【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)
b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)
c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)
d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
⇒???
が、記事を書いているうちに、そもそも法令本体のほうが、改正に次ぐ改正による建て増しで金属疲労を起こしているのかもしれない、と思うようになってきました。
以下、そのあたりのモヤりの確認作業。
【小規模宅地等の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2
○
まずは、条文構造の分析から。
タックスアンサー3(3)の表では、区分として@とAが最初から分岐しているように表現されています。
が、これは条文構造を正確に記述したものではない。
実際の条文構造は(以下、この表の中の記号を利用します)、
・まず、適用範囲として@とAを確定させる。
・次に、取得者要件の判定をする。
という流れになっています。
ので、誰が取得者になるかに関係なく、まずは@及びAの範囲を確定します。
で、取得者が「配偶者」の場合には、それら範囲につき無条件で適用を受けられると。
図式的にいうと、表では、
@1+A1
と取得者が配偶者の場合がふたつあるように書かれていますが、条文上は、
(@+A)1
と取得者としての配偶者はあくまでもひとつだけです。
取得者が「生計一親族」の場合は、取得者要件の中に「生計一親族居住用の宅地」であることが組み込まれているので、@が除外されてAのみに適用が受けられることになります。
取得者が、「同一建物親族」「家なき親族」の場合も同じように、取得者要件の中に「被相続人居住用の宅地」であることが組み込まれているので、Aが除外されて@のみに適用が受けられることになります。
○
ここで気がつくことは、同一建物親族も家なき親族も、取得者要件を満たす限り、適用範囲はいずれも@で同じだということです。
素朴に考えて、同一建物親族と家なき親族とでは保護範囲が違っていて然るべきだと思うのですが、適用範囲には違いはないんだと。
適用範囲を調整しなくとも、それぞれの取得者要件によって、適切な結論を導けるということでしょうか。
どうにも違和感のあるところなので、パターン分けして違和感の具合を検証してみます。
○
《前提条件》
・被相続人A、相続人子B、子C
・土地建物はいずれもA所有
・2つの土地建物はいずれも同一地積・同一床面積
・Bは@2(同一建物親族)、Cは@3(家なき親族)の適用を受けられるかを検討
(Bは事例によってはA2生計一も)
・可変させる以外の要件は満たしているものとする
・特記がないかぎり区分所有はないものとする
まずは通常事例から。
【通常事例思考】
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
《事例1》ガチ同居
・AとBは一軒家に同居
適用範囲 ○A宅@
ア Bが取得 ○(全体)
イ Cが取得 ×(Bがいるので)
まあ、これは分かる。
牧歌的な当初の制度趣旨どストレート・どストライクな事例ですよね。
《事例2−1》ガチ別居(生計別)
・宅地1 A居住
・宅地2 B居住(生計別)
適用範囲 ○A宅@ ×B宅
ア BがA宅を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
イ CがA宅を取得 ○(家なき親族要件満たす)
《事例1》と逆方向の通常事例としてあげてみました。
まあそういう結論になるよね、と一瞬思ったんですが、本当にこの結論でいいのかどうか。
たとえば、BがAを介護するために宅地1に隣接する宅地2に引っ越してきた、とするじゃないですか。で、Cは全く協力しなかったと。
この場合でも上記結論とするのは、嫌ですよね。
ちなみに、Bがきっちり家賃を支払っていたとすると、B宅は「貸付事業用」になります。
が、Bが取得してしまうと「事業継続」しなくなるから要件満たせず。他方で、Cならいけると。
家賃を支払うことでAの相続財産の増加に寄与しているというのに、この仕打ち。
そこで、Bは「生計一」になるしかない。
《事例2−2》ガチ別居(生計一)
・宅地1 A居住
・宅地2 B居住(生計一)
適用範囲 ○A宅@ ○B宅A
ア BがB宅を取得 ○(生計一親族が生計一居住用宅地を取得)
CがA宅を取得 ○(家なき親族要件満たす)
イ BがA宅を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
