2020年04月27日

続々・契約の成立と印紙税法(代理法がこちらをみている)

 前回、民法・通則法と印紙税法の絡みについて記事にしながら、あえて触れなかった箇所があります。

続・契約の成立と印紙税法(法適用通則法がこちらをみている)

 チラチラとこちらを見ていたのは気づいていたのですが、ややこしいことに巻き込まれたくないな、と思って見ないふりをしていました。

 でもまあ、ちょっと気になるなあということで考えてみたんですが、「やめときゃよかった」のやつでした。

【やめときゃよかったシリーズ】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)

 そうはいっても、途中でやめるのは気持ち悪いので、できるところまで前進してみます。
 以下、本題。


 民法学では成立要件と効力要件の2つに分けている、と書きましたが、より細かく分けているものもあります。
 この手の概念分類が精密な四宮和夫先生の教科書だとこんな感じ。
 
  ・成立要件: 申込みと承諾の一致だけ
  ・効力要件: 意思表示の瑕疵とか
  ・効果帰属要件: 代理とか
  ・効果発生要件: 期限、条件とか

 要件満たす場合の結果はいずれも同じなんでしょうが、満たさない場合の救済ルールが違うのでこういう区別をしておこう、ということかなあと、たぶん(想像)。

四宮和夫、能見善久「民法総則 第9版」(弘文堂2018)


 前回までの記事では、「効力要件」が欠けたら印紙税法はどう評価されるか、ということを論じてきました。が、精密に議論するなら、「効果帰属要件」「効果発生要件」が欠けた場合も検討する必要があるのでしょう。
 ということで、今回は「効果帰属要件」が欠けた場合の印紙税法の課否判定を検討してみます(素材は「任意代理」に限定します)。


 「効力要件」の場合は、二当事者間の問題に留まっていました。
 他方「効果帰属要件」となると、本人、代理人、相手方と三者でてきます。

 そうすると、印紙税法上検討しなければならないのが、誰が印紙税を負担するのかという「納税義務者」の問題。
 そこでまず、印紙税法における「納税義務者」ルールを確認します。

印紙税法
第三条(納税義務者)
 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。

印紙税法基本通達
第42条(作成者の意義)
 法に規定する「作成者」とは、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる者をいう。
(1) 法人、人格のない社団若しくは財団(以下この号において「法人等」という。)の役員(人格のない社団又は財団にあっては、代表者又は管理人をいう。)又は法人等若しくは人の従業者がその法人等又は人の業務又は財産に関し、役員又は従業者の名義で作成する課税文書 当該法人等又は人
(2) (1)以外の課税文書 当該課税文書に記載された作成名義人

第43条(代理人が作成する課税文書の作成者)
1 委任に基づく代理人が、当該委任事務の処理に当たり、代理人名義で作成する課税文書については、当該文書に委任者の名義が表示されているものであっても、当該代理人を作成者とする。
2 代理人が作成する課税文書であっても、委任者名のみを表示する文書については、当該委任者を作成者とする。


 法には単に「作成者」とだけあって、これを通達が敷衍していると。
 整理すると次のとおり。

【納税義務者ルール(通達)】
 A 原則は書面上の作成名義人
 B 法人の役員・従業者名義 ⇒法人
 C 委任者+任意代理人名義 ⇒代理人
 D 委任者名義のみ ⇒委任者

  (以下、委任者と本人は互換的に用います)

 これはあくまで通達ルールですが、以下これをベースに話をすすめます(が、当然のようにイチャモンをつける)。


 なお、今回の論点とは関係ないですが、Cで代理人が納税義務者になるってことは、この場合に本人が印紙代を負担してしまうと、

  代理人: 租税公課(対象外)/売上高(課税売上)
  本人:  委託費(課税仕入)/現金

となるってことですかね。
 
 不動産売買契約で、買主が購入日〜年末までに対応する固定資産税相当額を負担する場合のアレと同じです。
 本来の納税義務者でない人が税金を負担した場合には、立替払いとはならないと。

消費税法基本通達
10−1−6(未経過固定資産税等の取扱い)
 固定資産税、自動車税等(以下10−1−6において「固定資産税等」という。)の課税の対象となる資産の譲渡に伴い、当該資産に対して課された固定資産税等について譲渡の時において未経過分がある場合で、その未経過分に相当する金額を当該資産の譲渡について収受する金額とは別に収受している場合であっても、当該未経過分に相当する金額は当該資産の譲渡の金額に含まれるのであるから留意する。


