関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
したら、いつのまにか表現が修正されていました。
3(3)の「特定居住用宅地等」の表のところ。
【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2
○
以前の記事では次のような揶揄を書きました。
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
(引用ここから)
タックスアンサー含め、国税庁側の出す情報の傾向として、
・うっかり優遇受けられると勘違いしがちな記述には厳密
・うっかり優遇受けられないと勘違いしがちな記述には寛容
というのがある気がします。まあ、そういうお立場ですし。
(引用ここまで)
この傾向からすると、嫌々ながらも頑張って納税者寄りに修正できたんだ偉いねえ、と一瞬思ったんですが。
どうも必死の抵抗が見られる。
以下、そのアゲンストイジり。
○
同特例にいろんな「同居」が内蔵されていることは、以前の記事で書いたとおりです。
【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)
b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)
c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)
d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
⇒???
このうちの、aが(注2)、bが(注3)に明記されています。
ところが、cとdは記載なし。
cは、abと違って「独立ルール」なわけですが、適用範囲を拡張するという方向性ではabと同じものです。
もし仮に、cを記載しないことで、abが「一棟ルール」ならcも同じでしょうね、という誤読を狙っての不記載だとしたら、小ずるい。
いつもの調子なら、通達ルールをうきうきで法令と同格であるかのように全面に押し出すくせに。
a:一棟 広がる 令
b:一棟 広がる 法
c:一棟?? 狭まる 通
b:一棟?? 広がる 無
他方、dの記載がないのは明文がないからしょうがないじゃないの、という擁護があるかもしれません。
が、公式において「明文がないから記載しない」なんて運用、たぶんされていない。
【参照:Q&Aでご都合解釈】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
当然、誰もが疑問に思うところ。
法解釈として正しいかどうかは別として、「公式」サイドがどのような運用をするつもりなのか、ちゃんと明記しておいてほしい。
○
(注2)の中で気になる記述。
注2
「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」が、被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」※を除きます。)の敷地の用に供されていたものである場合には、その敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分Aに該当する部分を除きます。)を含みます。
この記述のなかの「(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分Aに該当する部分を除きます。)」のところ。
具体例をあげてみます。
《事例》
・被相続人:A、相続人:子B、子C
・土地 A所有
・建物 A所有(2世帯住宅・区分所有なし)
・1階にA居住、2階にB居住(生計一or別)
この場合、1階のみならず2階も@の適用範囲に含まれる、というのが一般的な理解かと思います。
「生計一」は要求されていないので、一でも別でもどちらでもよいと。
が、上記記述の「除きます」ルールを文字通りに理解すると、
2階部分は@の適用範囲に含まれるか?
・Bが生計一 含まれない
・Bが生計別 含まれる
ということになってしまいます。
ので、Bが生計一の場合、2階部分はBがA(生計一)ルートで適用を受けるしかなく、BあるいはCが@3(家なき子)ルートで適用を受けることは不可能ということになります。
この結論が妥当なのかどうか。
要件が込み入りすぎて、もはや「制度趣旨」からなにがしかの解釈論を導くことは難しい。
税理士的には、本来ならば適用範囲が広いほうがありがたいはずなのですが、自信を持って解釈論を展開することができないのは、不安定極まりない。
しかも、相続の場面では相続人間に「利益相反」の関係があるのが通常です。
とすると、適用受けられる人が増えることで、誰が適用を受けるかの奪い合いになることも。
なので、単純に広がればお得、ということでもない。揉める要素が増えかねない。
○
ちなみに、まったくの余談ですが、要件を細かく書き込めば書き込むほど、隙間の穴埋めが難しくなるという罠があります。
「相続回復請求権」なんて、条文がふんわりしすぎて手がかりが手薄なんですが、そのおかげで制度趣旨からの解釈というのが自由にできたりします。
民法 第八百八十四条(相続回復請求権)
相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
この愚は、2017年の民法(債権関係)改正で、やたらと条文に書き込みをしたせいで余計に解決すべき問題が増えた、という現象と似ている気が。
で、解決しようにも、余計なことを書き込みすぎて解釈が展開しずらくなっているという。
○
そもそも、この「除きます」ルール、私の見落としがなければですが、条文を漁っても見当たらないんですよね。
これも、abを明記することで納税者側に譲歩したことの反動でしょうか。
条文に書かれていない制約条件を、何らかの法解釈で付け加えてみたと。
【譲歩/抵抗一覧】
譲歩 a書く
譲歩 b書く
抵抗 c書かない
抵抗 d書かない
抵抗 @から生計一除く
確かに、次のような事例で、Cが土地建物を一人で相続しつつ家なき子ルートで特例をフルで使えるのは、おかしい気がしないでもない。
申告したあと、Bを建物から追い出すなんてことをしたら、目も当てられない。
《事例》
・被相続人:A、相続人:子B、子C
・土地 A所有
・建物 A所有(2世帯住宅・区分所有なし)
・1階にA居住、2階にB居住(生計一)
ではあるんですが、「除きます」を条文解釈から導けないにもかかわらず、勝手に付け加えることは許されるものではないでしょう。
【参照:エクストリーム趣旨解釈】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
何らかの制限を加えたいのであれば、むしろcの独立ルールをもう少し精緻にしたほうがいいのでは。
お宅のところの通達レベルのルールなわけですし。
なお、「精緻」といったのは、単純にcを一棟ルールに置き換えれば済む問題ではないからです。
このあたりは、また別記事にするかもしれません。
○
これまで、改正のたびに要件の書き込み・書き込みで対応してきたわけですけども、ここであらためてパーツごと(独立、一棟、生計、区分所有などなど)に解体して、適切な結論を導けるよう組み直しをしたほうがよいのではないでしょうか(オーバーホール租税法)。
もしかしてですけど、この「除きます」の意味は、2階部分にAの適用を受けた場合は、重複して@の適用を受けることはできないという、わりと当たり前のことをいっているだけなのでしょうか。
私の歪んだ性根のせいで、イジりやすい方向に読み取ってしまっているだけですか。
【小規模宅地の特例】
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