2020年04月20日

続・契約の成立と印紙税法(法適用通則法がこちらをみている)

 以前、印紙税法をダシにして、民法をイジリたおしたことがあります。

 私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法

 そこでは、民法(学)が成立要件と効力要件を分けてくれたおかげで、印紙税法の「契約書」の範囲が拡大し課税範囲が広がった、ということを書きました(迷惑)。


 この成立要件と効力要件を分けるという考え、民法学上も異論がないわけではないです。

 私がその異論をみたのは我らが石田穣先生の体系書。
 が、石田先生が通説に異論を唱えているなんてどうせ異説だろ、ということで記事には反映しませんでした。

 石田穣『民法総則』(悠々社1992・信山社2014)

 なお、「どうせ異説だろ」というのは、決して石田先生をサゲているのではありません。
 むしろ私のサゲは、こういった、通説に対する適切な批判を取り入れることが出来ない、民法学に対して向けられています。

 ので、冒頭の記事では「キャッツ・アイ」まで持ち出して、分ける考えに対して揶揄感を仄めかしながら書いていました(弔い合戦)。


 で、あらためてこの記事を蒸し返そうと思ったのは、通則法の条文を読んで、あれ?と思ったからです。

法の適用に関する通則法
第七条(当事者による準拠法の選択)
  法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。


 僕たちの「通則法」といえば、国税通則法ではなく法の適用に関する通則法。

 ここに「成立」って文言がでてきます。
 「効力」(=効果)と対比して書かれていることからもわかるとおり、通則法上は、民法学でいうところの「効力要件」もこの「成立」の中に含まれています。
 要件(成立)と効果(効力)の2つで分けているわけですね。

 なお「方式」が第10条で別に取り出されているのは、このように書かなければ「成立」の中に含まれてしまうところ、別の連結ルールを採用するため、です。

法の適用に関する通則法
第十条(法律行為の方式)
1 法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の後に前条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。
2 前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。
3 法を異にする地に在る者に対してされた意思表示については、前項の規定の適用に当たっては、その通知を発した地を行為地とみなす。
4 法を異にする地に在る者の間で締結された契約の方式については、前二項の規定は、適用しない。この場合においては、第一項の規定にかかわらず、申込みの通知を発した地の法又は承諾の通知を発した地の法のいずれかに適合する契約の方式は、有効とする。
5 前三項の規定は、動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利を設定し又は処分する法律行為の方式については、適用しない。


【通則法の言葉遣い】
 成立: 要件(実質)
 方式: 要件(形式)
 効力: 効果

 ここでいう「方式」というのは、たとえば保証契約は書面でしなければならない、のようなものです。

民法
第四百四十六条(保証人の責任等)
1 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。



 さて、そうなると、民法(学)と通則法とで「成立」の意味が違うということになるのでしょうか。

 今までだったら、成立要件/効力要件なんて講学上の概念分類にすぎない、といえていたのかもしれません。
 条文上の成立には効力要件も含むものなんだと。

 が、2017年民法改正によって、分ける考えベースの条文が作られてしまいました。

民法
第五百二十二条(契約の成立と方式)
1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。


 この条文の読み方として、ここでいう申込みと承諾は効力要件を備えていることを前提にしている、と読み込むことができるのかもしれません。
 が、従前の一般的な見解を明文化したというならば、やはり効力要件は含まれていないと読まざるをえないんでしょう。  

 なお、2項で「方式」のことを書いていますが、これも通則法と同じく「成立」の中に「方式」が含まれていることを前提にしていると思います。

 もちろん、通則法は世界中の「法律行為の成立」を取り込まなければならない、他方で民法の「成立」は日本民法内部の問題にすぎない、ということで、必ずしもイコールである必要はありません。
 が、国内法同士で足並みが揃っていないの、いきなり出足から躓いている感じで、なんか嫌ですね。


 とはいえ、この論点、民法上は別にどっちであろうと結論はかわりません。
 「成立する/しない」といおうが、「効力が生じる/生じない」といおうが、民法上はどちらでも結論は同じなので(立証責任云々は訴訟法レベルのはなし)。

 実際、民法内部でも用語を正しく使い分けているか怪しいですし。

民法
第五百五十五条(売買)
 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。


 この555条を522条と見比べてもらえば分かるとおり、522条を売買に反映させたかのような言い回しになっています(できたのは555条のほうがはるか前ですが)。
 ところが、522条は「成立する」、555条は「効力を生ずる」となぜか違うことが書いてあります。

  522条: 申込み+承諾 → 成立する (成立要件?)
  555条: 売ります+買います →効力を生ずる (効力要件?)