 法定代理ならともかく任意代理でこのルール、どうにも実態にそぐわない気がします。が、通達上はそうなっています。


 前提を確認したところで、《課否判定》(=課税物件該当性)と《納税義務者》とが絡み合ったややこしい話を以下進めます(前述の通り、任意代理に限定)。

 まずは普通の事例から(通常事例思考)。

【通常事例思考】
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)

1 有権代理

 事例1:
 代理人が本人から委任を受けて本人のために相手方から甲不動産を購入した。

・課否判定

 これは課税で問題なしと。

・納税義務者

  ア 名義:本人+代理人 →代理人 C
  イ 名義:本人のみ   →本人 D

 通達どおりあてはめると、こうなります。
 上述のとおりCルールに違和感があるものの、一応これが正しいものとしておきます(仄めかし)。

 問題はここから。

2 無権代理(まったくの無断で)

 事例2:
 代理人が本人から委任を受けずに本人のために相手方から甲不動産を購入した。
 (以下、無権代理人を含めた意味で「代理人」と指称します)

・課否判定

 そもそもこの場合に印紙税法上の「契約書」となるのかどうか。
 書面上はいかにも効果帰属要件が備わった契約書ができあがっているものの、民法上は本人に効果帰属しません。

 ここは、前回までで論じた「効力要件」のところを「効果帰属要件」に置き換えればいいんでしょう。
 特殊性があるとしたら、民法117条で代理人が履行責任を負うというのが、結論課税を導くのに味方になりそうってところでしょうか。

民法
第百十七条(無権代理人の責任)
1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。


【民法レベル】
 成立要件 代理人と相手方の意思表示が一致
 効力要件 意思表示に瑕疵なし
 効果帰属要件 本人に帰属しないが代理人に帰属(履行責任選択)

 無権代理なのに「意思表示が一致」というの、ものすごい違和感あるかもしれませんが、通説的な成立要件理解からするとこうなります。これは成立要件段階では抜け殻みたいな意思表示しか要求していないせいです。

 そして書面上は「甲代理人乙」と書いてある限り、印紙税法上「契約の成立を証明する目的」に欠けることはないと。

・納税義務者

 委任に基づくものではないので、CDは適用されません。
 原則に戻ってAが適用されると。

 ア 名義:本人+代理人 →本人? A
 イ 名義:本人のみ   →本人? A

 結論としては、どう考えても代理人課税とすべきでしょう。勝手に契約書作っているわけで。
 しかし「作成名義人」といった場合、通常は本人を指すものとして使われているはずです。にもかかわらず、代理人課税という結論を導くことができるか。

 ここでCルールが使えれば、妥当な結論を導くことができたはずです(ラッキーパンチ)。が、「委任に基づく」と書かれてしまっていて、ここでは使えません。

 「甲代理人乙」
  有権代理: Cルール⇒代理人
  無権代理: Aルール⇒本人?
 ←いずれも望ましい結論と逆。

 他方で、本人のほうはアイともに書面上に自分の名前が記載されており、一般的に「作成名義人」に該当することになります。
 が、文書作成に何も関与していない本人が、名義が記載されているというだけで納税義務者となってしまうのは、さすがにまずい。
 けども、Aルールには「文書に記載された」とだけあって、関与云々といった事情を考慮することになっていません。


 このように、「作成者=作成名義人」というAのルール、無権代理の場面になるとどこかおかしい。
 特に、イで、勝手に文書を作成しておきながら、書面上に一切現れていないことを理由に代理人を納税義務者とすることができないとしたら、極めて不合理。

 代理人課税という結論を導きたいのであれば、書面から読み取れる作成名義人である本人を納税義務者から外し、かつ文書の物理的な記入者である代理人を納税義務者に取り込む、というルールを創出する必要があります(事実説的な)。
 が、このようなルールは、「文書の記載から判断する」という印紙税法の基本コンセプトからは、かなり外れてしまいます。
 ので、それをやると今度は別のところに不都合が生じて(以下ループ)、ということになりそうです。

