2021年07月12日

法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論

前回の書評記事からのスピンオフ。

多田望ほか「国際私法 (有斐閣ストゥディア)」 (有斐閣2021)


 「フローチャート」が本書の売りのひとつになっていて、たしかに個々の制度の判断過程はわかりやすくなっています。
 が、5条と35条を連結させたフローチャート(173頁)がどうもおかしい。

第五条(後見開始の審判等)
 裁判所は、成年被後見人、被保佐人又は被補助人となるべき者が日本に住所若しくは居所を有するとき又は日本の国籍を有するときは、日本法により、後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)をすることができる。

第三十五条(後見等)
1 後見、保佐又は補助(以下「後見等」と総称する。)は、被後見人、被保佐人又は被補助人(次項において「被後見人等」と総称する。)の本国法による。
2 前項の規定にかかわらず、外国人が被後見人等である場合であって、次に掲げるときは、後見人、保佐人又は補助人の選任の審判その他の後見等に関する審判については、日本法による。
 一 当該外国人の本国法によればその者について後見等が開始する原因がある場合であって、日本における後見等の事務を行う者がないとき。
 二 日本において当該外国人について後見開始の審判等があったとき。


 両条が「連動している」ということで、5条のチャートの下に35条のチャートが矢印で繋がれています。
 その繋ぎ方なんですが、5条で日本で後見開始の審判を受けた場合にのみ、35条にいけるように表現されています。

 が、35条2項1号を見ればわかるとおり、日本で後見開始の審判を受けていない場合も35条2項は発動されます(以下、35条2項1号・2号を単に1号・2号といいます)。
 また、35条1項は、後見開始の審判とは直接関係なく後見等の準拠法を決めるものです。

 ので、日本で開始審判を受けた場合にしか35条に行けないように表現されているのは、端的にいって不正確。

 なぜこんな作りになっているのか邪推するに、先に5条のチャートと35条のチャートを別々に作った後に、そういえば両条連動しているんだっけ、と思い出して、繋げられそうなところに矢印をつけてみた、というものに見えます。
 実際に、どことどこが連動しているかを考えてからチャート化していない。

 が、「法律学習」の観点からフローチャートについて検討を重ねてきた我々には、このような作図姿勢に問題があることはわかるはずです。

【法律学習フローチャート】
法律解釈のフローチャート(助走編)
フローチャートで遊ぼう。 〜フローチャート総論

 「連動している」というのは、たとえば日本国籍なしで日本に住所があるならば、
   35条1項 後見の準拠法は外国法
   5条、35条2項2号 開始審判と後見に関する審判は日本法
と自動的に両条の結論が導かれるということです。
 そしてこのことが、チャート上で表現されていなければ両条のチャートをわざわざ連結させる意味がない。


 ということで自ら実践してみましょう(法律学習フローチャート各論)。

 まずは第1案

5条35条1.png


・大きく分けて3つのルートがあります。
 左が国内ルート、右が国外ルート、真ん中が国外ものをどうにか国内に取り込もうという通則法の下心が現れたルート。

・35条1項は通則法の他の条項と同じく準拠法選択のみを定めているのに対して、5条と35条2項は準拠法選択と裁判管轄をセットで定めている特殊な規定です(そのことを左端の見出しに記載しています)。
 そのため、35条は1項と2項とで分離させる必要があります。

・両条を通じて、選択肢は、
  国籍
  住所・居所
  国外法での開始原因あり・日本での後見人なし
の3つです。日本国籍があるかということと、日本で開始審判受けたかということは、両条通じてまとめられます。

・1号は右の国外ルート専用のもの、2号は真ん中のルート専用のものであって、他のルートとは混線しません。

 第1案は条文どおりの順番で並べましたが、次の第2案では、35条の1項と2項を入れ替えて審判ものを並べてみました。
 前回記載のとおり、事例解決という観点からすれば《条項順列思考》に縛られる必要はありません。

5条35条2.png


 さらに第3案では、通常の準拠法選択ルールである35条1項を一番前にもってきました。真ん中ルートのうろちょろ感がなくなって、すっきりしましたね。

5条35条3.png


 次の第4案では、思い切って35条1項をチャートから追い出してみました。

5条35条4.png

 5条と35条2項は審判に関する特殊ルール、35条1項は審判にかぎらない後見等の通常ルール、という観点からの区別です。

 審判チャートがシンプルになったことで、連動感がより分かりやすくなりました。

 他方で、35条1項は単純な準拠法選択ルールなので、もはやチャート化する必要はありません。審判チャートに組み込むために無理やりチャートの形にしていただけです。
 おかげさまで、日本法・外国法ではなく、条文通りの「本国法」という表現に戻すことができました。
 そして、審判ルールとの「連動しない感」も表現できています。

 個人的には、最後の形が両条のチャートのベストな気がします。
 とはいえ、本書のように間違った連動のさせ方をしないかぎり、自分にとってどれが一番しっくりくるかという観点から選べばいいことです。


 そもそもなんですが、本文の35条の説明(170頁)、条文とは異なる表現をしていてどうにも理解しにくい。

 本書に条文が生のまま掲載されていないことともあいまって、この本文とチャートだけ読んでいると、おそらく条文通りの正確な理解が得られない。

 私としては条文記載の要件をそのままに、チャート上で再編成しただけのつもりですが、本文の表現をみるかぎり、どうもこれとは違う理解が展開されているように読めます。

 「フローチャート学習法」においては、条文の構造を正確に理解した上で、それをそのまま過不足なくフローチャート上に表現する、という手順をきちんと守ることがいかに大事かが、よく理解できます。

【スピンオフ第2弾】
双方的要件は準拠実質法を駆逐する。 〜婚姻成立の準拠法
posted by ウロ at 09:35| Comment(0) | 国際私法
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