2021年07月26日

宍戸常寿・石川博康編「法学入門」(有斐閣2021)

 『法学入門』なるタイトルの書籍、きちんと対象読者を限定すべきだよなあ、とつくづく思う。

宍戸常寿・石川博康編「法学入門」(有斐閣2021)


 たとえば、森田果先生の入門書は、法の「機能」面を記述することを徹底していて、前提知識のない高校生でも読めるような内容になっています。

森田果「法学を学ぶのはなぜ?」(有斐閣2020)

 今回紹介の本書はというと。
 全体として、情報陳列系・単語列挙型といった趣きで、「自分で考える」要素が弱め。少ないページでできるだけ多くの知識を盛り込もうとしているせいで、個々の記述の膨らみが薄い。

【自分で考える系】
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)

 「法解釈論」を展開しているのも、解釈手法をご紹介するための例としてあげられている「公園で野球をすることを禁じる。」のところくらい。現行の実定法に即した解釈論というものがほぼ見受けられない。

 確かに「法解釈」については、下記のような優れた《入門書》があるので、そちらで勉強したほうが望ましいと思います。

山下純司ほか「法解釈入門 第2版」(有斐閣2020)


 本書の構成は次のとおり。

  第1章 法とは何か
  第2章 法の基本──憲法・民法・刑法・手続法
  第3章 法と社会──領域からみる
  第4章 法とは何か,再び

 第1章は全体の導入だからまあいいとして、第2章がきつい。

 次々と法律用語がでてくるのですが、中には用語の定義・内容が書かれていないものがあったり。
 こういう所作、入門書では禁忌だと私は思うのですが。ガチの初学者にとっては、かなりのストレスではないかと。

 「手続法」の記述なんて、手続図や書式例もなしに延々と専門用語が書き連ねられていて、初学者が理解するには無理がある。これをもって具体的なイメージがつかめるとか、どうして思えるのでしょうか。

 「民法」の記述も、第3章の記述と被らないようにするためでしょうか、「契約法+α」といった内容となっていて、民法全体の概観というには断片的。

 かといって、学習が進んだ段階の人が読んで益する内容か、といえばそうでもなく。個別法ごとの入門書・基本書を超えるような、何か違った視点を得られる記述が書かれているわけでもありません。
 扱う事項を減らさないままページ数だけを圧縮しようとすると、そうならざるをえないのでしょう。『法学入門』の悪い癖。


 本書でおすすめできる箇所をあげるとしたら、第3章。

 ライフサイクル、人々の暮らし、組織、市場、公益実現、情報、グローバル社会といった切り口から、横断的に各種法領域を整理されています。たとえば、地方自治体(憲法・行政法)や株式会社(会社法)などを「組織」という観点から並べて記述するとか。
 第3章に関しては、初学者以外の人が読んでも資するものがあると思います。

 が、なぜこのような切り口を選択したのか、とか、ほかにどのような切り口があるのか、といったことが説明されていません(分担執筆あるある)。なので、ただただ受動的に、整理済みのものを受け取るだけになりがち。
 この切り口の結果だけをみて、自分で新たな切り口を考え出せるのだとしたら、その人はもはやこの本の対象読者からは大きくハズレているでしょうし。


 第4章は「史」の話。

 本書のような入門書の中で「史」をどこに配置するか、といえば最後の最後とすべきことには同意です。
 下記入門書で「史」が第2章に配置されていたのは、違和感がありましたし。
 
南野森「ブリッジブック法学入門(第2版)」(信山社2013)

 が、そもそも入門書で「史」にふれるか、ということ自体を問題とすべきです。
 仮に、本書第3章までをしっかり読みこんだとして、第4章の内容を理解できるかといえば、たぶん無理。
 
 第4章の記述それ自体は、単純な図式化に警戒的だったりして、とても配慮がなされた内容になっていると思います。が、それが「初学者」に向かっているか、といわれればそうは思えない。
 現時の個別法に関する知識が不十分な段階で、それを経時的に広げようというのは無茶でしょうよ。

 入門段階で「史」を学習するのならば、論点を大幅に絞り込んで、過去と現在がどうつながっているかを深く論じたほうが、初学者の興味を唆ると思う。

 大学のカリキュラム的に、とにかく法学入門に「史」(を浅く広くしたもの)を混入させなければならない、拠ん所ない事情でもあるのでしょうか。


 ということで、あえてこの本を、法学の学習プロセスの中に組み込みたいということであれば、次のような手順をおすすめしておきます。

1 まず第1章(20頁程度)だけを読む。
(本書から離れる)
2 各個別法ごとの入門書を読む。
3 各個別法ごとの基本書を読む。
(本書に戻る)
4 第3章を読んで、3の知識に「横串」を通す。
(本書から離れる)
5 各個別法の学習に戻って、「横串」を通せるところがないか自分で探してみる。
(本書に戻る)
6 ふと「史」が気になったら、第4章を読んで経時的に知識を広げてみる。

 初学者がいきなり通読するには、なかなかしんどい。
 なお、第2章については、どの学習段階においても読むべきタイミングが思いつきません。


 『法学入門』的な書籍、現状私が望む役割は次の3つ。

1 入門書(文字通りの)
 前提知識なしでも読み通せる。その後の学習のスターターの役割。
 個別法の入門書が自力で読めるようになれればいいのであって、情報陳列は不要。

 「スターター」ということでいうと、下記のような書籍も優れた入門書となりえます。



新堂幸司編「社会人のための法学入門」(有斐閣1993)
落合誠一編「論文から見る現代社会と法」 (有斐閣1995)
柏木昇編「日本の企業と法」 (有斐閣1996)

 これから大学院に入る他学部出身・社会人向けの講座を書籍化したもののようで、内容は高度め。ので、いきなり読んでもほとんど理解できないはずです。
 ですが、何やら法学って面白そう、を感じるには最適な素材ではないかと。

2 中門書(横串本)
 各個別法の学習を深める視点の提供。
 各個別法ごとの散らばった法知識を一定の視点から整理する役割。

3 出門書
 大家の集大成もの。
 味読すべきものであって、役割とかそういう俗っぽいものとは別次元。

団藤重光「法学の基礎」(有斐閣2007)

 「商品表示」という観点からすれば、本来は1のみが入門書の名に値するのでしょう。が、少なくとも単なる制度の概説ものが入門書と名乗らないかぎりは、あえて異論を唱えるつもりはありません。
 ただ、123のいずれであるのかは、事前に明記しておいてほしいです。むやみやたらと対象読者を広げることなく。
 もちろん、1冊の本の中で役割が分かれていることもあるでしょうが。
posted by ウロ at 10:33| Comment(0) | 法学入門書探訪
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