2020年07月20日

下井隆史「労働基準法 第5版」(有斐閣2019)

 労働法の教科書・体系書、近年は特に肥大化が進んでいます。

下井隆史「労働基準法 第5版」(有斐閣2019)

 基準としての菅野和夫先生・山川隆一先生の体系書だと、1408頁。

菅野和夫・山川隆一「労働法 第13版」(弘文堂2024) Amazon

 それと比べれば本書は588頁と、一見薄い(?)ように思えます。
 が、いわゆる「雇用関係法」に記述を絞っているからそうなっているだけです。

 内容は非常に濃い目。
 重要論点はフォントを落としているので、かなりぎっしり。


 今どきの教科書のようにガチャつかず、極めてオーソドックスな構成。
 図表の類は一切ありません。

 もう少しわかり易さを求めるならば、水町勇一郎先生の教科書がいいと思います。
 事例に基づいた具体的な記述が多めですので。

水町勇一郎「労働法 第10版」(有斐閣2024)


 本書は労働法の知識が一通りある人が、最近の法改正・判例を体系的におさらいし直す、という使い方がいいと思います。

 中には就業規則の法的性質論とか、かなり突っ込んで記述されているものもあって、読み応えはしっかり。

 いわゆる「働き方改革」関連の法制にも触れられています。
 が、おそらく改訂作業終盤でねじ込んだと思われ、いまいち体系に溶け込んでいないような。

 次回の改訂に期待(さていつになるでしょう)。


 本書にかぎらず、労働法の教科書を読んでいて思うところ。

 たとえば、労働時間の法規制とか、言葉だけで理解しようと思っても無理がありますよね。
 図表や具体例をあれこれあげてもらわないと、初見で理解するのは大変。

 ので、図表が豊富な「わかりやすい」系の実務書を併用するのが望ましい。

 いっそのこと、誰が書いても同じになる制度の説明は、文字通りの「基本書」として出版しといてほしい。
 「日常系労務」ということで。

 これと同じようなことは、民事訴訟法の教科書についての記事でも書きました。

新堂幸司「新民事訴訟法 第6版」(弘文堂2019) 〜付・民事訴訟法と税理士

 もちろん、図表だけでの理解にとどめず、きちんと条文でどのように表現されているかを確認することは必要です。

 大垣尚司先生の会社法の教科書では、制度の解説を大胆に削って図表で代替されています。
 が、これもちゃんと条文と照らし合わせてね、という前提があってのことでしょう。

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)


 しかし、この「有斐閣法学叢書」とかいうシリーズ、現役で出版されているのはもはや本書しかないんじゃないですか。

 私が知っているかぎりでいうと、下記の「名著」はしれっとシリーズから外れていますし。

龍田節・前田雅弘「会社法大要 第3版」 (有斐閣2022)
中森喜彦「刑法各論 第4版」(有斐閣2015)

 名前の紛らわしい「有斐閣法律学叢書」というシリーズなんて、2冊出たっきり。

大村敦志「家族法 第3版」(有斐閣2010)
近藤光男「商法総則・商行為法 第9版」(有斐閣2023)

 邪推するに、デビュー前のサイレント脱退があったんじゃないかと。
 グループでデビューするはずだったのにいきなりソロデビューしている、みたいな。

 この、過去のシリーズを有耶無耶で終わらせる所業、どうにか悔い改めてほしい。

「法律学大系」(有斐閣) 〜或るstalk。
posted by ウロ at 11:57| Comment(0) | 労働法
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