「生活に通常必要な資産」周りの解説について、とある書籍の記述で盛大に間違っているのではないか、というものを見つけました。
が、私が何か思い違いをしているだけの可能性もあります。
ので、まずは基礎的なところから確認していってみようと思います。
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法人税法は、法人が「経済的活動」にフルコミットするという前提で規律をしています。
他方で、個人は様々な活動を行っており、「所得」という切り口だけでは適切に課税範囲をコントロールできないことがあります。そこで、所得税法では、所得以外の道具概念を導入して、課税範囲を適切にコントロールしようとしています。
今回扱う「生活に通常必要な資産/生活に通常必要でない資産」もそのうちの一つです。
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まずは条文から(法は所得税法、令は同法施行令)。
法 第九条(非課税所得)
1 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
九 自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得
2 次に掲げる金額は、この法律の規定の適用については、ないものとみなす。
一 前項第九号に規定する資産の譲渡による収入金額がその資産の第三十三条第三項に規定する取得費及びその譲渡に要した費用の額の合計額(以下この項において「取得費等の金額」という。)に満たない場合におけるその不足額
令 第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)
法第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る。)以外のものとする。
一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二 書画、こつとう及び美術工芸品
法 第六十二条(生活に通常必要でない資産の災害による損失)
1 居住者が、災害又は盗難若しくは横領により、生活に通常必要でない資産として政令で定めるものについて受けた損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)は、政令で定めるところにより、その者のその損失を受けた日の属する年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす。
2 前項に規定する損失の金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める。
令 第百七十八条(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等)
1 法第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる資産とする。
一 競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産
二 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産(前号又は次号に掲げる動産を除く。)
三 生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの
法 第六十九条(損益通算)
1 総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。
2 前項の場合において、同項に規定する損失の金額のうちに第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産に係る所得の金額(以下この項において「生活に通常必要でない資産に係る所得の金額」という。)の計算上生じた損失の金額があるときは、当該損失の金額のうち政令で定めるものは政令で定めるところにより他の生活に通常必要でない資産に係る所得の金額から控除するものとし、当該政令で定めるもの以外のもの及び当該控除をしてもなお控除しきれないものは生じなかつたものとみなす。
・令25条の各号の物品は「高級品」と総称します。
「贅沢品」とでもしようかと思いましたが、変なバイアスが働きそうなのでやめておきます(が、所得税法自身、各所で《贅沢は敵》バイアスに基づいた規律をしているようにも感じますが)。
・一応省略せずにのせておきましたが、令178条1項の1号・2号は考慮外とし、同3号の「生活の用に供する動産」のみを扱います。
・「資産」と「動産」は互換的に用います。
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「要件・効果」でいうところの「効果」を整理すると下図のとおり。
※見出しが「生活用資産」な理由は後述します。
橙は納税者有利、青は納税者不利。無色のところは、通算できないよりは有利だけど、内部・内々部でしか通算できないという点は不利なので、色付けしていません。
ア 生活用資産
・利益がでても損失がでても無視する。
・が、災害損失のみは考慮する。
イ 生活に通常必要でない資産
・利益がでたら課税。
・通常の損失は通常必要でない資産同士でのみ通算。
(「内々部通算」というのは、そういう意味での造語です。)
・災害損失の場合は、その他の譲渡所得とも内部通算できる。
ざっくりいえば、担税力の有無とか少額不遡及とか日常生活に関与しないとか、そういう考慮が働いているのでしょう。
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では、所得税法はこの2つの概念をどのように切り分けているでしょうか。
条文を整理すると下図のとおりとなります。
・まずは、生活に通常必要かそうでないかを判断する。
・通常必要でない場合はイ(A)。
・通常必要な場合は、30万円超の高級品であればイ(B)、それ以外はア(C、D)。
ここで気づくことは、Bへの違和感。
一旦、通常必要だと判断しておきながら、最終的には通常必要でない資産になると。
現実的には、30万円超の高級品ならば通常必要と判断されることはないのかもしれません。
が、令25条の書き方は、あくまでも「生活に通常必要な動産のうち」となっています。
ので、30万円超の高級品もその中に含まれていると読まざるをえません。
上記図で、見出しを「生活に通常必要な資産」ではなく「生活用資産」としたのは、この『必要だが必要でない資産』(B)が含まれていることを含意してのことです。
「生活に通常必要な資産」(令25条柱書)
B 生活に通常必要な30万円超の高級品(=生活に通常必要でない資産)
C 生活に通常必要な30万円以下の高級品
D 生活に通常必要な日常品
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どうせ最終的に排除されるなら、ということで、条文構造を無視して30万円超の高級品を前出しするとどうなるか。
やけにシンプルにまとまりました。
・30万円超の高級品ならイ(B)。
・それ以外は通常必要ならア(C,D)、通常必要でないならイ(A)。
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制度の全体像が整理できたところで、次回は本制度が問題となった裁判例(サラリーマンマイカー訴訟)を検討します。
サラリーマンマイカー訴訟 〜生活に通常必要でも必要でなくもない資産
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
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