井田良先生の論文集の紹介記事を印紙税法の記事で挟むという無礼。
大変申し訳有りません。
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ただし今回は前の記事の目地埋め程度の内容。
納税義務者論を「法人」に展開したらどうなるか、の確認作業です。
【印紙税法における納税義務者論】
続々・契約の成立と印紙税法(代理法がこちらをみている)
最終話後の番外編のイメージでお読みいただければ。
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まずは通達の確認から。
印紙税法基本通達
第42条(作成者の意義)
法に規定する「作成者」とは、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる者をいう。
(1) 法人、人格のない社団若しくは財団(以下この号において「法人等」という。)の役員(人格のない社団又は財団にあっては、代表者又は管理人をいう。)又は法人等若しくは人の従業者がその法人等又は人の業務又は財産に関し、役員又は従業者の名義で作成する課税文書 当該法人等又は人
(2) (1)以外の課税文書 当該課税文書に記載された作成名義人
【納税義務者ルール(通達)】
A 原則は書面上の作成名義人
B 法人の役員・従業者名義 ⇒法人
Bルールにより、役員・従業者がその者の名義で作成しても法人自身が作成者になると。
(各種団体等を含みますが、以下の検討は「法人」に限定します。また、従業者は従業員といいかえます。)
契約書が権限の範囲内で作成された「通常事例」で考えるかぎりは、このルールでおかしくないでしょう。
任意代理の場合に代理人課税となっていて、スタートからいきなり躓いたのとは大違い。
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さて、ここからが考えるのしんどいなあという領域。
法人の場合、文書作成者となりうるのが、
・代表者
・その他の役員
・従業者
と分かれます。
ただ、権限内/外で一元化できると思うので、特に区別することなく検討します。
では、これらの人が権限外で契約書を作成したらどうなるか。
任意代理の場合は、無権限の場合に本人課税はおかしいのでは、と書きました。
これに対し、法人の場合はどうか。
無権限とはいっても、法人との間には「雇用関係」なり「委任関係」があって、全くの無関係ではありません。
このことからすると、法人課税となってもおかしくない。
この点、参考になりそうなのが「重加算税」の裁判例・裁決例。
そこでは、代表権のない者による行為であっても、「相応の地位・権限」がある場合は法人自身の行為と「同視」できる(から法人による仮装・隠蔽と評価できる)と判断されています。
印紙税法上も同じように、行為者に相応の地位・権限がある場合に課税となるか。
あるいは、役員・従業員でありさえすれば相応の地位・権限は不要か。
逆に、契約締結にかかる具体的な権限まで必要かどうか。
【法人が印紙税法上の納税義務者となるために必要な文書作成者の権限】
A その法人の役員・従業員でありさえすればいい
B 相応の地位・権限が必要
C その契約を締結する具体的な権限が必要
AとCは、いずれも結論は極端ながら基準としては明確です。
これに対し、Bは間をとった見解の宿命として、そこでいう「相応の」をどう判断するかという、明確な答えのない問題とお付き合いしなければなりません。
法には何の手がかりもないわけで、租税法規の「明確性」の観点からはおもいっきり問題があるでしょう。
が、重加算税の課否などという際どい事案でも用いられている基準であることからすると、印紙税法(ごとき)に導入されてもおかしくない。
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このあたり、通達レベルでいうと「法人の役員・従業者が」「その法人の業務又は財産に関し」の読み方にかかってきます。
「法人の業務」とあって「その者の法人における業務」となっていないことからすると、CはもちろんBも要求されていないように思えます。
ただし、剥き出しのAまではいっておらず、「法人の業務に関する」という限定はしていると。
とはいえ、除外されるのは、業務に関しない私的な行為などに限られるのでしょう。
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これはあくまで通達レベルでの話であって、このような解釈が印紙税法レベルで許されるかは当然検討すべきところです。
が、残念ながら法には何らの手がかりもない。
納税義務者論(法人法)を専門とする印紙税法学者の皆さんによる、下位規範の定立にかかっておりますので、その旨よろしくお願いいたします。
2020年06月01日
おかわり契約の成立と印紙税法(法人法がこちらをみている)
posted by ウロ at 00:00| Comment(0)
| 印紙税法
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