が、そうではないようでしたので、読んでみることにしました。
浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
記述すべき事項をかなり絞り込んだ上で、数値例を使って丁寧な説明がされています。ので、なんとなくで理解していた箇所も、よく理解できるようになるはずです。
が、初学者がいきなり本書を読んで理解できるようになっているかといえば、全体的に難しい箇所のほうが多いのではないかという印象。
本書の宣伝目的は次の通り。
「大学生に租税法を理解させるためには、を考え抜いた入門的な教科書。読みやすく、わかりやすく、興味を持って読める工夫が満載。」
この『入門的な教科書』という表現に、引っ掛かりを覚えます。
入門書かつ教科書では決してなく、あくまでも「入門的」な教科書なんだと自己規定しているわけです。
教科書として一定程度の記述範囲を確保するためでしょうか、初学者に対する配慮が不足している箇所がちらほら、というのが下記でも指摘するところです。
ベースは(講義での補足を前提とした)教科書であって、行きがかり上入門的な記述もしているところもある、というのが「入門的な教科書」の含意でしょうか。
私個人は、表面的な理解しかなかった箇所を深く理解できるようになったりとか、とても勉強になりました。
が、それは事前に一定程度の知識があったからであって、ガチの初学者が同じように理解できるか、というと厳しいものがあるように思います。
以下、あるべき租税法の入門書はどういうものになるか、といった観点からのツッコミをしてみます。
私自身もそれなりに勉強はしているわけで、今やガチの初学者と同じ視点で読むのは難しくなっています。
が、税理士業務においても、税の専門家でない相談者に税制を説明するにあたっては、ガチの初学者としての視点が重要になってきます。
そのような視点を獲得するための訓練、という趣旨で本書を利用させてもらうことにします。
なお、下記ツッコミに対して容易に予想できる反論は「紙幅が限られていたから」というものでしょう。が、私が論じたいことはあくまでも「初学者が理解できるような配慮がなされているか」という点です。
これに対して反論として成立するとしたら「初学者向けに書いていない」というものであって、紙幅は初学者への配慮を犠牲する理由にはならないはずです。
○
全体的に用語の説明が省略されがち。
たとえば「裁決」という言葉が出てきますが、これが何なのかが説明されていません。
用語の説明不足とも相まって「事項索引」が貧弱。
もしかして「裁決」の定義がどこか他の箇所にあるのかもしれない、と思って事項索引を確認してみたのですが、事項索引に載っていないわけです。
「辞書を引け!」ということかもしれませんが、「本書を通読すれば少なくとも本書に書かれていることは理解できる」状態に仕上がっていないことになります。
「法律学小辞典 第5版」(有斐閣2016)
○
「通達」が各所で引用されています。が、税務における通達の位置づけについての総論的な説明がありません。
「行政法は学習済み」という前提なのでしょうか。だとしても、行政法総論における通達理解をそのまま租税法に横流しするのではなく、ある程度の変容が必要だと思います。
他方で、通達を引用する際の「租税実務では、〜とされている(○○通達)」といった表現には、強い違和感を覚えます。「通達=租税実務」と評価しているように読めてしまうので。
「租税実務」における主な登場人物は次の通りです。
1 納税者・税理士
2 課税庁
3 国税不服審判所
4 裁判所
もし上記表現が「通達=租税実務」を意味しているのだとすると、2だけが租税実務を構成していると表現していることになります。
裁判所(4)は法令が支配する世界だということで除外するとして、1、3を租税実務から除外するのはなぜなのか。
確かに審判所(3)は、建前上は第三者的立場の体裁をとっているものの、ときおり課税庁寄りに判断することがあるので、2に吸収される側面がなくはない。
【課税の都合優先裁決】
加算税をめぐる国送法と国税通則法の交錯(平成29年9月1日裁決)
また裁判所(4)ですら、通達を文理解釈するとかいう例の高裁判決もあったとおり、2に引っ張られることがあります。
【通達の文理解釈(笑)】
