民法学習に使える「ロジカルシンキング」のご紹介本。
金井高志「民法でみる法律学習法 第3版」(日本評論社2024) Amazon
学説を図表に整理するなどの手法は初学者には参考になるかもです。
が、その手の遣り口は「予備校本」のほうが徹底的で、サンプルに事欠かない。
※なお、税理士的には図解モノはこちらを推奨。
図解 民法(総則・物権) 令和元年版(大蔵財務協会2019) Amazon
図解 民法(債権) 令和元年版(大蔵財務協会2019) Amazon
図解 民法(親族・相続)令和5年版(大蔵財務協会2023) Amazon
民法学習にロジカルシンキングを導入することで、従前の議論で見落とされていた視点を獲得することができる、などといった「カタルシス」を得られる実例でも書いてあればいいのですが、そこまで込み入った活用はされていないです。
あくまで初学者向け、ということなんでしょうかね。
【要件事実論とカタルシス】
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
たとえば、成立要件と効力要件の区別について、本書では一般的な教科書の理解に従い整理されています。
が、具体的に考えてみると、その区別にはよくわからないことがあったりします。あるいは、条文上も必ずしも講学上の区別どおりに使い分けられていなかったりします。
このあたりのモヤリについて、ロジカルシンキングの観点から深く突っ込んでみたりしてくれれば、面白いかもと思ったり。
【成立要件/効力要件】
私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法
続・契約の成立と印紙税法(法適用通則法がこちらをみている)
続々・契約の成立と印紙税法(代理法がこちらをみている)
実践編として課題を思いついたので、ちょっと書いておきます。
課題
1 条文上の「成立」「効力」が、講学上の成立要件・効力要件に対応しているか確認してみよう。
2 「請求することができる/できない」など、「成立」「効力」という用語を使っていないもので成立要件・効力要件と思われるものを集めてみよう。
3 節などのタイトルが「○○の効力」となっているものにつき、その中身が講学上の効力要件を定めたものになっているか確認してみよう。
○
ロジカルシンキングを勉強したいのであれば、まずは正面からロジカルシンキングの本を読むのが、むしろ近道。
「自分で民法に応用するの大変じゃん」て思うかもしれません。
が、ロジカルシンキングの本を読んでいながら自分でその知識を民法学習に応用できないのだとしたら、それはロジカルシンキングがちゃんと身についていないということです(本書にもちゃんと、使いこなせるようになれ、と書いてある)。
「自分の力で民法学習に応用する」という関門をショートカットしてしまうのは、多大なる機会損失、と私は思います。
ので、本書は一度自力で関門を突破した後の確認用、として使うのがよいのではないでしょうか。
あるいは、ある程度勉強が進んで行き詰まった段階で、自分に役に立ちそうなパーツを見つける、という使い方がよいかもしれません。
○
「ご紹介」感を強く感じてしまったのが、第9章。
(というよりも、この章の影響で本書全体の評価が上書きされてしまったのかも。)
旧司法試験の論文問題を題材としていながら、中身は事例の図式化と答案構成の仕方・答案の書き方がメイン。
問題を解いたことのない人がロジカルシンキングを使ってゼロから答案作成ができるようになる、というのではなく、すでに解答できる実力のある人がロジカルシンキングで答案構成能力を底上げをする、といった趣が強い。
もちろん、賢い人ならこれだけ読んでもいきなり答案書けるようになるのかもしれませんけども。
自分の持っている知識をどのように引っ張り出してくればいいのか、そのためには普段知識をどのように整理しておけばいいのか、などを試験問題から逆算できるようにしておいてくれれば、ロジカルシンキングを実践的に身につけることができたのではないでしょうか。
本書の解説は、すでに分かっている人向けのきれいに仕上がったものに感じました。もしも初学者向けだというならば、その一つも二つも手前の段階からの解説が必要ではないかと。
「ロジカルシンキング」+「民法学習」という観点からすれば、単に「答案を書く」目的で本試験問題をネタにするのはもったいない。
たとえば、ということで少し考えてみたのですが、長くなりそうなのでこちらは次週にまわします。
○
あと、なぜか本書に欠けているのが民法学習における『判例』とのお付き合いの仕方。
当ブログでは、『判例』を軸にした法学学習にはどちらかといえば否定的な書き方をしているところではあります(『カギ括弧』付きなのは含みがあってのことです。直接触りたくないから割り箸で摘む的な)。
内田貴「民法3(第4版)債権総論・担保物権」(東京大学出版会2020)
そこには、法学学習はまずは「通常事例」からスタートすべき、という考えが根底にあります。
ではありますが、だからといって学習上いつまでも『判例』を無視することはできません。
ので、『判例』とのお付き合いの仕方・距離感のとり方が重要になってきます。
少なくとも、長大な判決文をとにかく読め、みたいな無謀なやり方に出くわす前には、『判例』の消化の仕方を学んでおくべきでしょう。
『判例』ほど、ロジカルシンキングで「粗探し」するのに最適な素材はないと思うんですけど。
どうしたって事案の解決第一で、ロジックに粗が出がちです(なので、『判例』を有難がって拝読する学習法には批判的なわけです)。
【判例粗探し】
判例イジり(カテゴリ)
なお、「レトリック」という観点からですが、下記書籍の第三編「第三章 判決批評−連邦通常裁判所刑事判例集」における判決イジり、とても参考になります。
全く裏付けをとっていませんが、メジャーどころの判決解説ものでこのタイプの判決批評、おそらく存在しないんじゃないですかね。
フリチョフ・ハフト「法律家のレトリック」(木鐸社1992) Amazon
○
実践的な民法学習法を身につける、という観点からすると、本書の構成を逆転させたほうがよいのかもしれません。
すなわち、本試験問題を最初に置いて、最終的に問題を解けるようにするためには、普段からどのように学習していけばよいかを逆算していくと。
もちろん、当該問題の模範答案を書くためだけでなく。あらゆる問題に対応できるための解決力を身につけるようにすると。試験問題は問題思考を育てるために使う。
そうすれば、ロジカルシンキングを整理のための整理として使うのではなく、明確な視点をもって使いこなせるようになるのではないでしょうか。
あくまでも思いつきで言っているだけですが、ご紹介で終わらせないための一つの手法かと思います。
○
ところで、166頁にまるまる1頁使って「法律解釈のフローチャート」というのが載っています。
このチャートにどうにも違和感があるのですが、こちらの中身も長くなりそうなので次々週にまわします。
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