2021年06月21日

フローチャートを作ろう(その5) 〜慣習法

 ここまでは「制定法」の解釈を前提としてきました。

フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)
フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈
フローチャートを作ろう(その3) 〜縮小解釈(縮小系)
フローチャートを作ろう(その4) 〜拡大解釈(拡大系)

 では「慣習」はどのように位置づけられるでしょうか。

 解釈の際の「素材」として使われることは確かです。

慣習法 素材.png


 ではそれ以外の役割を果たしているでしょうか。

 『慣習(法)は法源か?』という問いがこの点に関わってきます。
 が、『法源』という用語自体が各論者の想いがこもったコトバとなってしまっているため、このような問いに正面から答えるのは一旦保留します。

 ここでは、慣習をどのようにチャート化できるか、という観点からのみ論じます。

 法適用通則法3条と民法92条からすると、次のようなチャート化が可能ではないかと思います(個別の条文に「慣習」が組み込まれているものも、同様の型になると思います)。

慣習法プロセス.png


法の適用に関する通則法 第三条(法律と同一の効力を有する慣習)
 公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。

民法 第九十二条(任意規定と異なる慣習)
 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。


 前者が「法律と同一の効力」、後者が「法律行為」の解釈の問題なので、扱っているレベルは違います。ですが、『契約に関する慣習の解釈』の限りでは同レベルのものとして扱っても支障はないと思うので、ひとつのパーツの中に納めておきます。

 なお、両者の関係については種々争われています。
 が、さしあたり、一般法としての通則法3条があり、プラスして、法律行為については、慣習による意思がある(と認められる)ときは、その慣習で任意規定を上書きできる、と理解しておけばよいと思います。


 チャートは、通則法3条・民法92条を使って、慣習から命題1を導くことを表しています。

 また、制定法と同様に「定義付け解釈」から命題2を導いているのは次のような考慮からです。

 すなわち、「命題1」はあくまでも事実として存在する慣習をそのまま認定したものを想定しています。
 これをそのまま事案に適用できる場合には包摂作業へ行くが、そのままでは適用できない場合には定義付け解釈を行い、包摂作業が可能な法命題に仕立て上げると。

 もちろん、一段階で一気に法命題にまで仕上げてしまってもよいのでしょう。
 が、事実として存在する慣習の発見と、それを法的に精緻化する作業とは区別しておいたほうがよいのでは、という考慮から二段階に分けてみました(これが上告受理事由などで問題となる「事実問題/法律問題」に対応するものであるかどうか、までは詰めて考えていません)。


 一応具体例をあげておきます。

 たとえば、『当地では、土地の買主は事前に近隣に挨拶をしなければならない。』という慣習があったとします。
 この慣習があるということ自体を認定するのが「命題1」までの解釈。そして、当該事案において近隣をどの範囲までと理解するか、これを守らなかった場合にはどのような効果が生ずるか、などの解釈をするのが「命題2」までの解釈。

 こういうふうに切り分けておいたほうが、思考過程が明確になるんじゃないですかね。


 それ以降の作業は制定法の場合と同じです。

 その慣習が適用されるが妥当でない場合は【縮小系】へ、適用されないが妥当ではない場合は【拡大系】へ、それぞれ向かうことになります。


 私としては、事実として存在する慣習が、通則法3条・民法92条(と定義付け解釈)を経由することで「慣習法」となる、これをさして『慣習が法源になる』といってよいと思っています。
 これに対しては、「慣習は、通則法3条・民法92条があってはじめて法源扱いされるにすぎないから、法源とはいえない」という言い方も可能かもしれません。
 が、これを言い出したら「制定法は、憲法76条3項があってはじめて法源扱いされるにすぎないから、法源とはいえない。」ということも言えてしまいます。

憲法 第七十六条
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。


 そしてさらに「憲法は〜」などと続いてしまうため、これ以上この議論には深入りしません。


 整理しておくと、慣習には、
  1 事実としての慣習
  2 素材としての慣習
  3 命題としての慣習(慣習法)
があるということになります。

 まずは事実としての慣習があるかどうかを認定し(1)、それがある場合には制定法解釈の素材として使われたり(2)、通則法3条などを通して命題化したりする(3)、ということかと。

 次回は「判例(法)」を検討してみます。

フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法
posted by ウロ at 09:24| Comment(0) | 基礎法学
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