小規模宅地等の特例もの。
関場修 山口暁弘「フローチャートで分かりやすい 小規模宅地等の評価減の実務 第5版」(中央経済社2021)
以前も同特例の記事を書きましたが、最近また振り返り。
【小規模宅地の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
とりあえず条文リンク貼っておきますね(ずれたらすまん)。
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2
○
小規模宅地の特例、題材が題材なので、一般向けから専門家向けまで、結構な数がでています。
法律の条数でいうとたった1か条なのに、それだけでまるまる一冊使って。
本書はどちらかといえば専門家寄り。
平成30年改正まで対応ですが、平成31年改正はマイナーアップデートなので、自分で補っても読めるでしょう。
平成30年改正未対応だったりすると、さすがに使い物になりませんが。
ただし、「配偶者居住権」との絡みは要注意。
共有の亜種と考えればよさそうですが、有利/不利判定はなかなかに複雑化。
二次相続まで視野に入れると、併用するのが節税効きそうに一見みえます。
が、それは何事もなくすんなり配偶者居住権が消滅してくれた場合。
相続税の節税対策、やればやるほど自分と家族の未来の選択肢を狭めることになるので、ギリギリを攻める気にはなれない。
○
話は戻って。
なんか「フローチャート」を売りにしていますが、私としては条文に即した説明をしているのがよいと思いました。
あまりにも条件分岐が細かいので、事例を沢山挙げられても、なぜその事例が適用/不適用なのか、結論を自分で導くことができなかったりします。
載っていない事例に応用を利かせることができない。
ちなみに、最近別ジャンルで、やたらと分厚いのに条文引用がほぼない税務本を読んでいました。
が、やはり記憶に定着しない。
とにかく沢山書いてあるものの、なぜそうなるのかの根拠条文が書かれていない。
ので、何度も何度も再読しないといけない。
以前の同特例の記事も、そのものずばりの事例は見かけない、隙間を扱ったものでした(コネ入寮とか)。
こういう事例を検討するには、条文に遡る必要があるでしょう。
自分が読んでいる本に書いていないだけなのか、それとも条文から直接結論を導けないものなのか、条文を見ないとわからないわけで。
なお、私の観測するかぎりではありますが、税務本の傾向として、「公式」(国税庁発表のもろもろ)に書かれていることはしっかり書く(というか写す)が、法解釈が必要となる箇所になると途端に沈黙しだす、というものがしばしば。
公式では分からないことがあるからわざわざ書籍を買っているのに、公式情報を編集しただけ、みたいなのを掴まされると、がっかり(ゲームソフト販売直後の「公式ガイドブック」みたいなやつ)。
そういう意味で、この本は条文のどこをどう読めばいいかが書かれているのがよいと思いました。
○
念のため、あらゆる制度においてわざわざ条文に遡って、などとやるわけではないです。
アンチョコ本で済ませられるならそれに越したことはない。
「税理士は法解釈が不得手」とかディスり、その逆張りでやたらと条文を重視したり通達を見下したりする傾向もまま見受けられます。
が、「日常系税務」においていつもそんなことやっているのは、ただの遠回り。
いいから早く回答くれよ、と言われるのがオチ。
タックスアンサーで完結できるなら、それに越したことはない。
公式ではどうしても解決できない問題がでてきたときに、自然と法解釈ができる状態にアイドリングしておく、というのが望ましい。
いつでもゴリゴリ、法解釈フルスロットル・フルスイングでいる必要は、ない。
公式ですぐに解決できるものか、それとも法解釈を展開する必要があるか、その見極めをすぐにできることが重要なんでしょう。
○
本書は「平成30年改正」まで対応とはなっていますが、同改正に関わる箇所で間違っているのではないかと思われる箇所が。
複数設例に渡っているのですが、論点的にはひとつ。
以前の記事でも触れた、家なき子の「原則要件」と「除外要件」に関わります。
【家なき子の取得者要件】
(原則要件)
1 被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない
2−1 相続前の3年間に
・自分と自分の配偶者
・三親等内の親族
・特別の関係がある法人
の持ち家に住んでいない
2−2 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない
3 相続から申告期限まで継続保有
(除外要件)
2−1 「相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋」は除く
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
論点共通なので、設例を単純化して論じます。
《事例》
・被相続人:A、相続人:子B
・土地 A所有
・建物 A所有(2世帯住宅・区分所有あり)
・1階にA居住、2階にB居住(生計別)
⇒Bが土地建物を相続した場合の適用の可否は?
2階は、区分所有ありだし生計別だしで適用なし。
1階は、被相続人居住部分なので適用範囲には含まれます。
そこで、取得者要件を検討すると。
区分所有ありなので「なんちゃって同居」(一棟の建物)ルートは潰れます。
ということで「家なき子」ルートを検討すると。
1は、区分所有ありなので同居人無しでOKと。
問題は2−1。
本書では、Bは「持ち家無し」だから適用あり、と書いてあります。
が、「三親等内の親族」にはAも入るので、この記述は間違いだと思います。
Bは「三親等内の親族」であるA所有の2階に住んでいるわけで。
ただ、もし仮に「除外要件」を満たすならば、理由はともかく結論は間違いではなくなります。
けども、Aは2階部分には住んでいないので、除外要件の判定が「一棟ルール」(なんちゃって同居)なのか「独立ルール」(ガチ同居)なのかが正面から問題となります。
この問題を主題にしたのが以前の記事。
が、本書では原則要件を満たすと書いてしまっているので、除外要件の検討まで進まずに終わってしまっています。
○
本書では、原則要件のことに触れてはいるわけで、改正内容を見逃したわけではありません。
ではなく、あてはめがおかしい。
表紙には編者の二名しかお名前が書かれていませんが、例によって多数執筆者が寄り合う系。
【寄り合う系】
「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)
とはいえ、記述が似かよっているので、たぶん同一執筆者なんでしょう。
執筆分担が書かれていないので、犯人探しはできませんが。
名の通った税理士法人だし版を重ねている、にもかかわらずこういう間違いがある、というのはなかなか不安にさせられる。
今回の論点に関しては、以前の記事を書く際に自分で条文イジりをしていたおかげで気づけました。
けども、「これから勉強させていただきます」な領域だったら、気づかないままへえそうなんだ、と思ってしまっていたかも。
まあ、今回の場合は「親族」概念を知っていれば、そこの記述だけからでもおかしいと気づけたかもしれませんが。
何にしても、やはり自分で条文に遡る、というのは大事なんだなあと。
そして、あまりにヒドイと「アクティブ・ラーニング系」入りすると。
【アクティブ・ラーニング系】
後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)
「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)
三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
○
なお、この記事を書く過程で、タックスアンサーを再確認してみました。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
いつのまにか、平成30年改正にあわせて表現が修正されていたのですが、ちょっと怪しげな箇所があったので、そのうち記事にします。
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
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