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
このノリで、どうせ税理士(1)も通達通りに行動するんだろ、と見られているのだとしたら悲しい。
確かに、実態としては通達の影響力は強いものがあります。が、あくまでも通達は租税実務の中の一部にすぎない、という原理原則を踏まえた表現をすべきではないでしょうか。
ちなみに別ジャンルですが、荒木尚志先生の『労働法』では、通達のことを「行政解釈では」と表現されています。
あちらの世界でも通達が一大領域となっているわけですが、この表現なら非常にしっくりきます。
荒木尚志「労働法 第5版」(有斐閣2022)
○
本書では、いくつかの重要判決を引用する際に、単に最高裁の規範部分を抜き出すだけでなく、当該事案と下級審の判断もしっかり書かれています。
厚めの教科書の類でも、規範部分(の上澄み)だけしか引用されていないものもあるので、この点は本書の優れた点のひとつだと思います。
もちろん、次の学習段階では、本書に掲載されていないものも含めて、判例集を読むべきでしょう。
中里実ほか編「租税判例百選 第7版」(有斐閣2021)
ただ気になるのが、いくつかの判決を「事件判決」だと表現している部分があることです。
なのに、この用語が何を意味しているのかの説明がありません。
この点、田中豊先生の民事訴訟判例の解説書には「法理判例/場合判例/事例判例」という用語がでてきます。これでいう「事例判例」に対応するものなのかどうか。
田中豊「民事訴訟判例 読み方の基本」(日本評論社2017)
まあ、本書が安易に「判例」という用語を使っていないのは、好感がもてるところではあります。
【判決と判例】
フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法
○
「図表」のたぐいがほとんどでてきません。
所得税の基本構造(23頁)なんてどう考えても図で説明したほうがいいと思うのですが、ひたすら平文によって説明しています。
配偶者控除・配偶者特別控除(32頁)もひたすら平文での説明。ですが、下記のような表に、補足説明をプラスする形のほうが理解しやすいはずです。
No.1191 配偶者控除
No.1195 配偶者特別控除
他方で、数少ない厳選された図表の中に、よりによって「株主相互金融の仕組み」がねじ込まれているのが謎(130頁)。
「もはや歴史的存在といえ、読者にとって深入りは無用かもしれない」と評価しているにもかかわらず、です。他の重要事項を差し置いて、わざわざ図まで使って株主相互金融の仕組みを理解させようとするの、脳のリソースへのテロ行為(脳テロ)ですか。
確かに、法学においてやたらと図表に頼ることは、場合によっては正確な条文理解を妨げることになります。
下記記事では、タックスアンサーが図表+補足説明を使って、条文にない要件を勝手に付け加え、特例の範囲を制限しようとする所作を論じました。
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
タックスアンサー学習帳 〜やっててよかったTA式
また、税法ではありませんが、下記記事では、フローチャート化が条文の規律を正確に反映していないことを論じました。
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論
と、法学における図表の使用には、警戒しなければならないところがあります。
が、少なくとも「配偶者控除・配偶者特別控除」の消失・逓減を説明するにあたって、このような欺瞞が混入するおそれは極めて少ない。
率直にいって、条文そのものも別表形式で記述すれば足りるようなものです。
○ 17頁〜 第2章 所得税
他の教科書類と同様、所得概念、課税単位、収入金額・必要経費、年度帰属、人的帰属といった総論的な記述が先にきています。
が、初学者にとっては、個別の所得類型より前にこれら論点を説明されても、理解しにくいと思う。というか、実際そこで記述されていることは、総論風の記述でありながら、実のところ特定の所得類型が念頭に置かれていることが多いです。
いわゆる「総論各論問題」。刑法総論でも、あらゆる犯罪類型を視野にいれて論じているふうで、実際は特定の犯罪類型を念頭においた議論しかしていない、というのと同じ構造。
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)
井田良「講義刑法学・各論 第2版」(有斐閣2020)
少なくとも入門段階では、これら総論的な記述は個別の所得類型に溶け込ませて論じるのが望ましい、というのが私の持論。
【年度帰属は所得類型ごとに検討すべき、という問題意識からの記事】
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
さよなら「権利確定主義」(その2) 〜不動産所得
さよなら「権利確定主義」(その3) 〜譲渡所得
さよなら「権利確定主義」(その4) 〜違法所得
○ 18頁 所得概念
他の教科書類と同様、例によって「包括的所得概念」の説明からスタートしています。
佐藤英明「スタンダード所得税法 第3版」(弘文堂2022)
そして、その後のいくつかの論点では、同概念からの帰結を記述したりしています。が、同概念どおりのストレートな結論が採用されることはなく、それぞれの場面ごとになにかしらの修正が加えられています。
なのだとしたら、同概念では現行所得税法をあるがままに記述することができない、ということではないのでしょうか。
あくまでも同概念は原則であり、場面ごとの例外があるにすぎない、ということかもしれません。が、ことごとく例外があるのだとしたら、もはやそれは原則として機能していないということです。
また、もしも同概念からスタートすることで余計なバイアスがかかるのだとしたら、素直な条文理解の妨げともなりかねません。
現行所得税法は、各所得類型ごとに異なった扱いをしているわけで、年度帰属や人的帰属についても、各所得類型ごとに異なる解釈を採用する余地があります。にもかかわらず、「所得概念は統一的に理解すべき」というバイアスが先行してしまうことで、特段の理由もなしに、そのような解釈にマイナスの評価をしてしまうことになりかねません。
○ 33頁 収入金額
「圧縮記帳」
法人税法とは違って、所得税法では圧縮記帳とは表現しません。この点も、所得税は所得類型ごとの違いがあるということを念頭においておけば、なぜ圧縮記帳といわないのかが理解できるところだと思います。
もちろん、知っている人にとっては「法人税法でいうところの圧縮記帳と同様の処理という趣旨ね」ということは理解できます。が、初学者はまずは正確な理解をすべきであって、言葉遣いも正確を期するべきです。
○ 48頁 減価償却
「租税特別措置法において、初年度全額償却や加速償却が認められることがある。」
現行法で、加速償却はありますかね?
○ 48頁 繰延資産
「支出の効果がその支出日以降1年以上に及ぶものは繰延資産と呼ばれ、資産計上し、数年にわたり償却費として費用化することが認められている。」
語尾が「認められる」となっていますが、強制と任意の違いは意識的に区別すべきでしょう。
・繰延資産に該当 ⇒資産計上しなければならない(強制)
・任意償却できる ⇒いつでも償却してよい(任意)
・任意償却できない ⇒償却期間で償却しなければならない(強制)
この点も、初学者への配慮の問題です。
○ 48頁 課税繰延
「納税者は、来年以降に課税を延期させること、すなわち課税繰延ができ有利となるからだ。」
個人の場合は「累進課税」や「損益通算」のこともあるので、ただ単に遅らせればいいというものではないです。
特に累進課税は時間的価値を上書きするほどの猛威となりうる、ということも理解しておくべきことでしょう。
○ 88頁 所得控除
(配偶者控除・配偶者特別控除は)「2017年改正で拡充された」
納税者本人の所得額による消失・逓減も入ったので、拡充だけではない。
○ 103頁 益金
(親会社から無利息融資を受けた完全子会社Sの処理について)「利息相当額は、Sの益金には加算されることはない。その理由は、仮に益金に加算したとしても、支出すべき費用分が損金として生じ、互いに相殺するからである。」
初学者からすれば、無利息融資なのになんで「支出すべき費用分」があるんだよ、と疑問に思いますよね。この点、仕訳から入った人のほうがすんなり理解できるかもしれません。
ここでいう「支出すべき」というのは、法的に利息支払債務があるという意味ではありません。
「経済合理性を追求するはずの法人が無利息で金銭の貸し借りをするわけがない」という決めつけが先行してあって、
支払利息/?
