前者のせいなのかどうか分かりませんが、先々の刊行計画というのが表に出てきません。
おかげ様で、改訂直前に旧版を掴まされたりとか。
【直近の掴まされ例】
最近の気になる本
とにかく教科書と小型六法さえ売れてくれればそれ以外はお構いなし、ということですか。
【邪推の極み】
法学研究書考 〜部門別損益分析論
私のようなマニアどもは、出版社にどんなにぞんざいに扱われても、勝手に買ってくれますし。
【さすがにキッツいわあ】
近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)
○
他方で、後者の代表が宇賀克也先生。
宇賀克也先生(Amazon.co.jp)
最高裁判事になられて滞るかと思いきや、なぜか普通に出版が続いています。
解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決
そして租税法だと、本書著者の酒井克彦先生が当代随一。
にもかかわらず、今まで当ブログで扱うネタとは交わりませんでした。
満を持してご登場。
酒井克彦 プログレッシブ税務会計論1(第2版) 法人税法と会計諸原則
酒井克彦 プログレッシブ税務会計論2(第2版) 収益・費用と益金・損金
酒井克彦 プログレッシブ税務会計論3 公正処理基準
プログレッシブ税務会計論4 会計処理要件(経理要件・帳簿要件)
○
では、さっそく余談から。
最近、というわけでもないのでしょうが、税理士さんの中には、
・税理士×○○
・税理士なのに税理士業務以外の仕事が多い。
・税理士らしくないと言われる。
のように、「税理士業務だけやる」ということに、どこか否定的なニュアンスを含んだ発言をされる方がいます。
各人どのように働くかは自由であり、かつ、どのように発言するかも当然自由なわけですが、そのような人たちが、それでも税理士を名乗るのは何故なのだろうか、と思わないでもない(否定しているのではなく、単純に疑問なだけです)。
○
私自身は、税理士の「本懐」は次のようなところにあると思っております。
1 租税に関する法令を熟知していること
2 租税に関する通達など行政規則に通暁していること
3 租税に関する判例・学説を熟知していて、租税に関する通達など行政規則による租税法令の解釈を、租税に関する判例・学説による租税法令の解釈が否定する可能性ないし蓋然性を判断する能力を有すること
4 租税法令の解釈・適用にあたって、制度上選択の可能性がある場合に、より合理的な選択をすることができる能力を有していること
5 自己固有の租税法令の解釈というべきものを有していること
6 租税の実務に豊かな経験を持ち精通していること
7 これらの能力を活用して、委嘱者に、真正にして適法な納税義務の過不足ない実現をめざしてこれに到達するために必要な資料・情報を提供し、それに資する助言を行う能力を有すること
これは、新井隆一先生が、税理士の善管注意義務として求められる能力、という趣旨で掲げているものです。
あるべき税理士
上記記事、当事務所&当ブログ開設直後に書いた記事です(登録時研修のやつや)。
初期の頃こそ、ブログの方針が定まっていませんでした。
が、いつの間にか、ここに掲げられた能力を磨くための修練、というのがこのブログを書く目的のひとつになっていました。
3年越しの伏線回収的な。
そして、どれだけ修練を重ねようとも、全く終わる気がしないこの道。
「税理士業務以外の」ということをおっしゃる方々は、このあたり一体どこまで突き詰めているのだろうかと。
私の乏しい能力では、他所の業務に浮気している暇がないんですけども。
なおここまで、税理士法の第1条と第2条第1項を重視しつつ(特に第1条)、同法第2条第2項はあくまで「付随」するものにすぎない、ことを意識しながら書いています。
「本懐」と言ったのは、そういう意識からの。
税理士法
第一条(税理士の使命)
税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
第二条(税理士の業務)
1 税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、登録免許税、関税、法定外普通税(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第十条の四第二項に規定する道府県法定外普通税及び市町村法定外普通税をいう。)、法定外目的税(同項に規定する法定外目的税をいう。)その他の政令で定めるものを除く。第四十九条の二第二項第十号を除き、以下同じ。)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 税務代理
二 税務書類の作成
三 税務相談
2 税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。
まあ、この手のこだわり、アナクロニズムとして淘汰される運命にあるのでしょう。
