金井高志「民法でみる法律学習法 第2版」(日本評論社2021)
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たとえば次のような活用方法が考えられます。
1 「MECE」でモレ・カブリがないかチェックしつつ、事例のパラメータをあちこちイジる。
・目的物を不動産/動産/債権に変える
・目的物を特定物/種類物に変える
・取引の順番を変える
・当事者の主観(善意/悪意)・帰責性を変える
・対抗要件を入れ替える
・無効/取消/解除原因などの阻害要因を付加(権利行使前/後)
など。
2 これらケースの帰結を「マトリクス手法」で整理する。
・必ず債権関係/物権関係の両面を検討する
・問題文で問われていない当事者間の法律関係も検討する
・関連判決のあるなしをチェック。
このように、当該試験問題を起点としながらあらゆるパターンを網羅的に検討することで、
・事例処理のチャート、見取図を漏れなく作れるようになる。
・論点に飛びつく前に、通常事例の処理過程を理解することができる。
(教科書ですら論点に飛びつきがちで、通常事例の処理手順の記述が手薄なのが分かると思います)
・債権/物権、契約/契約外の機能の違いが理解できる。
・なぜ本問では目的物が不動産に設定されているのか、など出題の意図が見えてくる。
(動産にすると論点が消えるとか)
・学説がどのレベルで対立しているかが分かる。
・答案に書くべき/書くべきでない/書ければ書く、の論点の重みを理解することができる。
・どのパターンに判例が有る/無いが整理できる(判例の射程の理解)。
・有る判例を無い事案へ適用した場合の推測ができる。
などの効用が得られます。
【参考:判決から判決へつなぐだけの記述】
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)
思考が軌道に乗るまでは、やたらと沢山の模擬試験問題を模範答案一直線で解くよりも、本試験レベルの問題をあれこれこねくり回すほうが、得られるものが多いはずです。
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もちろん、試験直前までには「試験時間内に最短距離で答案を書く」技術も身につけておくべきです。
が、普段の学習段階から必要論点を拾うだけの勉強をしていても、穴だらけの歪な知識が身につくだけに終わってしまいます。
思考が慣れるまでは、通常事例の処理から順番に積み重ねていく過程をこなしておいたほうがよいです。そうしておくことで、本番でも、思考過程に抜けのない・地に足のついた論証ができるようになるはずです。
【通常事例思考】
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
「ルビンの壺」を壺と認識するためには、壺部分が壺であることを理解するだけでなく、背景部分を背景として理解することも必要でしょう。
そうすることで、ふとした拍子に認識が反転してしまうことを防げるはずです。
ルビンの壺 - Wikipedia
あるいは、最短ルートを見出すためには、ルートを見つける技術だけでなく、ルートではない箇所を潰せる技術もあったほうがよい、などと喩えられますかね。
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試験問題ではなく「判例イジり」への適用例ですが、下記記事が実践例の一つです。
税務訴訟におけるゴリ押しVS誉めごろし 〜税務トロイの木馬(Tax Trojan horse)
基本事例からスタートして、少しずつパラメータをずらす。
徹底的にやるならば、個人/法人の場合分けもいれたほうがいいです。
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前回紹介の書籍にはこういった、ロジカルシンキングを「学習の過程に活かす」という部分が手薄だと感じました。
あくまでも、民法もロジカルシンキングも「初学者向け」ということで、学習段階をかなり手前に設定しているのかもしれませんけども。
さて、次週は「法律解釈のフローチャート」に対する違和感について、です。
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