2020年07月06日

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)

 会社法どこから入るか問題、私の中ではいまだに定説がありません。



大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)

 一応、おすすめ教科書の記事を書いたこともありますが、これは、税理士のように実務経験が一定程度ある前提で書いています。

高橋美加ほか「会社法(第2版)」 (弘文堂2018) 〜付・税理士と会社法の教科書

 完全なるガチの初学者にとっての正解、というのはあるんだろうかと。


 本書はガチの初学者にすすめるには、あまりにも分量がありすぎ(752頁)。
 ではあるんですが、一通り読んでみて、確かに会社法を理解するには、会社法それ自体のみならず周辺の法領域や金融絡みの知識が必要だよなあと実感。

 変に遠回りするよりも、この本を読み通したほうが、その後の会社法学習が捗りそう。
 企業の発展に即した設例が随所に織り込まれていたりして、かなりイメージがしやすいですし。


 タイトルに「金融から学ぶ」とあって、確かにファイナンス方面の記述も豊富。
 学生さんにはイメージしにくい資金調達のところとか、会社法に書かれた制度を並べただけの記述とはひと味(以上)違うので、だいぶ理解しやすいのではないかと。

 それにとどまらず、会社法以外の関連法領域やら経営絡みの記述やらも盛り込まれています。
 通常「○○から学ぶ」といったタイトルをつけるのって、広大な会社法をそのまま学ぶのではなく、視線を限定することで効率よく勉強するためだと思うんです。
 が、逆に「金融」以外にまで広げちゃっている。

 「いい意味で」看板に偽りあり。いい意味で(念のためリフレイン)。
 どうしてもタイトルに「金融」を入れたいというなら、「金融から(も)学ぶ」といったほうが、実際の中身に即している気がしますけども。

 普通の教科書的な、論点に関する学説の対立みたいなものは少なめなので、一応削れるところは削ってはいます。
 に、してもボリューミー。
 が、実際に会社法を理解しようと思ったら、これだけの周辺知識もいるってことですからね。


 図やら表も豊富です。仕訳で説明している箇所もあったり。

 親切設計ではありますが、制度を整理した表については、ちゃんと自分で条文引きながらその表の内容を理解すべきでしょうね。


 いくつか「税制」についても触れられている箇所がありますが、やや気になる記述が。

147頁 役員報酬の税法上の取扱い
 役員報酬は、会社法上は職務執行の対価として会社にとって費用となる。会計上も基本的には同じである。しかし、税法上は設問のような濫用を避けるために、取締役報酬は剰余金配当と同様、原則として損金算入が認められない。ただし、あらかじめ税務署に届け出て一定額あるいは当期利益をもとに一定の算式に従って客観的に計算される金額を支払う場合は従業員の給与と同じように損金に算入することができる。


 会社法、会計、税法と、ちゃんと区別して書かれているのはいいですよね。
 が、「剰余金配当と同様」という説明の仕方に「う〜ん」となる。

 結論としてはどちらも損金不算入なのはそのとおりです。
 が、そうなるルートが違う。

法人税法第二十二条
1 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。

法人税法第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。


 役員報酬が損金不算入となるのは、法人税法22条3項2号に入りそうなところ、同項柱書の「別段の定め」からの同法34条1項ルートによるもの。
 他方で、剰余金配当が損金不算入となるのは、同法22条3項3号で「資本等取引」が除外されていることによるものです。

 にもかかわらず、単純に「同様」と並べられてしまうのは、どうにも違和感あり。

 この違和感、おそらくですけど、単なる条文の書き分けだけからではなく、そこに、かつての「利益処分」概念を彷彿とさせるからかもしれません。
 役員賞与も利益配当も、課税済所得からの支出だから損金にならない、とかいう。

 今となっては役員報酬と剰余金配当は全く別の概念なんだから、安易に並べないほうがよいのではないかと。
 あえて損金不算入でグループ化するならば、交際費とか寄付金とかのグループだと思う。

 また、「ただし」以下では、例外として損金算入できる役員報酬のことが書かれています。

 このうち「一定額」のほうは「事前確定届出給与」ことだと分かります。
 が、「当期利益〜」のほうは「業績連動給与」のことなんでしょうか。
 「税務署に届け出て」が掛かっちゃっているようにも読めるのですが。

 そもそも、肝心の「定期同額給与」のことが書かれていないのはなぜなのか。
 賞与的なものを念頭においた記述なのかなあとも思ったのですが、「従業員の給与」と書かれているので、そういうつもりでもなさそうですし。

【定期同額給与とは】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)


 こういう気になる記述があるものの、ここまで多方面に豊富な内容を盛り込んだ類書はないんじゃないですかね。

 ので、頑張って本書を一通り読んで全般的な知識を身に着けてから、それぞれの分野を深堀りしていくのがよさそう。

 そういう意味では、文字通りの「金融(だけ)から学ぶ会社法」とか「税法(だけ)から学ぶ会社法」のように、本当に視線を限定した書籍の出版が望まれる。

 たとえばこの本が「税法から学ぶ会社法」に相当しますかね。



東京弁護士会 「新訂第七版 法律家のための税法[会社法編]」 (第一法規2017)


 大垣先生の教科書、以下のものもありますが、特に民法のほうは2017年改正が反映されていないので、素直に改訂をまったほうがいいかもしれません。

 そういう意味では会社法のほうも改正前ではありますが、非公開会社(≒同族会社)にとっては大勢に影響はないかなあと。 



大垣尚司「金融から学ぶ民事法入門 第二版」(勁草書房2013)
大垣尚司「金融と法 企業ファイナンス入門」(有斐閣2010)
posted by ウロ at 11:24| Comment(0) | 会社法・商法
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