CがB宅を取得 ×(Aの居住用ではない)
この場合のアなら、BもB宅に適用を受けられると。
が、CのA宅への適用が排除されるわけではないので、適用選択をめぐって取り合いになることを防げない。
特例選択においては、Bに優先権があるわけでもなく、遺産分割の審判のような制度があるわけでもないので(遺産分割の結果として適用可能者がBだけになればよいのでしょうが)
ちなみに、この《事例2》のB宅を区分所有の状態でA宅にくっつけたのが二世帯住宅(区分所有あり)の事例になります。
この場合は、ますますBを保護すべきとなりそうですが、そういう配慮は現行法には存在しない。
ここまでですでに怪しげな雰囲気がでちゃってますが、本題はここから。
《事例3》なんちゃって同居(二世帯住宅・区分所有なし・独立)
・1階 A居住
・2階 B居住
適用範囲 ○AB宅全体@
ア Bが全体取得 ○(BはAとなんちゃって同居しているので)
イ Cが全体取得 ○(BはAとガチ同居していないので)
ウ BCが1/2づつ取得 ○(アイの合成)
アはいい、ウもまあいいか、となるとして、イはどうなのさ。
現にBが住んでいるというのに。
本来ならば、@3(3)でCの適用を排除できそうなものですが、a(一棟ルール)とc(独立ルール)が組み合わさると、こうならざるを得ない。
もしかしてなんですけど、タックスアンサーの(注2)の「除きます」ルールは、この場合に発揮されるものですか(「除きます」は2つあるけど下記下線部のほう)。
2 「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」が、被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」※を除きます。)の敷地の用に供されていたものである場合には、その敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分Aに該当する部分を除きます。)を含みます。
Bが「生計一」の場合にかぎり、CがB居住部分にも適用を受けることを防ぐと。
結論はいいのかもしれませんが、それを条文のどこから導けばいいのか。
一応、Bが生計一の場合の「除きます」ルールの帰結を書いておくと、おそらくこうなるはずです。
適用範囲 ○A宅@(B宅は@から除く) ○B宅A
ア Bが全体取得 ○(A宅は同一建物親族として、B宅は生計一親族として)
イ Cが全体取得 △(A宅部分1/2のみ家なき親族として)
ウ BCが1/2づつ取得 B ○(持分1/2全体 アの半分)
C △(持分1/2×1/2 イの半分)
《事例4》同一マンション(分譲ではない)
・101 A居住
・401 B居住
(その余の部屋は考慮外)
適用範囲 ○101と401@
ア Bが取得 ○(BはAとなんちゃって同居しているので)
イ Cが取得 ○(BはAとガチ同居していないので)
ウ BCが1/2づつ取得 ○(アイの合成)
この場合も《事例3》と同じ結論。
一棟内で場所を離しただけで、現行法からみれば同じ扱い。
Cが401も含めて適用を受けられることに対する違和感は、《事例3》よりも強まりますよね。
《事例5》別マンション
・エスポワールA棟101 A居住
・エスポワールB棟401 B居住
(その余の部屋は考慮外)
T Bが生計別
適用範囲 ○A宅@ ×B宅
ア BがA棟101を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
イ CがA棟101を取得 ○(家なき親族要件満たす)
U Bが生計一
適用範囲 ○A宅@ ○B宅A
ア BがB棟401を取得 ○(生計一親族が生計一居住用宅地を取得)
CがA棟101を取得 ○(家なき親族要件満たす)
イ BがA棟101を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
CがB棟401を取得 ×(Aの居住用ではない)
《事例3》《事例4》からの流れでここに配置しましたが、結論は《事例2》のガチ別居と同じ。
《事例2》の結論にも疑問はありましたが、《事例4》の場合と比較するとなおさら、Bの保護されないっぷりが目立ちます。
《事例4》では、Bは「生計別」でも同一建物内ということで適用を受けられることになっているのに。
仮にですけど、BはAの介護のためA棟に引っ越そうとした、けどもA棟は他の借主で埋まっていた、ので一旦同じ敷地内のB棟に引っ越した、といった場合でも別棟であるかぎりは駄目だと。
Bが駄目なのは諦めるとして、Cが受けられるのかよ、とは思いますよね。
なんですか、魔改造してA棟とB棟を繋げばいいんですか(非推奨)。
○
以上、パーツを分解し、共通要素を括りだして分析をする、ということを実践してみました。
ここであげた事例のかぎりでいうと、Bの保護されないっぷりが目立ちました。
その要因は、Bが、Aと別棟かつAの持ち家に住んでしまっていると、およそ@のルートが潰れてしまうからです。あとはA生計一ルートでいくしかない。
対照的に、Cは、BがAとガチ同居していないかぎりは、家なき親族として保護が受けられます。
もちろん、ここにあげたものは、あくまでも一事例群にすぎません。
が、決してありえないエキセントリックなご家庭を取り上げたわけでもない。
のに、適切に保護範囲をコントロールできていないと思われる事例が現に存在していると。
Bの保護は、遺言や遺産分割協議、特例選択の同意などでカバーできるのかもしれません。
が、そもそも税制がどういうつもりでこういう帰結を導いているのか、そこは明確にすべきでしょう。
○
ここから先、じゃあどうやって組み直せばいいのよ、については、力及ばす。
他の特例のように、単純に納税者と課税庁の二者間で、特例広げる/狭めるの綱引きをしているだけに留まっておらず、納税者側でも相続人間での綱引きがあって「3以上すくみ」状態にあるのが、問題をさらに厄介にしている。
タックスアンサーの「除きます」ルールが、このあたりを見据えてこっそり仕込んだものだとしたら、それはそれでひとつの租税正義感かもしれない(難癖つけてすみません)。
生計一親族居住用部分は同人のみ(または配偶者)が適用を受けられると。
このアイディアを、同一建物親族と家なき親族との関係にも及ぼせないものかどうか。
民法の法定相続人決定ルールが、序列を設けているのと同じようなノリで。
民法第八百八十七条(子及びその代襲者等の相続権)
1 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
民法第八百八十九条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
1 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
民法第八百九十条(配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
あるいは、同一建物親族居住部分は、同人のみ(または配偶者)が適用を受けられるとするとか。
いずれにしても、タックスアンサーでこっそり仕込んでいいものではおよそなく、法令上に明記すべきことでしょう。
役員報酬の「Q&A」もそうですけど、あまりにも条文から離れたところでの曲芸が過ぎる。
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
○
以上、小規模宅地等の特例の記事、第一期三部作に続き、書評をひとつ挟んで第二期三部作で一応締めておきます。
今のところ私の中に残っている疑問として、家なき親族の「家なし」を判定する際の「所有」につき、単独所有にとどまらず、共有や各種組合(任意組合、匿名組合、投資組合、LLPなど)、信託による保有も含むのかどうか、というのがあります。
持分あり「法人」の場合は半分支配だからこれらの場合も持分半分判定でいいだろ、などと単純に類推できないのが税法の厄介なところ。
で、文言からも趣旨からも、どうにも決めがたい。規制を三親等内親族やら理事等やっている持分なし法人にまで拡散した時点で、この要件の趣旨が何なのか希薄化してしまっていますし。
最終的には施行令あたりで詳細つめといてくれや、となるのでしょうが、さしあたりは通達で決め打ちしておいてほしい。
なお、信託と小規模宅地等の特例の絡みについては次のような措置法通達がありますが、これはあくまでも適用対象の問題。
69の4-2(信託に関する権利)
特例対象宅地等には、個人が相続又は遺贈により取得した信託に関する権利(相続税法第9条の2第6項ただし書に規定する信託に関する権利及び同法第9条の4第1項又は第2項の信託の受託者が、これらの規定により遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利を除く。)で、当該信託の目的となっている信託財産に属する宅地等が、当該相続の開始の直前において当該相続又は遺贈に係る被相続人又は被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下69の4-24の8までにおいて「被相続人等」という。)の措置法第69条の4第1項に規定する事業の用又は居住の用に供されていた宅地等であるものが含まれることに留意する。
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