 「当然の原則は書かない」という明治民法以来の伝統壊してやったぜ、とかドヤ顔しているのかもしれませんが、既存の規定との整合性にちゃんと配慮したのか、非常に疑わしい。

 「瑕疵担保責任」まわりの改正でも足並み揃わない感出しまくりなのは、下記記事で論じたところ。

ドキッ!?ドグマだらけの民法改正


 それはともかく、問題は印紙税法です。

 冒頭の記事で書いたとおり、印紙税法では「契約の成立」を証すべき文書を「契約書」(=課税文書)だとしています。
 そのため、ここでいう「成立」に効力要件が含まれるかどうかで、印紙税の課税範囲が変わってきます。

  効力要件含む   →課税範囲狭くなる
  効力要件含まない →課税範囲広くなる

 さあ!借用概念肯定論者の諸君、この「成立」につき、民法から借用するのか通則法から借用するのか、どちらからお借りてしてくるのか決め給え!(煽り)

 通則法の成立: 成立要件+効力要件
 民法の成立:  成立要件

【借用概念論について】 
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その11)

【ビアンカ・フローラ論争について(付デボラ)】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その7)


 通則法の1条をみるかぎり、民法よりも通則法のほうがポジションは上だと思うんです。
 一般的には、準拠法を選ぶためだけの法律としか思われていない気がしますが。

法の適用に関する通則法
第一条(趣旨)
 この法律は、法の適用に関する通則について定めるものとする。


【鳩と蟻】
視野を広げるための、国際私法

 他方で、通達はいかにも民法学からお借りしてきたっぽい言い回し(そのせいで民法522条が通達を真似したみたいになっている)。

印紙税法基本通達
第14条(契約の意義)
 通則5に規定する「契約」とは、互いに対立する2個以上の意思表示の合致、すなわち一方の申込みと他方の承諾によって成立する法律行為をいう。



 効力要件を取り込むこととした場合に、問題となるのは以下の事由。
  ・無効原因
  ・取消原因
  ・解除原因

 これら原因がある場合に、課否判定はどうなるのか。

 公式では取消・解除しても還付しないということが書いてあります。

収入印紙の交換と印紙税の還付について(国税庁)

 が、なぜそうなのか理由までは書いていない。
 取消・解除というのは契約書作成後の事情だから、という素朴な理由からでしょうか。

 確かに、取消権・解除権の行使自体は契約書作成後ではあります。
 けども、取消原因自体は契約書作成時にすでにあるものです。
 解除原因のほうも、従前は契約後の事情に限られていましたが、原始的不能を債務不履行に取り込んだせいで、契約前の事情も含まれることになりました。

 取消原因・解除原因が契約書作成時にあっても、その時点では有効な契約が成立しているのであって、間違って印紙を貼ったことにはならない、ということでしょうか。

 そうだとして、無効原因がある場合はどうなのか。

 無効の場合、理屈上は、形成権行使をまたずにはじめから効力が生じていないわけです。
 それでも、取消・解除と同様の扱いとなるのか。

 無効の場合も課税するのであれば、やはり印紙税法の「成立」に効力要件は含まれないとするのが素直でしょう。
 錯誤みたいに無効→取消に変更されることもあるわけで、無効と取消とで扱いを変える合理性もないでしょうし。


