論】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)
が、今回はちゃんとお作法通りの解釈となりました。
やはり、宇賀克也判事、宮崎裕子判事が所属されている第三小法廷だった、というのが大きいんでしょうね。租税事件だという特殊性に惑わされることなく。
○
やや脱線しますが、プロパー裁判官でないからといって、必ずしも自己の学問的良心にしたがった判断をするとは限りません。
特に学者出身の最高裁判事の場合、過去の判例とマッチしない学説を主張していた場合は悩みどころ。
そのことを主題としているものとして、たとえば伊藤正己先生のご著書。
伊藤正己「裁判官と学者の間」(有斐閣1993)
伊藤正己先生・判事ご自身は、積極果敢に少数意見を書かれていて、それが一冊の本として仕上がっているのですが、皆が皆そうできるわけではない。
○
話を戻して、結論は「破棄差戻し」。
ということは、納税者側にもワンチャン(ワン・チャンス)なくはない。
というのも、宇賀判事、宮崎判事お二人の補足意見をみると、通達に対するダメ出しをされています(特に宮崎判事はキツめ)。
ここに突破口を見出すと。
以前の記事でも最後にちらっとふれたところですが、「通達が分かりにくいのが悪い」ということで「信義則」などで救済してもらう道も考えられなくはない。
が、そんな最高裁に歯向かうような判決を、東京高裁に期待するのは望み薄でしょうね。
確かに、最高裁自身が信義則云々について明言しているわけではありません。
けども、信義則云々を明言しないまま納税者有利の原判決を破棄して差戻ししているってことは、信義則云々は本件で問題としない、ということが暗に示されているからだと考えられます(信義則と弁論主義の関係はさておき)。
とすると、差戻審たる東京高裁が、そこをほじくり返すなんてことはしないだろうなと。
そもそも、東京高裁の判事をやっているほどの優秀な裁判官が、「通達を文理解釈する」なんてビザールな法解釈をしたこと自体が不可解なわけです。
法解釈のお作法なんて、当然心得ているはずで(ずっと事務方だった、とかでない限り)。
その行動原理をどうにか説明するならば、近時の最高裁の文理解釈重視の税法解釈におもねったからだと考えざるをえません。最高裁が税法の文理解釈を重視しているのならば、通達も文理解釈するのが最高裁のお眼鏡にかなうはずだろうと。
「納税者を救済したい」などという熱い気持ちでは、法解釈の常道を踏み外させることはできなかったでしょう。
で、それが完全に的外れだったと。
これは決して高裁判事を揶揄しているのではなく。
優秀なはずの裁判官を、ひどく奇妙な解釈へ向かわせたことの合理的な説明をするとしたら、こういう方向で考えるしかないのではないかという観点からの推測です。
このあたりは、楊修が曹操に処刑された理由を想起してもらえれば大丈夫です。
われわれ外野の立場からすれば、東京高裁には、最高裁に嫌がられようとも「信義則アタック」をかましてもらいたいところ。
で、再度最高裁に上告受理されてその点を明示的に判断してもらえれば、税務信義則判例がまた一つ増えることになりますし(ので、揶揄のつもりはないが煽ってはいる)。
○
最初にこのブログとほぼ同旨と言いましたが、私が全然考慮していなかったところが一つ。
お二人の補足意見では、やけに、所得税基本通達59-6の「例により」に着目されていました。
所得税基本通達59−6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23〜35共−9に準じて算定した価額による。この場合、23〜35共−9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、「財産評価基本通達」の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。
補足意見のこの箇所、私には、
『「例により」ってのは、評価通達をそのまま横流しするんじゃなく、所得税法の趣旨にあわせるってことを言っているんだよな、な、そうだよな、そうだったってことにしておこうな。』
と言っているように読めました。
通達の出来の悪さを論難しておきながらあとからフォローしてあげる、いわゆる「ツンデレ補足意見」です。
しかも、通達の文言の中でも脇役っぽい子をいきなり表舞台に立たせて活躍させる的な。シンデレラですか。
さすがに私には、このようなツンデレ要素やシンデレ要素というのが備わっていないので、ここまでの予測はできませんでした。
精進いたします(宮崎判事のほうは「ツン」が強すぎる気がしますが)。
○
ところで、同じくこのブログでイジった東京高裁判決(TPR事件)も上告中です。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
こちらの高裁判決は趣旨解釈らしきことをしているので、譲渡所得課税の趣旨から解釈をしている今回の最高裁判決と軌を一にするかのように思えるかもしれません。
が、散々イジったとおり、こちらの高裁判決、趣旨解釈とはいっても「横流し系」「ロンダリング系」の邪道な趣旨解釈だというのが私の見立て。
しかもその趣旨というのを立法担当者の解説から流用している、というところがいかにもまずい。
最高裁が趣旨解釈を重視している、という傾向におもねったつもりなんでしょうが、違うそうじゃない。
もしまた第三小法廷に係属してしまったら、宮崎判事に「いち立法担当者の解説を鵜呑みにしてんじゃねえ、ちゃんと裁判所として整合性のとれた解釈を示せよ」と言われてしまう気がする。
なんか感情移入して泣きそう。
誰か、ツンデレ解釈またはシンデレ解釈をしていただけませんか(介錯ではなく)。
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