2021年09月06日

非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制

 スピンオフ第2弾、今回は「組織再編税制」について(138頁〜)。

浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯


 「組織再編税制の立法趣旨」という項目で政府税調の『基本的考え方』の記述が引用されています。
 類書も大体そうなんですが、なぜかこの項目のときだけ税調のご意見を引用するのがお決まりのパターンになっているようです。

 が、立法趣旨と立案者意思とを安易に同一視すべきでない、ということは以前も論じたとおりです。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 とはいえ、同一視する高裁判決が実在しているわけで、もはや同一視しないほうが異端なんですかね。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 まだ最高裁が残されているものの、この手の趣旨解釈は残念ながら最高裁でも安易に受け入れられがち、というのが私の見立て。
 どの教科書・解説書も横並びで税調のご意見=立法趣旨と見做してしまっている状況において、「ここがヘンだよ私以外!」と叫んだところで、徒労なのかもしれない。


 「次に示す適格要件等を満たせばある組織再編成が適格と判断され、課税繰延が認められる。」(138頁)

 本書でも「適格外し」のことが書かれているとおり、適格組織再編成は「課税繰延」(利益先送り)となるだけでなく「損失先送り」としても機能します。
 そして、適格要件に該当する以上は問答無用で簿価移転としなければならないので、「認められる」というのは表現として不正確。

 ・適格 :簿価強制
 ・非適格:時価強制

 どちらかが原則でどちらかが例外、ということでもありません。
 もちろん実態としては、「利益先送り」狙いで使われることが多いのかもしれません。が、まずは色眼鏡を外した状態からスタートすべきでしょう。

 前回記事のように結論反転させないかぎり、原則/例外で説明したって別にいいんじゃね、と思うかもしれません。ですが、原則/例外と表現することに私が危惧しているのは、次のような『要件事実論』を展開する輩が現れかねないからです。
 すなわち、

【適格/非適格要件の立証責任の分配(民事横流し系)】
 ・時価移転(非適格)が原則で簿価移転(適格)は例外。
 ・ゆえに、時価移転を主張する側は合併の事実を立証するのみで足りる。
 ・例外である簿価移転を主張する側が「適格要件を満たすこと」を立証しなければならない。
 ・適格要件が真偽不明となった場合は非適格と認定される。
 ・このように分配することは、消極的事実(適格でない)ではなく積極的事実(適格である)を負担させるべきという要件事実論の基本コンセプトにもかなう。

 いかにも要件事実論のお作法に従った綺麗な分配のように見えます。
 が、民事要件事実論の発想をそのまま税法へ横流してもよいのかは極めて疑問です。

 上記分配で「課税庁」「納税者」の特定をしていないことからも分かるとおり、適格/非適格のどちらが納税者有利/不利になるかは、局面によって入れ替わります。
 仮に、納税者が簿価移転を望む場合、上記分配によれば納税者が適格要件を立証しなければならず、立証に失敗した場合には時価移転の不利益を受けなければならないことになります。

 このような負担を納税者に負わせてもよいものなのかどうか、特に「真偽不明」でも非適格扱いとされるのがよいのか。原則非適格とする考えからすれば何の問題もない、となりそうですが、私には疑問です。
 「非適格=法人税法、適格=措置法」とでもなっていれば、まだありえたかもしれませんが、どちらも法人税法本法に収まっていますし。

 租税法の大原則からすれば、課税処分の適法性は課税庁が主張立証しなければならないはずです。この大原則からするならば、適格が適法性を基礎付けるならば適格を、非適格が適法性を基礎付けるならば非適格を、それぞれ課税庁が主張立証する、とすべきでしょう。
 が、「課税要件事実論に詳しい」みたいな人たちは、いかにも上記の民事横流し系の分配論を展開しそうです。これは穿った見方でしょうか。

 例の奇妙な課税要件事実論が、誰からも批判されることなく放置されている現状からして、租税法学における要件事実論の受容というのが、未だ満足に行われていないのではないか、というのが、極めて個人的な私の見立てです。

伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)


 「完全支配関係とは、一の者の法人の発行済株式等の全てを直接または間接に保有する関係をいう」(139頁)

 条文上の定義を、親切心でわかりやすく簡略にしただけ、のつもりかもしれません。
 が、完全支配関係には、親子孫関係(縦)だけでなく兄弟姉妹(横)の関係もあることが、記述から抜け落ちてしまっています。

法人税法2条
 十二の七の六 完全支配関係 一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう。


 条文でいうところの後段が削られてしまっているということです。
 そして、横の関係の場合には適格要件として「株式継続保有要件」が要求されるわけですが、このことが抜け落ちてしまっています。

 例の「見込み」(⇒法的安定性?)のやつです。

中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)

 なんの考えもなしに条文引き写ししておけば間違えずに済んだのに、という前回と同じ類の間違い。


「ここで注意深い読者なら、株式継続保有要件を満たす必要のない場合、投資の継続と支配の継続の両方がなく、課税繰延を認める理由がないのではと冴るかもしれない。共同事業要件の存在は、合併前後における事業の継続性や関連性の存在から経済実体の不変更とみるか、または、「選択と集中」を支持する産業政策の要請によるとみるしかないであろう。」(140頁・共同事業要件)

 なぜ、「みるしかないであろう」などという、仕方ない感溢れる物言いをしているのでしょうか。これは、政府税調の『基本的考え方』を立法趣旨と同一視することからくるものでしょう。
 しかし、実際にできあがった制度の個別要件からスタートして解釈するのであれば、こういう評価にはならないはずです。現行法が実際に要求している要件が『基本的考え方』にそぐわないのであれば、それは『基本的考え方』のほうが現行法にそった内容になっていないと評価すべきでしょうよ。

  × 基本的考え方 → 現行法 (基本的考え方のとおり条文化されていないのは不当)

  ○ 基本的考え方 ← 現行法 (現行法で実現していない基本的考え方は通用しない)


 引用は省略しますが、欠損金引継ぎの具体例として、被合併法人T・合併法人Aとも支配関係成立前の欠損金は引き継げないが、成立後の欠損金は引き継げるという例があげられています(141頁)。

 が、支配関係成立前後で取り扱いが変わることが、その前の段落の制度説明の箇所に記述されていません。ので、なぜ支配関係成立前後で帰結が変わるのか、さっぱり理解できないでしょう。

 本書は、数値を含んだ事例での解説が豊富なので、理解しやすいところは非常に理解しやすいです。が、このように制度説明とあてはめの対応関係が欠落しているところがあったりします。

      類書  本書
 制度説明 多い  少ない
 具体例  少ない 多い

 なんですか、コモンロー的に事例(だけ)で理解しようぜ、ってことですか、租税法なのに。

 また、合併法人Aの欠損金も「引き継げる」と表現されていますが、AはAの欠損金を制限なしにそのまま使えるということであって、他社から引き継ぐものではありません。ここも、正確に言葉を使いわけましょう、という問題です。

 次回はスピンオフ第3弾、「リバースチャージ」についてです。

引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
posted by ウロ at 09:42| Comment(0) | 法人税法
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