 一応、筋道としては以下のとおり。

【通則法からお借りする1】 《完全遡及説》
ア 解除 →不課税
イ 取消 →不課税
ウ 無効 →不課税

 ⇒取消・解除されたらさかのぼって課税根拠を失う。

【通則法からお借りする2】 《原因時説》
ア 解除(後) →課税
  解除(前) →不課税
イ 取消(前) →不課税
ウ 無効(前) →不課税

 ⇒原因が契約書作成前か後かで判定する。

【通則法からお借りする3】 《作成時説・不遡及説》
ア 解除 →課税
イ 取消 →課税
ウ 無効 →不課税

 ⇒作成時に効力が生じていたかどうかで判定する。

【民法からお借りする】 効力要件はずし
ア 解除 →課税
イ 取消 →課税
ウ 無効 →課税

 どうしても無効の場合も課税したいというならば、民法からお借りすることになると。


 上記筋道は、お借りしてきたものがそのまま印紙税法側の結論に直結することを前提としています。
 借用概念だというならば、本来はそうでなければならない。

 が、どちらからお借りしてくるかにかかわらず、印紙税法の側で、契約の成立を「証明する目的」で作成されているかどうかで課否判定をする、ということも考えられます。

印紙税法
別表第一 課税物件表(第二条―第五条、第七条、第十一条、第十二条関係)
課税物件表の適用に関する通則
5 この表の第一号、第二号、第七号及び第十二号から第十五号までにおいて「契約書」とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含む。以下同じ。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。

印紙税法基本通達
第12条(契約書の意義)
 法に規定する「契約書」とは、契約当事者の間において、契約(その予約を含む。)の成立、更改又は内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証明する目的で作成される文書をいい、契約の消滅の事実を証明する目的で作成される文書は含まない。


 ※ここで、法が「証すべき文書」と表現しているものを、通達が「証明する目的で作成される文書」と言い換えてしまっているのが気になります。
 確かに、前者はいまいち意味が取りにくい。としても、ここから後者のような読み方ができるのかどうか。
 といった疑問はありますが、さしあたり通達の解釈にのっかって話をすすめます。
 
 仮に効力要件を取り込んだとしても、印紙税法が問題とするのは効力要件の存否それ自体ではなく、それを「証明する目的」で書面を作成したかどうか、で判定をするんだと。しかも「目的」とはいいながら、当事者の主観により判断するのではなく、あくまでも文書の記載上から読み取れるかで判断すると。
 印紙税は文書課税云々という理屈からすれば、こちらの筋のほうが正しいとなるのでしょう。

 たとえば、「虚偽表示」ならば効力要件は満たさず契約は無効になります。
 が、書面上はあくまでもそれが有効であるかのように作成されるわけで、契約の成立を「証明する目的」はある(と書面から読み取れる)んだと。

 借用しておいてそりゃないぜ、て感じ。
 通達がいかにも民法からお借りしてきたみたいな言い回しをしているのは、完全なブラフかよ。

  通則法ルート: 成立かつ有効+それを証明する目的
  民法ルート : 成立    +それを証明する目的

 通則法ルートのほうが一見せまくなるようにみえます。
 が、契約書というのは、書面上は有効になるようにつくられるのであって、有効であることを「証明する目的」が読み取れない、などということは考えにくい。

 考えられるとしたら、殺人依頼の対価として不動産を譲渡する、みたいな書面だけみても無効であることが明らかな場合でしょうか。
 いくら内心で有効だと思っていたとしても、どうあってもこれが有効になることはないわけです。ので、有効を「証明する目的」にはなりえないと。
 「法の不知は許されない」のヴァリエーション。

 こういう極限の事例になってはじめて、どちらからお借りするかで結論がかわることになりそう。民法ルートならこんな事例でも当然課税でしょう。
 ただし、税法の世界では「違法所得も課税される」みたいな変則ルールもあるので、通則法ルートであっても、お構いなしに印紙税課税と判断されるのかもしれませんが。

 結局のところ、この「証明する目的」というのは、「契約の成立」に対する制御デバイスとして働くのではなく、むしろ拡張デバイスとして働いていることになります。

  通則法ルート:{成立かつ有効}を証明する目的が書面から読み取れるか
  民法ルート :{成立}    を証明する目的が書面から読み取れるか

 通則法ルートか民法ルートかなんて、真面目に論じるだけ無駄じゃねえか。

 さあ!決めるのは印紙税法、君自身よ!(ぶん投げ)


 念のため、私がわかる範囲ではありますが、時系列に従って並べておきますので、誰が誰からお借りしているのかご教授ください。

民法(1896年)
法例8条(1898年)
民法学(?)
印紙税法(1967年)
印紙税法基本通達(1969年)
通則法7条(2006年)
民法522条(2017年)

【つづき】
続々・契約の成立と印紙税法(代理法がこちらをみている)
posted by ウロ at 11:13| Comment(0) | 印紙税法
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