○
という感じで、このブログ、ひいては私の税理士業務は、税法の解釈・適用をメインディッシュとして取り組んでいるところ。
そのせいで、親和性が高いはずの「会計」分野すら、必要なかぎりでの勉強に留まっている始末。
なんですが、法人税法第22条第4項というものがあり、ここから「会計原則」が流れ込んできやがります。
「税法じゃねえから知らねえよ!」と無視を決め込んでいられない。
法を重視するがゆえに、法に書かれると弱い。
法人税法 第二十二条
1 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
もちろん、ただ書かれてあるとおりに従うわけではないです。
受け入れる法の側で一定の解釈を施す必要があります。
ということで、会計にも正面から取り組まざるをえないのですが、税法と会計の絡み具合をしっかり分析した本というのが見当たらなくって。
と思っていたら、酒井先生のこの本が思いっきりそういう本でした。
○
しかし『税務会計』という名称、どうにも気に入らない。
そのせいで、この手のタイトルの本、今まで手に取るのを敬遠していたような。
なぜかといえば、そこに「法」が入っていないから。
「税務」というと、あくまでも税の「実務」のことであって「法」の要素は正面に出てこない、という印象を受けます。
法解釈論など知らなくても、通達とタックスアンサーでどうにか凌げる範囲の。
世の中の『○○の税務』というタイトルの本のほとんどは、まさにそういう感じ。
法解釈論を展開しているものなんて、ほとんど見かけない(数少ない例外的な存在が、酒井先生の一連の著書)。
しかし、この領域でやるべきことは、あくまでも「法解釈」として会計原則がどこまで法人税法に組み込まれるかを検討するものであるはずです。
にもかかわらず、「法」という文字が入っていないのはなぜなのか。
また、はしがきに「カレーパンの法則」(カレーパンはパンであってカレーでない)について書かれています。
その顰みに倣うならば、「税務会計は会計であって税務でない」ということになってしまうのではないか。
税務を会計で包みこんでカラッと油で揚げた、みたいな。
いやいや主役は「税務」、より正確にいえば「税法」だろうと。
いくら税法の課税要件が民法に準拠していたり、民法からの「借用概念」を多用しているからといって、その状態を「税務民法」なんていう奴はいませんよね(ものすごい税の格が下がった感じを受ける)。
なぜ「会計」だけが、税法ジャックをかましているのか。
【借用概念論の実態】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その11)
とはいえ、じゃあどういう名称がいいのかと言われても、私もさしあたり思いつきません。
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誤解されそうなので念のため言っておきますが、「通達+タックスアンサー」で済む世界、そう侮れるものではない。
専門家でない人でも容易に理解できるということや、調査官と共通言語で話せるということ、かなり大きなメリットです。
これに対して、納税者の権利を保護するためだとかいうことで、「租税法律主義」「課税要件明確主義」といったお題目を唱えておきながら、素人には容易に理解しがたい難解な条文はお構いなしだったり、あるいは、難解な法解釈論を展開したり、などといった態度には共感しがたいものがあります。
そこはかとなく感じる、マリー・アントワネット感。
「納税者の予測可能性を高めたいなら、法律に細かく書き込めばいいじゃない」的な(ただし史実とは異なる)。
いつものアレ、リンク貼っておきますね。
これを見ても貴殿は「予測可能性高まってるぅ〜!」て言い続けられるのかと。
租税特別措置法69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
【小規模宅地等の特例イジり】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
そんなことをするよりも、通達やタックスアンサーを充実させることで、「通常事例」として解決できる範囲を広げることのほうが、(実在の)納税者の予測可能性に資することになるはず。
【納税者の予測可能性】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
私が、このブログで税法の「法解釈論」を展開する一方で、「日常系税務」という括りも大事にしているのは、そういったメリットも重視すべき、と考えるからです。
で、この範囲では解決できないものにかぎり、「紛争系税務」としてガチで争う方向へと進むと。
下記記事でも書きましたが、「裁判規範」の反映としてではない、独自の「行為規範」を定立すべき、という構想がここに繋がってきます。
税法・民法における行為規範と裁判規範(その2)
