2020年06月15日

内田貴「民法3(第4版)債権総論・担保物権」(東京大学出版会2020)

 2017年民法改正(債権関係)の総本山。
 同改正を反映した教科書はすでにあれこれ出ているところ、満を持して登場(ジャケが完全に春日狙い)。



内田貴「民法3(第4版)債権総論・担保物権」(東京大学出版会2020)
http://www.utp.or.jp/special/CivilLawIII/

最近の気になる本

 下記記事でネタにした本は、当初何気なく読んでしまいツッコミが出遅れました。

後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)

 ので、今回は同じ鉄は踏まじと、初めからツッコむ気満々で読み始め。
 が、それほどの取っ掛かりもなく読了。

 「債権者代位権、債務名義いらないのがメリット」みたいな記述に対するツッコミ程度のことは、もう上記記事で出尽くしてしまっています。
 ならではのツッコミ、というのがありませんでした。


 とにかく沢山のことが書いてあって、特に金融絡みでの今どきな制度の使われ方の解説などは、他書にない特徴だと思います(カタカナ用語が沢山でてくるやつ)。

 が、記述の「構造化」がされておらず、最初から最後まで平地をひたすら転戦していくようなイメージ。

【民法構造化の極地】


山本敬三「民法講義1(第3版) 総則」(有斐閣2011)
山本敬三「民法講義4-1 契約」(有斐閣2005)
(※改訂が待たれる)

 オープンワールドゲームとかいいながら、予算がないので見渡す限り全面平地です(フェアリーバース)、とか言われたら退屈するでしょ。

【良いオープンワールドゲーム例】


ゼルダの伝説 BREATH OF THE WILD(任天堂2017)

 どこまでいっても個々の制度の説明に徹していて、総論チックな記述はおそらく意図的に排除しているように感じます。

 他方で、内田先生の著書には、下記のようなアメリカ契約思想を日本の契約に持ち込もう的なものもあったりします。
 ので、教科書はあくまで教科書だ、ということで本書は内田先生ご自身の法学教育観を徹底した記述になっているのだと推測。



内田貴 契約の再生(弘文堂1990)
内田貴 契約の時代(岩波書店2000)

 なお、第4版では「実務に役立つことをも視野に入れて執筆することを心がけた」とはしがきに書いてありました。
 が、私にはどのあたりがその心がけの成果なのかが読み取れませんでした。
 これは、私が学者本に期待する「実務に役立つ」というものが下記記事のようなものだから、という個人的な事情からでしょう。

森田宏樹『契約責任の帰責構造』(有斐閣2002) 〜印紙税法における「結果債務・手段債務論」の活用 

 実務に「直接」役立たせたいなら『〜の法務・税務』みたいな本を読めばすむわけで。
 わざわざ遠回りな学者本を読むのは、視線を数段階上に引き上げてくれることを期待しているからです。

 まあ、このへんは私の読み込み不足のせいなんでしょう。

 という感じで、私としては、この本を基本書ポジションに据えて通読するのではなく、他の教科書でよくわからなかった箇所だけつまみ食い的に読んでみる、という使い方がよいように思います。
 体系っぽさが弱いおかげで、そういうつまみ食い的な読み方が許されることになっている。


 債権総論の中の履行確保の手段の部分と担保物権を「金融取引法」としてまとめている、というのが本書の特徴の一つのようにも思えます。

 が、おそらく普通の教科書としても使えるようにするためでしょうか、一冊にまとめたというくらいで、内容的に一体として論じられているわけでもないです(重たいから、てことで分解して使っても支障がないと思われる)。

 これに対して、執行法や倒産法まで視野に入れて一体として論じているのが森田修先生の本。



森田修「債権回収法講義(第2版)」(東京大学出版会2011)
(※改訂が待たれる)

 森田先生の本は一定程度の基礎知識があったほうが読みやすいので、森田先生の本の副読本ポジションとしてなら、うまくはまる気がします。
 森田先生の本が改正対応していない今なら、改正部分の確認もできますし。


 なお、「事例形式でわかりやすい」ように一見思えますが、事例で説明しているのってほぼほぼ判例がある論点ばかりです。
 潮見佳男先生の教科書が、なんでもかんでも事例で書いてあるのとは違う。



潮見佳男「プラクティス民法 債権総論(第5版補訂)」(信山社2020)
潮見佳男「詳解 相続法」(弘文堂2018)

 たとえば、「保証」の改正のところとか、あれこれ細かい要件が条文に書き込まれました。
 そこで、これら改正がどういう状況を想定して規定されたのか、とかを具体例で理解したいわけです。
 が、そういう箇所は条文引き写しで終わってしまっていたり。

 「判例の明文化」系の改正は従前の記述の延長で理解すれば済むわけで、「新設」系の改正こそ、しっかり事例で説明してほしい。


 なお、このブログでは、(実務家のくせに)判例中心の学習法に対しては、どちらかというと批判的なスタンスを示してきました。
 それは、判例から判例に渡っていく学習法だと、そこから漏れる穴ができるから、というところにあります。

 あるいは、まずは「通常事例思考」をしっかり身につけるべきだろうと。

【通常事例思考】
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)

 判例がないから重要でないか、というと必ずしもそうではない。
 ですし、判例が無いせいで誰も正面から論じている人がいなくって、参考になるような文献が皆無ということが起こるわけです。

 このブログでやっていることは、そういった穴をほじくって、あとは頭のいい人たちの議論にお任せする、というのを期待しているということです。
posted by ウロ at 11:49| Comment(0) | 民法
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: