2021年01月04日

南野森「法学の世界」(日本評論社2019)

 法学入門の、ひとつの望ましい形。

 南野森編「新版 法学の世界」(日本評論社2019)

 各科目10頁程度で、各法領域を専攻する研究者が当該法領域の面白い(と各執筆者が考える)ところを語る、というもの。
 概説的な情報の陳列は少なめで、ポイントを絞った記述がメイン。

 こういうコンセプトこそが、文字通りの『入門』と呼ぶにふさわしい。
 のに、タイトルに「入門」を入れていないのは、既存の、情報陳列系の『法学入門』とは一緒にされたくない、ということですかね。タイトル汚染されてしまっているということで。


 人によって面白いと感じる科目は違うと思うので、通読はせずに気になるところから拾い読み、でいいと思います。
 で、面白そうな科目があれば、当該科目を履修選択するなりして深く学んでみるとか。

 あるいは、すでに選択してしまった、とか必須科目だが面白さが分からない、といった科目を読んでみたり。


 ただし、法学が厄介なのは、教える人によって面白い/つまらないが大きく可変すること。
 なので、誰から教わるか(誰の本を読むか)が極めて重要。

 科目の特性、というものもあるのでしょうが、どちらかというと、専ら、教えてくれる人に依存しているように感じます。
 この本読んで「○○法、面白そうだな。」と思っても、自分の大学の授業はそれほどでもなかったり、とかはいくらでもありうる。

 本書には「学習ガイド・文献案内」もあるので、一応のルートは示してくれています。
 が、総じてレベルが高めなので、段階的学習にはなりにくい。

 旧版と新版で執筆者をごっそり入れ替えているのは、同じ科目でも執筆者が変わればそれが刺さる人も変わってくる、というのもあるんでしょうね(ただし、全とっかえではない)。

 南野森編「法学の世界」(日本評論社2013)


 このようなコンセプトからすると、どう考えても「一見さんお断り」感を出しすぎな科目があるのはどう捉えればいいのか。

 これは「一見さんお断り」な感じを逆に面白いと感じる人を選び出す儀式(Initiation)でしょうか。
 うっかり軽い気持ちで科目選択してしまうのを予め防いでくれていると。
 科目選択におけるミスマッチ、どちら側にとっても不幸ですからね。

 そういうゲートとして機能させる、ということであれば、それもある意味で「入門」と呼んでもよいのかもしれません。
 むしろ「門」というのはそういうものですか。


 個人的には、「刑事訴訟法」(緑大輔先生執筆)のところが気になりました。
 
 たまたま、鴨良弼先生の『刑事訴訟における技術と倫理』を読んだばかりだったのですが、唐突に同書が引用されていました。

鴨良弼「刑事訴訟における技術と倫理」(日本評論社1964)

 同書(所収の論文)は、刑事訴訟に倫理や信義則を導入して訴訟当事者の関係を規律しようというものです。

 出版は56年前。
 当然のことながら、鴨先生ご自身の問題意識は、当時の問題を解決しようということにあるのでしょう。

 この考えを現代にもってきたらどうなんだろう、とかいうことを妄想していたら、いきなり紹介がされていたのでびっくり。
 まさか入門書に鴨先生の著書が出てくるとは思わないじゃないですか。

 というか、教科書や体系書にだって、こういう基礎理論系の議論はほとんど出てこない気がしますし。

 刑事訴訟法は、緑先生ご自身の入門書があるので、次に読むべき本が明確ですね。


緑大輔「刑事訴訟法入門 第2版」(日本評論社2017)


 「刑法」(和田俊憲先生執筆)では、刑法学における想像・妄想の重要性が説かれています。

 おっしゃるとおりで、読み物としても、過去の裁判例の分析ばかりが展開されたものよりも、限界事例(あるいは限界はみ出た事例)についてあれこれ検討したもののほうが、面白いと感じるはずです。

 それが実務で役に立つかといわれれば、「直近では」役に立たない、というだけでしょう。

 和田先生も、ご自身の入門書がありますね。

和田俊憲「どこでも刑法 #総論」(有斐閣2019)
辰井聡子 和田俊憲「刑法ガイドマップ(総論)」(信山社2019)


 「労働法」(大内伸哉先生執筆)では、これからの労働構造の変革を見据えると(旧来の)労働法の展望は明るくないよ、といった趣旨のことがぶっちゃけられています。

 各科目への勧誘とすべきはずの入門書でそれ書いちゃいますか、と思わなくもないですが、変に良いところだけを強調するよりも、現実を教えてくれるのは誠実なのかもしれません。


 「国際私法」(横溝大先生執筆)では、石黒一憲先生と道垣内正人先生の著書を対比させながら読め、ということが書いてあるのですが、もう少し対比させるための補助線を書いておいてほしいところ。

 私自身もまさにそういう入り方をしたのですが、ほとんど前進できていないわけで。

野村美明『新・ケースで学ぶ国際私法』(法律文化社2020)


 ちなみに「租税法」(神山弘行先生執筆)は比較的堅実。
 具体例や数字が全然出てこないので、特色らしい特色を感じにくいかもしれません。

 なお、私自身の考えは「数字」の中にこそ税法の面白さが詰まっている、というのが持論。

三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
posted by ウロ at 13:52| Comment(0) | 法学入門書探訪
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