 単純に物理的な書面の作成者を納税義務者にすれば済む問題でもない。
 そうした場合、次はBの法人ルールをどうするか、などといった問題がでてきてしまいます。

 ということで、法人などの組織の場合、署名代行の場合などなど、あらゆる場面に通用するルールが求められている。

【パンドラの匣】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)


 そもそも、通達のA〜Dの一連のルールが、いったいどのようなポリシーに基づいて導き出されたものなのかがよくわかりません。

 ACDをあわせてみると、書面上に現れた文書作成者を「作成者」としているように読めます(事実説に記載説をプラス)。

  A 「甲」      →甲が書面を作成したと読める →甲
  C 「甲代理人乙」  →代理人乙が書面を作成したと読める →乙
  D 「甲」(乙が作成)→本人甲が書面を作成したと読める →甲

 ところが、Bでは法人自身が作成者になるとしているので、これと同じ理屈では説明がつきません。

  B 「甲社代表取締役乙」 →が書面を作成したと読める →

 Bは結論自体は妥当だと思うものの、ACDセットとうまく噛み合わない。
 そこで、CをはずしてABDをセットにしてみると、こちらは意思説(+記載説)的な説明ができます。

  A 「甲」        →甲が書面の意思主体と読める   →甲
  B 「甲社代表取締役乙」 →甲社が書面の意思主体と読める  →甲
  D 「甲」(乙が作成)  →本人甲が書面の意思主体と読める →甲

 そして案の定、Cが仲間外れに。

  C 「甲代理人乙」  →本人が書面の意思主体と読める →


 日常系税務の世界では、たとえ筋の通らない通達であっても、こういう理屈っぽいことをゴチャゴチャ言わずに、おとなしく通達どおりに処理していく、というのもひとつの知恵ではあります。

みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い

 が、こういう揺らぎがあるせいで、無権代理・表見代理のようなイレギュラーなケースがでてきたときには、どうあてはめたらいいかまるで参考になりません。

 ここで代理権の有無といった《実体》で判定するとしたら、「記載された作成名義人」ルールは全面的な組み直しが必要になります。
 またもし、課否判定に効果帰属要件を持ち込まないのだとすると、課否判定でスルーした効果帰属要件を納税義務者判定で持ち込むことになるが、そういうことでいいのかどうか。

 課否判定:  成立要件のみで判定
 納税義務者: 効果帰属要件を含めて判定?


 この最適解のみつからない「名義人・作成者」問題、刑法各論の「文書偽造罪」のところで論じられている問題と同根です。
 頭のいい刑法学者の皆さんがあれこれアイディアを出しているものの「帯に短し襷に長し」といった具合で、あらゆる場合に最適な結論を導き出せる、決定版といえるようなルールがいまだ開発されていないように思われます。

 このように刑法学者の皆さんがあれこれ頭を悩ませている問題にもかかわらず、「作成者=作成名義人」と無邪気にイコールで繋いじゃっている印紙税法基本通達の無神経さよ。
 そして、BとCとで真逆のルールを採用しているようにみえる無秩序・無軌道さ。

 Bは代表、Cは代理と、言葉遣いは違うものの、法的効果に違いがあるわけではない。
 のに、これが印紙税法上の納税義務者判定にどのような違いをもたらすというのか。

  B 代表:代表者の行為が法人に帰属する
  C 代理:代理人の行為が本人に帰属する


 書面作成におよそ関与していない本人が課税されないようにするには、やはり納税義務者判定に「効果帰属要件」を持ち込まざるをえないように思います。
 効果帰属要件について実体的な判断をした上で、ある場合は意思主体を納税義務者とする(意思説)、ない場合は物理的な書面作成者を納税義務者とすると(事実説)。

《効果帰属要件あり》 意思説
  A 「甲」(甲が作成)  →甲が書面の意思主体   →甲
  B 「甲社代表取締役乙」 →甲社が書面の意思主体  →甲
  C 「甲代理人乙」    →本人甲が書面の意思主体 →
  D 「甲」(乙が作成)  →本人甲が書面の意思主体 →甲

→Cは通達と異なり、意思説側によせる。
 これで印紙税を本人が負担しても立替にならない、などという実態にそぐわない結論は回避できます。

《効果帰属要件なし》 事実説
  B 「甲社代表取締役乙」 →乙が作成した →乙
  C 「甲代理人乙」    →乙が作成した →乙
  D 「甲」(乙が作成)  →乙が作成した →乙

