大学の民法の講義だと、売買、賃貸借、請負といったメジャーな契約類型に時間を取られてしまい、「雇用」は労働法の講義で聞いてね、で済まされてしまう。
じゃあってことで、労働法の講義に出てみたものの、労働基準法・労働契約法の隙間からちょこちょこ顔を覗かせる程度で、正面から扱ってくれません。
また、「民法」を受験科目とする資格試験はいくつかあると思いますが、雇用なんて、せいぜい選択式問題の捨て問ポジションで出てくるくらいでしょうか。もしかしたら、花形の「危険負担」様の添え物(木の役)として登場したことがあるかもしれませんが。
潮見佳男先生の一冊本なんて、「第7章 雇用」などと独立の章立てがされているのに、1頁だけよ。
潮見佳男「民法(全) 第2版」(有斐閣2019)
一応フォローしておくと、体系書だとわざわざ[概説]などと予防線張っておきながら、結構な分量扱われています(40頁程度)。
潮見佳男「新契約各論II」(信山社2021)
と、とても可哀相なやつですが、今回正面から扱ってあげようと思います。
とはいえ、全面的に扱うのはしんどいので、解約ルールのみを検討します。
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ちなみに、「雇用」のところ、一丁前に2017年民法(債権関係)改正の対象となっていました。ですが、ド派手な改正があったわけでもないのでそれほど大騒ぎにはなっていないようです。
が、「経過措置」を見れば分かる通り、改正法が適用されるのは2020年4月1日以降に締結した契約からです。
そうすると、「無期雇用」の場合は、相当長期間にわたり旧法適用の雇用契約が残ることになります。施行日前に18歳で入社した人が65歳の定年まで勤めるとすると、向こう47年、旧法が適用され続けるということです。
この基準となるのは「契約締結日」です。「入社日」が2020年4月1日だとしても、契約締結日がそれより前の日だと旧法が適用されることになります。
社員情報を管理するのに入社日は記録しているはずですが、契約締結日までちゃんと記録しているでしょうか。労務管理ソフトで「契約締結日」欄があるもの、少なくとも私は見かけたことはないです。
ちなみに、賃金請求権等の消滅時効の期間延長に関する労働基準法の改正、こちらの経過措置は「支払期日」基準となっています。ので、早い段階で新法適用に切り替わることになります(「当分の間」規定があるにせよ)。そして、民法の「完成猶予・更新」ルールについては当該事由が生じたとき基準なので、こちらも早々に新法適用に切り替わります。
ので、本体が旧法適用の労働契約であっても、時効まわりのルールに関してはほぼ新法が適用されることになります。
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民法の典型契約の中で、これほど長く旧法が残る契約類型って、他にありますかね。
「賃貸借」は改正で上限アップしましたが旧法では20年ですし、借地借家法上の借家は上限なしですが現実的には超長期契約は考えられないでしょう。
あとは幻の「終身定期金」くらいですか(おなくなりになるまで)。
言わずもがな、終身定期金の規定自体は改正も削除もされず放置状態です。が、一応契約なので、総則・債権総則・契約総則などの規定は適用されるわけです。なので、紛いなりにも旧法・新法の区別は必要となります。
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ということで、雇用の規定の改正、「大きい」問題ではないが「長い」問題ではあるということです。
このような問題があるにも関わらず、それほどの騒ぎになっているようには見えません。改正内容が労働者有利だから、本当は旧法なのに間違って改正法を適用したとしても、会社がそこを呑めば済むだけ、ということでしょうか。
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今回は前振りで、次回以降で個々の条文を検討していきます(と思ったのですが、寄り道)。
零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置
零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール
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