フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)
フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈
文理解釈または定義付け解釈により導かれた命題を事案にあてはめ、結論が妥当でない場合に【縮小系】の解釈が試みられます。
「縮小系」と表現しているのは、「拡大系」と対比するためです。
が、「拡大系」が、拡大解釈・類推解釈・勿論解釈などいろんな広げ方があるのに対して、縮小系はなぜか「縮小解釈」だけです。「反制定法解釈」は、縮小しすぎという縮小解釈のライン上の問題にすぎません。
これが実態としてそうなのか、それとも十分な深堀りがされていないだけのか、私にもよく分かりません。定義付け解釈のように、見落とされているのかもしれませんし。
○
「対比」とは書きましたが、縮小解釈と拡大解釈とを、単純な裏表の関係にあるものと理解してよいかは留保が必要です。
立法者が適用すべきとして書いた範囲はそのままにそれを広げること(拡大系)と、その範囲を削り取ること(縮小系)とは、立法への反逆具合が違うのではないか、ということです。
厄介なのは、規定内容によって、縮小系と拡大系とで方向性が逆転するということ。
租税法でいうと、同じ縮小解釈でも、解釈対象が課税根拠規定の場合は納税者有利、課税制限規定の場合は納税者不利となり、これが拡大解釈の場合は逆になります。
課税制限規定の拡大解釈・縮小解釈につき、「適用範囲」を軸にすれば言葉と図が一致します。
が、「課税範囲」を軸にしてしまうと、これが逆転します(認知不協和)。
ので、「縮小解釈は緩やかに/拡大解釈は厳しく」というように、解釈手法ごとの解釈方針を示すことはできません。規定内容によって「緩和/厳格」を判断する必要があります。
このように、規定内容により逆転する関係にあるにも関わらず、拡大系だけ手法が豊富なのは、やはりよくわかりません。
ということで、一連の記事では、規定内容や解釈方針云々ということには踏み込まず、あくまでも「解釈手法」という外形的な観点からのみ検討することとしています。
○
なお、反対解釈と類推解釈も反対概念として掲げられることがあります。
拡大解釈⇔縮小解釈
↓ ↓
類推解釈⇔反対解釈
確かに、帰結を並べると反対っぽくみえます。
反対解釈: 適用範囲外だし・違うから・適用しない。
類推解釈: 適用範囲外だけど・似てるから・適用する。
が、適用範囲外の場合に適用しないのは当たり前のことなのに対し、似てるからといって適用範囲外の事案に適用するのは相当異常な事態です。これを単純な裏表の関係にあると位置づけてよいのか、私には疑問ありです。
また、反対解釈を縮小解釈の系列に並べるのもしっくりきません。
前々回であげた(旧)民法511条でいうと、反対解釈により差押前取得の債権に同条を適用しないと解釈したとして、これは同条を「縮小」したわけではありません。
民法(旧) 第五百十一条(支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
数値化していうと、適用範囲が0〜10の場合に、11には適用しないといっているだけで、0〜10はそのままです。もとの適用範囲を縮小しているわけではありません。
確かに、縮小解釈の思考過程を無理くり分解すると、
【縮小解釈(広義)の思考過程】
1 文理解釈: 適用範囲0〜10
2 縮小解釈: 適用範囲を0〜8に縮小する
3 反対解釈: 当該事案は9なので及ばない
と、縮小解釈(広義)の中には3の反対解釈が仕込まれていると見ることもできます(2は狭義の縮小解釈)。
が、こんなものをあえて取り分ける必要があるとは思えません。
【縮小解釈の思考過程】
1 文理解釈: 適用範囲0〜10
2 縮小解釈: 適用範囲を0〜8に縮小。当該事案は9なので及ばない。
これで足りる。
もし取り分ける必要性があるとしたら、縮小解釈とカップリングになるのが反対解釈だけでなく、「縮小解釈+○○解釈」のような別のカップリングがある場合とかでしょう。
【(広義の)縮小解釈】
1 縮小解釈+反対解釈
2 縮小解釈+○○解釈
3 縮小解釈+××解釈
拡大系に比べて縮小系は手法が貧弱、という問題、どうもこのカップリングを見い出せば解決できそうです。が、さしあたり私には何のアイディアも浮かんでいません。
ということで、当チャートでは、反対解釈は【通常系】、縮小解釈は【縮小系】、類推解釈は【拡大系】にそれぞれ納めるという整理をしています。
○
前回の記事では、民法177条の「第三者」の解釈を例に、定義付け解釈と縮小解釈の使い分け方について記述しました。
この例では「第三者」の文言解釈が明確だったため、定義付け解釈を経由せずに縮小解釈がなされました。
他方で、文理解釈では命題が導けない場合には、一旦定義付け解釈をはさむ必要があります。そして、この定義付け解釈による命題を狭めたい場合に、縮小解釈をすることになります。
前回の記事でも述べたとおり、定義付け解釈と縮小解釈の境目は固定的なものではありません。
文理解釈を100%、空文化を0%とすると、その間に定義付け解釈→縮小解釈→反制定法解釈が並びます。
100% 文理解釈
定義付け解釈
縮小解釈
反制定法解釈
0% 空文化
上図のイメージでいうと、文理解釈では輪郭がぼやけているのを明確化するのが「定義付け解釈」、文言解釈・定義付け解釈の適用範囲を狭めるのが「縮小解釈」、狭めすぎると「反制定法解釈」と評価されるようになり、適用範囲が完全に無くなると「空文化」となる、といった感じです。
そして、縮小解釈だったものが確立するに従って定義付け解釈に移行すると。
あくまでもイメージであって、「○%〜○%までが縮小解釈」などと数値化することはできません。
文言から離れるにしたがって呼び方が変わるわけです。が、ある論者は「これは縮小解釈として許される」といい、別の論者は「文言から離れすぎた反制定法解釈であり許されない」といったように、レッテル貼りの道具として使われることがあります。
ので、あくまでも解釈の中身を見るようにすべきでしょう。
○
反制定法解釈が許されない場合には、解釈論ではどうにもならず「立法論」に委ねることになります。ただし、当該事案限りでの「例外則」の発動により救済を図ることもありえます。
このような逃げ口があるのが「概念法学」との違いのひとつです。
一連の記事では「憲法解釈論」については考慮外にしているのですが、もしチャートに入れ込むならこの「例外則」のところになりそうです。
憲法論を「例外則」に入れ込むとは何事か、とお叱りのご意見はあるかと思います。
「レイヤー」という概念を用いるならば、普段は非表示にしているだけで、チャート全体を憲法論というレイヤーが覆っていることになるのでしょう。
が、実相としてはやはり例外的に発動されることになることになるため、申し訳ありませんが、さしあたりここに収まっておいていただければと思います。
縮小系についてはこの程度で、次回が【拡大系】となります。
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