 話の流れで、いきなり効果帰属要件の有り無しから分岐が始まっていますが、実際の判断過程は次のようになると思います。

 一 物理的な書面作成者を特定する
 二 文書から読み取れる意思主体を特定する
 三 一と二が同一人物であればその人が納税義務者
 四 一と二が別人物であれば効果帰属要件の有無で判定


 印紙税法は文書課税だから文書の記載で判断する、とかいって、課否判定のみならず納税義務者まで文書の記載だけで判断しようとしたのが混乱の原因。

 というか、通達の42条と43条とで、すでに混乱しているように読めます。
 Aは「文書に記載された」とあって記載ベース、Cは「委任に基づく」とあって権限ベースでの判定。
 Dは、Cを受けての規定であれば権限ベースでしょうが、「前項に規定する代理人」など明示されているわけでもない。
 Bは、「その法人の業務又は財産に関し」というのが権限内であることを前提としているのであれば権限ベースでしょうが、こちらもはっきり読み取れない。
 記載と実体が入り混じっているように読めますが、いったいどういうつもりなのか。

・相手方

 結論としての代理人課税が問題ないとして、相手方(売主)が課税されてもいいのかどうか。

 課税文書であるかぎり相手方課税は避けようがない。相手方のほうは意思主体でもあり物理的な文書作成者でもあるので。

 無効・取消・解除事由がある文書でも課税だというならば、効果不帰属な文書が課税でもおかしくないのでしょう。
 が、相手方に何の帰責性もない場合にも課税されるというのは、どことなく違和感があります。
 確かに、相手方の主観だけから見れば通常の有権代理の場合とかわりはないんですけども。

 まあこれによる相手方の損失は、民法117条の賠償責任に印紙負担相当額を含めればいいのでしょう。
 が、代理人無資力のリスクを相手方が負担することになってしまうと。

3 無権代理(権限踰越、民法110条に対応)

 事例3:
 代理人に甲不動産を1000万円までで買うことを委任したら5000万円で購入してきた。

・課否判定

 この事例では、民法110条の表見代理が認められる可能性があります。

民法
第百十条(権限外の行為の表見代理)
 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。


 そうすると、表見代理が認められるかどうかによって印紙税法の課否判定が左右されるか、ということが問題となります。
 この点も前回の記事で「効力要件」について論じたことを当てはめればいいんでしょう。

 結局のところ「証明する目的」の有無が勝負の分かれ目になりそうです。

・納税義務者

 事例2と違って、権限を超えているとはいえ1000万円までの委任はあります。
 この場合でも委任に基づかないとしてCDは排除されるかどうか。

 有権代理の場合と同じルールというのはおかしいとは思うものの、そもそものポリシーが不明なので、排除されるのかどうかも判断がつかない。
 しかも排除されたところでAに戻るだけなので、どっちにしても問題解決とはならない。

 ア 名義:本人+代理人 →本人? A
 イ 名義:本人のみ   →本人? A

 事例2では本人課税は明らかにまずかったわけです。
 他方、こちらで表見代理が成立する場合には、民法上本人にも一定の「帰責性」があると評価されている点で違いがあります。
 このことが、印紙税法上の納税義務者かどうかの判定に影響を及ぼすか。

 結論として影響を及ぼすのはおかしいとは思うものの、やはり作成名義人ルールをどうにかしないかぎり、本人課税を回避することは不可能です。


 2では効果帰属要件のあり/なしで分岐させて、無権代理は「なし」の事実説で判断すべきとしました。
 表見代理についても同じく「なし」のほうでいくのが望ましいと思います。
 一定の「帰責性」があるにしても、当該文書の意思主体でないのは無権代理と同じだからです。
 
 有権代理《帰属する》 :効果帰属要件ありルール
 無権代理《帰属しない》:効果帰属要件なしルール
 表見代理《帰属する》 :効果帰属要件なしルール

 そうすると、表見代理・無権代理・表見代理に共通するルールとして記述するのであれば、「効果帰属要件あり/なし」でわけるよりも「実際の意思主体がいる/いない」でわけたほうが正確かもしれません。

