浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯
非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制
今回は「リバースチャージ」について(156頁〜)。
国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について(国税庁)
○
越境役務提供につき、本書では消費者向けと事業者向けとで扱いが異なる理由がわかりやすく説明されています。
なんですが、リバースチャージをとるべき例として挙げられているもの、初学者には一読して理解しにくいかもしれません。これも制度説明とあてはめが一対一対応していない(あてはめ側が多い)、という問題です。
補足をしてみます(数字の前が本体、後が消費税です)。
1 国外仕入(リバースチャージ無し)
900 0 非課税売上
600 0 国外仕入
2 国内仕入
900 0 非課税売上
600 60 国内仕入
1と比べて2が消費税分不利になっていると。
そこで、輸入者に消費税を負担させることで、1と同じ状態に引きずり下ろすと。
3 国外仕入(リバースチャージ有り)
900 0 非課税売上
600 60 国外仕入(リバースチャージ)
ガチの初学者であれば、さしあたりこれだけで納得できそうです。単純に足し算引き算すれば同じ数字になるので。
が、複式簿記の知識がある人だと、リバースチャージ60をどうやって仕訳するのか悩むかもしれません。
【中級者の罠】
未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害
?/未払消費税 60
左側(借方)は何なんだと。
もしこれが「仮払消費税」だとすると、申告時に精算されてしまってリバースチャージを負担させた意味がないように思ってしまいます。
仮払消費税/未払消費税 60
4 国外仕入(リバースチャージ有り)
900 0 非課税売上
600 60 国外仕入(リバースチャージ)
△60 精算?
ではなく、2の60も3の60も、いずれも「控除対象外消費税」として費用(損金)扱いとなるので(非課税売上対応仕入)、足並みが揃うということでしょう(科目名は便宜的に)。
控除対象外消費税(費用)/未払消費税 60
ここで、本書には出てこない「控除対象外消費税」「非課税売上対応仕入」という用語がでてきたとおり、これら概念を知らなければ、この事例のあてはめをちゃんと理解することができません。
当該書籍に記載されていることが、当該書籍に記載されていることでは理解できないというのは、初学者にとってはかなりのストレス。自分の理解不足のせいなのか、それとも当該書籍が記述不足なだけなのか判断がつかないわけで。
真面目な人なら、自分の理解不足だと思って当該(記述不足な)箇所を何度も何度も読んでしまうことになるでしょう。
○
なお、現行法でリバースチャージしないといけないのは、「課税売上割合95%未満」の「課税事業者」に限られています。
ので、取引先がほとんど教育機関であるような「免税事業者」であれば、リバースチャージ無しの国外仕入への誘引があることになります。
また、「課税売上割合95%以上」の課税事業者で「個別対応方式」を採用している場合も、非課税売上対応仕入に関してはリバースチャージ無しの国外仕入が望ましいということになります。
○
ただし、これらはあくまでも現行の日本法を前提とした話です。
本書のつもりとしては、《理念》としてのリバースチャージを記述しているのであって、そんな細かい話をするつもりはない、ということかもしれません。
が、消費税のことを「もらった消費税と払った消費税の差額を納付する」という限度で理解している人にとっては、ここの記述は意味不明なはずです。何でもかんでも盛り込むのは無理だとしても、少なくとも本書の記述を理解するのに必要な項目は記述しておいてほしい。
勉強が進んでくると、記述不足な本であっても、オートモードが勝手に起動して記述を補って読んでしまいがちです。そうすると、論述が飛んでて初学者には理解できない、といった箇所に気づかなかったりします。
私自身も、入門書評をするにあたってはそれなりに気をつけているものの、ガチの初学者と同じ目線で、というのはさすがに無理かもしれません。
さて、次回は「租税回避」についての予定です。
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
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