それを払わなくてよくなったんだから免除益が発生する、という建付けになります。
支払利息/免除益
つまり「支出すべき」というのは、法人なら当然利息を支払うべき、という税の世界の決めつけを表しているわけですが、初学者にそこまでの含意は読み取れませんよね。
また、法律書なのだから「相殺」という用語の不正確な利用は避けるべき。しかも「互いに相殺」って《馬から落馬》みを感じる。あるいは、たとえば甲乙間に債権債務が4本あって、甲が債権Aと債務B、乙が債権Cと債務Dを互いに相殺し合う、ということでしょうか。
○ 117頁 損失
「金銭債権が全額回収不能かの判断について、法人税法に定めはないが、租税実務は、次の3つの場合を挙げている。」「法律上の貸倒れとして、更生認可決定などの法的手段による債権の全部または一部の放棄があった場合(法人税法基本通達9-6-1)」
「全額」といっておきながら「一部」でも認められるんですか、という疑問が当然生じますよね。
ここは、法的な切り捨てなら一部でもいいことになっている、という補足が必要です。
○ 120頁 税率
「法人税の通常の税率は」「23.2%へと段階的に引き下げられた」
結構低いんですね、と思うかもしれませんが、これはあくまでも法人税の税率のみ。
本書は「地方税」の記述がごっそり省略されてしまっているので、こういう記述にならざるをえません。
○ 123頁 配当
「配当が40の場合、残り40には法人税を課され」
所得100の例のままだとしたら残りは60。
○ 126頁 留保金課税
第1刷では、盛大な間違いをおかしています。
最初、知らない間にこんな大改正が入ったのかと思って一瞬焦ったのですが、単なる本書の間違いでした。
間違いの内容は、出版社のサイトに正誤表が載っているので、そちらをご覧いただくとよいかと。
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8378.html
以下長くなりそうなので、本記事とは切り離して次回以降論ずることにします。
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯
○ 136頁 グループ法人税制
「大法人と一体とみられる中小法人への課税強化に「軽減税率」や「特定同族会社」に係る制限があることは、既に触れた。」
上記のとおり126頁は修正が入ったものの、こちらの記述はそのまま。
どうしても「制限」で言葉を揃えたいなら、特定同族会社のほうは「不適用の制限」でしょう。
○ 137頁〜 組織再編税制
組織再編税制について、複数指摘すべき事項があるため、こちらも次回以降にまわします。
非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制
○ 156頁 リバースチャージ等
リバースチャージをとるべき理由としてあげられている事例、初学者には理解しにくいように思われます。この点も次回以降で論じてみます。
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
○ 164頁 債務控除
「従業員が将来退職する時に退職金3000万円を支払わなければならないことが予測できる場合」に、この会社の株式の評価額から見込み退職金を控除してよい、ということが書かれています。
これは本当ですか?
それとも、旧「退職給与引当金」の話ですか?
○ 164頁 基礎控除
「15条にいう養子の数は原則として2人までとなっている。」
『原則』とは?
被相続人に実子がいない状態がデフォルトで、実子ができると例外的に養子1人までとなるということですか。
相続税法 第十五条(遺産に係る基礎控除)
2 前項の相続人の数は、同項に規定する被相続人の民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人の数(当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める養子の数に限るものとし、相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする。)とする。
一 当該被相続人に実子がある場合又は当該被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合 一人
二 当該被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合 二人
法律書において、原則/例外や任意/強制などは厳密に使うべき用語だと、私は思います。
○ 166頁 法定相続分課税方式
法定相続分課税方式につき、偏った配分/均等配分いずれにも中立的だと評価されています。
これ自体はそのとおりですが、平等な配分をデフォルトだと考える立場の人からすれば、不当な制度だと言われるでしょう。
