2021年01月31日

原田尚彦「行政法要論(全訂第七版補訂二版)」(学陽書房2012)

 いまだに口の中がジャリジャリしている気がする。

高木光「行政法」(有斐閣2015)

 ということで、原田尚彦先生の教科書を読むことにしました。

原田尚彦「行政法要論 全訂第七版補訂二版」(学陽書房2012)

 最新版は2012年出版の「全訂第七版補訂二版」。
 最新の情報を追う、という点ではちょっと厳しい。

 が、この本はそういう使い方をするものではなく。


 ・横書きじゃないし
 ・ですます調でもないし
 ・具体例が豊富なわけでもないし
 ・二色刷りでもないし
 ・図表の類も(ほぼ)ないし

と今どきの工夫を凝らした教科書と対比すると、極めてオーソドックスな部類。

 なんですが、極めて洗練された文章で、非常に読みやすい。
 本当の意味で「初学者でも自然に読み進める」文章です。

 これと同じ印象を受けたのが、林屋礼二先生の民事訴訟法の教科書。



 林屋礼二「新民事訴訟法概要(第2版)」(有斐閣2004)

 こちらも、ひたすら文章が並んでいるだけですが、非常に理解がしやすい(残念ながら、品切れ→オンデマンドで高額化)。


 ものごとを理解する過程には、いろんなアプローチがあるとは思います。
 が、法学の場合、日本語の文章による説得というのが最終的に必要となります。

 その到達点が最高裁の判決文。
 もちろん、最高裁判決が常に説得的であることを意味するものではありません。

【他方で「数理」による税法理解】
浅妻章如「ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか」(中央経済社2020)

 ということで、本書のような、文章(のみ)による丁寧な説明がされた本を読むことが、法学トレーニングには必須だと思います。


 具体例が豊富というわけでもないのに、理解がしやすかったのはなぜかと思ったんですが。
 たぶん、以下のようなところにあるのではないかと。

 すでに他の行政法の教科書を読んでいて、ある程度の知識が備わっている、というのもあるとは思います。
 が、それだけではなく。

 抽象的な記述の場合、抽象的なまま理解するか、自分の知識・経験でイメージできるものに置き換えるかすると思います(「1+1」からそのまま2を導くか、リンゴに置き換えてイメージするか)。

 他方で、具体的な記述ならすんなり理解できるかというと、そうとは限らず。
 やたらと具体的な記述であっても、自分の中でイメージができないものについては、やはり理解が追いつかない。

 よくあるのが、「判例は事案との関係で理解する必要がある!」とかイキって、裁判所の認定した事実をペチペチ長々と貼り付けている系の判例解説もの。
 が、事実を延々と引用してみても、それは裁判所が判示に必要だとして認定したものにすぎません。

 確かに、「判例の射程が及ぶ・及ばない」を検討する際には、(表向きは)裁判所の認定事実から見極める必要があります。
 が、初学者が当該判決を理解するという段階においては、そのような事実だけ貼り付けられても、まあ理解できないのがほとんど。

 会社法判例なんかが特にそうで、裁判所が認定した事実だけをベタベタ貼り付けたところで、まともに理解できるものではないと思います。

 大垣尚司先生の教科書の記事を書いていて思ったのが、会社法の知識だけがあっても、会社法(判例)を理解するのは困難だということ。

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)

 会社法以外の法律知識が必要なのは当然として、なぜそんな争いがおきるのか、とか、なぜそういう争い方をするのか、といったことが分からなければ、やはりその判決を理解するのは難しいと思います。
 そして、それは裁判所の認定事実の中に、必ずしも表立って現れるものではない。

 ので、当初の学習段階では、下手に生の判例から始めるのではなく、そういった背景事情もイメージしやすいモデルケースから勉強したほうがいいと思います。

 学生さんが法学の勉強を始めるなら、イメージがしやすい領域から足を踏み入れるのがいいはずです。
 せっかくそういった領域を扱っているのに、全然活かしきれていない本もあったりしますけども。

内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)


 例によって話が盛大にずれたので、少しだけ本書に戻ります。

 私人と行政の関係を「侵害排除請求権」「受給請求権」「行政介入請求権」といった権利義務で説明するのは、初学者にとっては理解しやすいと思います。

 もちろん、権利義務のみによって全ての関係性を説明しきれるとしたり、これら権利義務から何かしらの解釈論を導くというのであれば、それは正しくないのでしょう。

 が、典型的な関係性を理解するための説明概念・思考モデルとしては、有用だろうなと。

 私法理論を生のまま行政法に持ち込むのは問題だとしても、民法でいう「私人と私人の権利義務関係」の応用から学習をスタートさせるの、学習法としてはいいと思う。
 いきなり私人と行政の混沌とした法関係に飛び込んでいくのではなく。

 その上で、そこから崩しをいれていくと(守破離)。
posted by ウロ at 17:25| Comment(0) | 行政法
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