有権代理 ⇒本人課税
 書面作成者 代理人
 書面上の意思主体 本人
 実際の意思主体 本人

無権代理 ⇒代理人課税
 書面作成者 代理人
 書面上の意思主体 本人
 実際の意思主体 なし

表見代理 ⇒代理人課税
 書面作成者 代理人
 書面上の意思主体 本人
 実際の意思主体 なし

※無権代理・表見代理で実際の意思主体「なし」としているのは、本人はもちろん、代理人自身も自己に帰属させるつもりはないからです。
 が、ここでいう意思主体というのを何をもって判断するのか、という点はきちんとつめておく必要があると思います。ここではさしあたり「契約効果を自己に帰属させる意思」としておきます。

 で、実際の判断過程は次のとおり。

 一 物理的な書面作成者を特定する
 二 書面上の意思主体を特定する
 三 一と二が同一人物であればその人が納税義務者(本人契約)
 四 一と二が別人物の場合
   実際の意思主体がいればその人が納税義務者(有権代理)
   実際の意思主体がいなければ一の書面作成者が納税義務者(無権代理・表見代理)
 
 ちなみに、委任の範囲内である1000万円までの印紙税は負担すべき(一部連帯)なんてのは、さすがにないでしょう。


 なお、印紙税法のレベルでは、民法109条(代理権授与の表示)と民法112条(代理権消滅後)は2、3のヴァリエーションで考えればいいと思います(ここで脳が力尽きた)。

民法
第百九条(代理権授与の表示による表見代理等)
1 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

第百十二条(代理権消滅後の表見代理等)
1 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。


・相手方

 2の場合に相手方課税となるのであれば、こちらでも課税となっておかしくないのでしょう。
 表見代理が認められるなら別にいいじゃん、て思うかもしれませんが、そのことが印紙税課税の結論の左右するのはやはり違和感がありますけども。 


 以上、《課否判定》については前回の記事で論点出尽くしていて、問題の本体は《納税義務者》のほうでした。

 そして、納税義務者については、書面の記載だけで判定するのではなく実体を入れて判定すべきだと。
 このような解釈手法について、次の通達との関係を整理しておく必要があるかもしれません。

印紙税法基本通達
(課税文書に該当するかどうかの判断)第3条
1 文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする。
2 前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする。


 ここには「心はホットに頭はクールに」みたいな感じのことが書いてあって、ちょっとした紐解きが必要になります。
 これはまず、判定の対象は文書の記載だけであって書かれていないことを持ち込んではいけない、という考えが前提にあります。その上で、書かれているものについては、形式的に読むのではなく実質的に読みなさいと。

 ここには意外にもちゃんと「課税文書に該当するかどうかは」と書かれていて、適用場面が限定されています。
 なので、あくまでこれは《課否判定》だけの話。《納税義務者》の判定には及んでいません。

 ということで、納税義務者の解釈手法については、振り出しに戻って法の「作成者」という文言そのものの解釈からスタートをすると。

 素直な文言解釈をするならば、やはり物理的に文書を作った人が作成者となる、というのがまずは原則なんでしょう(事実説)。
 その上で、たとえば、代書屋さんに文書をつくってもらった本人、代理人に契約してもらった本人、代表者に業務執行してもらった法人、なども当該文書の意思主体となるものとして作成者の意味に含ませることができると(意思説)。

 通達のAルールがいう「当該課税文書に記載された作成名義人」が納税義務者となるのは、その人が、
  ・物理的な書面作成者と一致する場合(本人契約)
  ・実際の意思主体と一致する場合(有権代理)
に限られるのであって、無条件で納税義務者となるわけではない。

 というか、作成名義人であることそれだけで納税義務者とすべきではありません。
 無権代理・表見代理の場合のように、勝手に名義を使われた場合にまで印紙税課税となってしまいますので。


 全く関係のない話ですが、課否判定と納税義務者とに分け、前者は文書記載ルール、後者は実体ルールを適用する、そして実体ルールの中でも意思主体の存否で判定を分けるみたいな考え、手形法における前田庸先生のお考えに似ているなあと、ふと思いました。

前田庸『手形法・小切手法入門』(有斐閣 1983)

 前田先生のご見解も、まずは妥当な結論を考え、その上でそれら結論を導くことができる統一的な理論を構築する、という思考の流れでした。


 実は、ここまで論じた中に、印紙税法側にもう一回転ネジを回さないといけない箇所があるのですが、長くなりすぎたので一旦ここで締めます。
posted by ウロ at 10:36| Comment(0) | 印紙税法
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