「中立的」という用語は何と何を比較するかによって評価がかわるもので、その言葉自体は決して中立的でない、ということに注意すべき。ですし、中立的であることが望ましいかはまた別問題です。
○ 167頁 延納
「10ヶ月以内に遺産分割協議を終え申告し納付まで済ませるのは難しいことも多く、相続税法38条は一定の要件の下で延納を認めている。」
延納はあくまでも納税の延長であって申告期限の延長ではありません。
・期限まで申告が難しい ⇒申告期限の延長
・期限まで納付が難しい ⇒延納
・金銭での納付が難しい ⇒物納
○ 168頁 相続財産の種類
「被相続人が農地を買う契約の途中で死亡し」
「契約の途中」とは?契約締結後引渡前ということでしょうか。
法律書で法律関係を叙述する場合、正確に表現すべきでしょう。
○ 168頁 相続財産の種類
「農地所有権移転請求権が財産評価基本通達による場合と同様に299万円と評価されるのかが争点である」
正確には「財産評価基本通達による農地の評価と同様に」とするか、文字数減らしたいならば「農地の評価と同様に」でしょう。
○ 171頁 贈与税 期間
「相続税法21条の2は原則として年度毎としており」
年度毎が『原則』ということは年度毎とならない例外があるはずですが、明記されていません。
「相続時精算課税制度」を想定しているのでしょうか。こちらも贈与税としては年度毎ですが。
○ 174頁 税額の計算
「毎年少額ずつ受贈することで贈与税負担を軽くしようと考える場合、贈与契約を締結しないように気をつけねばならない。」
巷の「毎年しっかり贈与契約書を作成しましょう」という提案と真っ向からぶつかる記述。
これは、初年度にまとめて将来分を契約しないようにしましょう、ということですかね。
○ 176頁 事業承継税制
「相続・贈与の後5年間は後継者が株式を保有し続け、さらに雇用の80%以上を維持すること等を条件として、相続税・贈与税の納税猶予及び免除を定めるものである。」
「猶予」まではそうなんですが、「免除」までいくにはもう一声必要です。
○ 176頁 事業承継税制
「事業承継より身内の事業承継を優遇する点で非中立的であるという問題もある。」
親族外承継も認められているわけですが、遺贈ルートであるかぎりどうせ身内みたいなもんだろ、という評価なんですかね。
そして、上述したとおり、非中立的それ自体が直ちに問題となるわけではありません。
○ 176頁 公正証書贈与事件
「〜という狭義の事実の認定の積み重ねがあって」「〜との広義の事実認定が導かれている。」
ここでいう狭義/広義とは何か?
「裁決」のような実定法上の決まった用語ですらないので、説明がないのは不親切の極み。
○ 182頁 資本所得に対する源泉徴収税
「国内法で源泉徴収税率は原則30%であるところ、」
30%はないよなあ。
○ 217頁 文理解釈
「争点は、「日数」が、計算期間(通常は15日)を意味するか出勤日数を意味するかである。」
「通常は15日」って。
それは当該事案のパブクラブが設定した計算日数であって、通常の計算期間ということではなかろうよ。
○ 220頁 租税回避の例
譲渡所得を回避するということで挙げられている事例、いまいちしっくりこないので、次回以降で論じてみます。
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
○ 224頁 相互売買事件
交換の場合の収入金額は「取得した資産の時価」だということは33頁に書いてあります。
てっきり書いてないと思って一応探してみたら、ちゃんと書いてありました。が、ちゃんと参照ページを示したほうがよいのでは。
○
以上、先に書いたように、これら指摘のほとんどは、あくまでもガチの初学者にとっての「あるべき入門書」であるためには、という観点からのものです。
私自身は本書から恩恵を受けられたように、一通り勉強が進んだ人とっての「中二階」的な位置づけであれば、優れた書籍であることは間違いありません。
上記指摘のいくつかが本ブログの過去記事の踏まえたものになっているというのは、それなりに勉強した箇所だから気づくことができた、ということのように思えます。今回触れていない他の箇所も、私が勉強不足なだけでまだまだ指摘すべき事項があるのかもしれません。
入門書・教科書の中には、一定程度勉強が進んだ人が読んでも資するものがあるものと、まったく無益なものとがあります。後者は主として、いわゆる《情報陳列系》《条文引き写し系》のものが該当します。
他方で、本書は前者に属するものだということができますし、むしろそういう使い方のほうがよさそうです。もう少し勉強が進んでから、また戻ってこようと思います。
売らんがな精神かどうか分かりませんが、宣伝目的に「入門的」という一言を挿入してしまったせいで、私の入門書ソムリエとしての嗅覚が稼働してしまい、ここまでの記事ができあがってしまいました。
やはり、入門書と教科書とは明確に役割を区分すべき、という確信がより強まりました。
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