【規範二分論】
・日常系税務:行為規範
通達、タックスアンサー、FAQなどが主役
・紛争系税務:裁判規範
法律、政令、省令などが主役
こうやって見取り図を書いてみると、「通達を文言解釈」して法律の解釈をするなどといった例の高裁判決のヘンテコさが際立ちますよね。
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
「通達を文言解釈」することに意味があるとしたら、通達を信頼して行動した納税者を保護することにあるはずです(信頼の原則)。
およそ、法律の解釈に繋がることはありえない。
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なお、最初に書いた「税理士業務以外の〜」の人というのが、税理士業務をここでいう「日常系税務」の範囲におさめておき、余力で他の業務をやる、という方針だというのならば、なるほどそういうことですね、と合点がいきます。
「紛争系税務」なんて、そういうの好きな奴がやっててくれればいいと。
【いろんなハイブリッドもの】
税法×税務
日常系税務×紛争系税務
行為規範×裁判規範
通常事例×異常事例
事前×事後
実質×形式
客観×主観
税理士業務×それ以外の業務
カレー×パン
他人にあれこれ言っておきながら、私自身も「税法」と「税務」の二兎を追っている、ということになりますね。
○
さて、いつもどおり余談が長引いたところで、本題である本書について。
とりあえず、今回は「T 法人税法と会計諸原則」のみご紹介。
「会計原則」について会計学側の見解を紹介した後に、それぞれの会計原則が法人税法にどのように取り込まれる(または取り込まれない)かについて、丁寧な分析がなされています。
概説書レベルだと、「法人税法の趣旨にあわせて取り込まれる」程度の記述で済まされがちなところ。
それを、それぞれの会計原則ごとの違いにあわせて、個別の分析がなされています。
こういう税と会計の両方に手を出した本、通常だとどちらかに偏りがち。
なところ、本書では両側面ともにしっかりとアプローチされています。
その上で、法人税法第22条第4項を中心とした「法解釈論」が展開されていると。
いわゆる「短期前払費用」の特例を、会計原則(重要性の原則)を踏まえつつ法解釈論として正面から扱ったり。
法人税基本通達2−2−14 (短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
私も、倒産防前納の損金算入についてイジりを入れたことがありますが、これはあくまで措置法プロパーの問題として。
会計原則なんて何も気にしていませんでした。
まあ、損金経理や継続適用は全く関係なく、明細書添付の有無で損金算入できるかどうかが決まるなんて、会計原則ガン無視にもほどがありますけども。
みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い
しかも、短期前払費用の特例については、突っ込みを入れるのを避けるというビビりっぷり。
や、これは「日常系税務」の世界観が壊れないようにしたかったからです(言い訳)。
○
分析の中には、裁判例の紹介もいくつか出てきます。
裁判所が法人税法と会計原則との関係をどのように論じているのかと。
が、私の見立てだと、裁判所がこの問題についてきちんと論理建てて論じているようには思えません。
各事案ごとに、収まりの良い結論がでるような立論どまりにみえる。
そのような、事案に必要なかぎりでの判断に留めるのが裁判所の本来の役割、といえば、それはそのとおりではあります。
が、他の領域ではしばしば見られる威勢のいい解釈論が「法人税法×会計原則」の領域では抑え気味な気が。
【判例理論について】
判例の機能的考察(タイトル倒れ)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)
それはひとり裁判所が悪いのではなく、租税法学説が十分な理論展開をしていないからだとは思います。
裁判所が安心して乗っかれるようなスタンダード・セオリーが存在しない。
「スタンダード」というのは、論文レベルではなく教科書レベルでも出てくるような理論ということ。
本書タイトルの「税務会計」の部分について論難しましたが、その前の「プログレッシブ」というのも、一応気になる(「累進課税会計論」かよ、というのではなく)。
プログレッシブの前段階としての「税法×会計」のスタンダードというものがそもそも存在するのか、という疑問。
○
以上、勇み足であれこれ言ってますが、ここは他の領域にも増して勉強不足なところ。
なので、全くの見当違いが多々含まれているはず。
より勉強を進めた上で、「すみません、私の認識違いでした」の訂正記事を出させていただくことになるでしょう(予言)。
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