零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置
○
民法のルールは次のとおり。
ア 原則 ⇒期間満了までは解約できない。
イ 雇用期間5年超 ⇒5年経過後・いつでも・予告期間3ヶ月(使用者)
・予告期間2週間(労働者)
ウ 終期不確定 ⇒5年経過後・いつでも・予告期間3ヶ月(使用者)
・予告期間2週間(労働者)
エ やむを得ない事由あり ⇒直ちに・損害賠償
オ 黙示の更新後 ⇒627条
カ 使用者が破産手続開始 ⇒627条(労働者・破産管財人)
ア
例によって明示はされていませんが、有期で契約した以上、期間中は解約できないのが大原則となります。
イ・ウ
改正前は労働者も予告期間3ヶ月となっていましたが、改正により労働者は2週間に短縮されました。
改正前の雇用の規定は、使用者/労働者という属性を考慮しない規律となっていました。これが改正により、人の属性によってルールを変えるという規律が導入されることになりました。
これは、民法典全体に関わる発想の大きな転換ではないかと思います。
オ
黙示の更新後の雇用期間が無期となるのか有期となるのかについては争いがあるようですが、さしあたり無期で想定しておきます。なお、627条の規定については次回「無期雇用」のところで検討します。
なお、上記に含めませんでしたが「債務不履行解除」も理論上はありえます。が、雇用契約における解除相当の「債務不履行」とはどういう事由になるでしょうか。また、解除における催告と解雇予告とはどのような関係にあるでしょうか。
この手の論点は、総論と各論にまたがっているせいで、煮詰まった議論が展開されていないというのがお馴染みのところです。総論のくせに特定の類型を念頭に置いた議論しか展開されていない、という例のヤツ。
ということで、本記事では検討の対象から外します。
○
これが労働基準法・労働契約法によりどのように修正が加えられているか。
イ・ウ 労働基準法14条(契約期間等)
「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」以外は、上限3年(または5年)とされています。それゆえ、雇用期間5年超となるのは、「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」または労働基準法の適用除外(116条)となる場合に限られることになります。
わざわざ改正で労働者側の予告期間を2週間に短縮したものの、その射程はかなり限られたものだということです。改正検討時に保護すべきとして想定されていた労働者像と一致しているのか、やや疑問です。
前回、有期雇用でもしばらく旧法が残る可能性がある、ということを述べましたが、解約に関して影響があるのはこの場面に限られます(もちろん、解約以外の規定も旧法適用となりますが)。
ア・エ 労働基準法附則第137条
労働者は、1年超の契約でも1年経過後は理由なしでいつでも解約できます。
予告期間の定めが見当たらないのですが、予告期間なしで解約できるってことなんですかね。
労基法・労契法のルールは、基本的には「使用者」の解雇を制約するルールなのに対して、ここと下記の労基法15条は「労働者」の辞職を緩和するルールとなります。
エ 労働契約法17条(契約期間中の解雇等)
使用者からの解雇につき「やむを得ない事由」が強行規定化されています。この反対解釈として、労働者からの辞職については、就業規則などで「やむを得ない事由」を外すことは許されるということです。
全 労働基準法19条〜21条(解雇制限)(解雇の予告)
使用者からの解雇につき「解雇時期・事由」や「予告期間」に制限が加えられています。
有期雇用には適用されないという見解もあるようですが、適用説が通説でしょうか。
問題は、予告期間が民法3ヶ月・労働基準法30日となる場合に、労働者有利の民法が適用されるのか、それとも労働基準法が適用されるのかです。この点は、どちらかといえば労働基準法適用説が優勢でしょうか。
全 労働基準法89条3号(作成及び届出の義務)
就業規則記載の解雇事由を「限定列挙」と解するならば、この規律も解雇事由の制約として働くことになります。
全 労働契約法16条(解雇)
解雇権濫用法理は有期雇用もカバーしています。
もちろん、解雇する場面に応じて考慮要素は変わってくるでしょう。また、エのやむを得ない事由とは考慮要素がかなり重複しそうです。
オ 労働基準法15条(労働条件の明示)
「明示された労働条件が事実と違う」場合に労働者が即時に解約できる、というのはオの上書きと位置づけることができるでしょうか。
オ 労働契約法18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
オ 労働契約法19条(有期労働契約の更新等)
オの黙示の更新は、当事者が積極的なアクションを起こさずそのまま雇用継続している場合のルールです。他方で、「雇止め」「無期転換」は、労働者側から積極的なアクションがあった場合のルールです。
機能する場面が別れていますので、オ自体は上書きされていないことになります。ただ、更新後の627条のほうが上書きの対象となっています。
○
以上、一通り列挙してみました。
全体的な方向性としては、
・改正前民法が属性を考慮しない規律だったのが、改正民法により労働者寄りの規律が一部導入された
・労働基準法、労働契約法では、民法の規律からさらに、労働者に優しい・使用者に厳しい方向の規律が設けられている
・ただし、完全な上書きではないので、ちらほら民法が直接適用される場面が残っている
ということがいえるでしょうか。
私自身は一通り整理してみてはじめて全体像が見えてきたのですが、皆さんはこれをちゃんと理解して運用されていたということでしょうか。
さて、次回は「無期雇用」のルールを検討します。
零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール
○民法
(期間の定めのある雇用の解除)
第六百二十六条 雇用の期間が五年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。
2 前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは三箇月前、労働者であるときは二週間前に、その予告をしなければならない。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
(雇用の更新の推定等)
第六百二十九条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
2 従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。
(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)
第六百三十一条 使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には、雇用に期間の定めがあるときであっても、労働者又は破産管財人は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。この場合において、各当事者は、相手方に対し、解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。
○労働基準法
(契約期間等)
第十四条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
A 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
B 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
A 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
A 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
B 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(適用除外)
第百十六条
A この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
附 則
第百三十七条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
附 則 (平成一五年七月四日法律第一〇四号)
(検討)
第三条 政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、この法律による改正後の労働基準法第十四条の規定について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
○労働契約法
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
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