2021年10月04日

零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置

 前回の前振りから続いて、民法の条文の検討に入ろうかと思ったんですが。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約

 一点気になる論点があるので、先に露払いしておきます。


 前回、「無期雇用」だと長期にわたって旧法が残るということを述べました。

 他方で、「有期雇用」なら施行日後の更新は新法適用となるから、早い段階で旧法適用の有期雇用契約は淘汰されるのかと思いきや。
 問題となるのが、労働契約法18条の「無期転換ルール」と同法19条の「雇止め制約ルール」。

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。


(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。


 施行日前締結の有期雇用契約につき、施行日後に18条による無期転換や19条による更新がなされた場合、旧法のままなのか新法に切り替わるのか。


 この点、俗に言う『公式本』では「当事者の期待」を根拠として、
  ・合意更新 新法適用
  ・法定更新 旧法のまま
という枠組みを採用しています。
  


筒井健夫,村松秀樹「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務2018)

 ここでいう「合意」には、明示のものだけでなく黙示のものも含まれると。
 で、法律に書いてある更新が全て法定更新になるのではなく、たとえば、民法629条1項は黙示の合意を推定したものだから、この規定による更新後の契約は新法によるんだと。

(雇用の更新の推定等)
第六百二十九条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。


 他方で、労働契約法19条の「雇止め制約ルール」による更新は、使用者の意思がないから法定更新になると書かれています。とすると、雇止め制約ルートで有期雇用契約が更新され続けた場合には、旧法が残り続けるということになります。
 労働者にとっても「無期より有期がよい」というパターンがありうるわけであって、こちらのルートも無いわけではないですよね。


 では、労働契約法18条の「無期転換ルール」の場合はどちらに該当するか。

 有期⇒無期と雇用期間が変わっていることからすると、別契約扱いだということで、新法適用となりそうです。が、無期転換は労働者の一方的な形成権の行使により生ずるものであって使用者の意思は介在しないこと、期間以外は従前と同一の契約条件が継続されることからすれば、旧法のままともいえそうです。

 公式本の枠組みからすれば、旧法のままとするのが理屈が通りそうです。
 が、あくまで一立案担当者の意見にすぎません。ですし、労働者保護に寄せて考えるならば、新法適用とすべきなのでしょう。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 裁判所がどう判断するかですが、私の予測では、雇止め制約ルートの場合も含めて新法適用というような気がします。従前であれば、公式見解鵜呑み系の判決に行きがちだったと思いますが、ここはウケ狙いで労働者保護に走るのではないかと。
 どういう理屈づけするのかは分かりませんが。

 少なくとも、「当事者の期待」というだけでは何の答えもでてこない。
 雇用(労働)契約における「当事者の期待」は、
  ・使用者の期待 なるべく旧法で
  ・労働者の期待 なるべく新法で
となるのがほとんどでしょう。両当事者の期待が一致する局面は少ない(もちろん、内容によりけりですが)。
 とすると、「どちらの期待を保護するか」という判断をしなければならず、そのための判断軸が別途必要となってきます。


 さて、露払いを済ませたので、次回こそ民法の条文検討に入ります。

零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール
posted by ウロ at 00:00| Comment(0) | 労働法
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: