2021年12月20日

機能的年末調整論(その2) 〜年末調整と死別(配偶者)

 年末調整、人様のプライベートずかずか覗き込み業務なわけで、悲喜こもごも様々な出来事に出くわすことがあります。
 ではありますが、仕事は仕事でしっかり仕上げなければなりません。

 今回のようなことを検討しておくのは、そういった場合でも冷静に対応するための「備えもん」という位置づけです。

 では、配偶者と「死別」した場合、前年と当年の処理がどのように変わってくるか。前回同様、各控除はそれぞれ独立したものとし、年末調整でやるもののみを検討対象とします。


 基本的には、法85条により「死亡日の現況」で判断となるため、年の中途で死別したら当年は「配偶者あり」扱いとなります。が、控除の性質に応じて若干の違いがでてきます。

1 給与所得控除

 前年 適用あり
 当年 本人の給与収入のみで判定なので影響なし

 離婚の場合と同じです。

2 所得金額調整控除

 前年 配偶者(特別障害者)として適用していた
 当年 当年は適用できる

 死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。

3 基礎控除

 前年 適用していた
 当年 本人の所得のみで判定なので影響なし

 離婚の場合と同じです。

4 社会保険料控除

 前年 配偶者負担分につき適用を受けていた
 当年 死別まで支払分は適用あり(?)

 「?」とあるのは、前回述べたとおり通達がないからです。
 もし「支払時の現況」で判断してよいのであれば、離婚と同様、死別まで支払分は適用を受けられることになるはずです。

 なお、通達124・125−4によれば、本人死亡の「準確定申告」の場面では、本人死亡日まで支払分を含めることになっています。

5 小規模企業共済等掛金控除

 前年 適用を受けていた
 当年 本人負担分のみなので影響なし

 離婚の場合と同じです。

6 生命保険料控除

 前年 受取人配偶者で適用を受けていた
 当年 死別まで支払分は適用あり(通76-1)

 「支払時の現況」で判断となるため、死別まで支払分は適用を受けることができます。

 離婚と異なるのは、死別によって直ちに受取人が他人扱いになるわけではないという点です。
 保険契約にもよるでしょうが、通例、受取人が死亡した場合はその「法定相続人」が受取人となる扱いかと思います。
 一般・介護については子やその他親族が受取人でも適用を受けられるわけで、もし受取人変更しないまま保険料の支払を継続していた場合に、引き続き適用を受けられるのかどうか。
 配偶者の法定相続人に相当する人が本人の親族の範囲内に納まっていれば、適用ありでもよいように思えます。が、このような疑義があるわけで、速やかに受取人変更をしておくのが無難でしょう。

7 地震保険料控除

 前年 配偶者所有住居につき適用を受けていた
 当年 死別まで支払分は適用あり(?)

 「?」とあるのは、上記同様。
 もし、住宅を「相続」すれば、引き続き適用を受けられることになります。

8 配偶者控除・配偶者特別控除

 前年 適用を受けていた
 当年 当年は適用できる

 死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
 
9 扶養控除

 前年 子を控除対象として適用していた
 当年 影響なし

 死別の場合、扶養関係が変わることは通常ないでしょう。
 離婚のような、扶養親族の奪い合いは生じないということです。

10 障害者控除

 前年 配偶者を障害者として適用を受けていた
 当年 当年は適用できる

 死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
 

11 寡婦控除(女性・合計所得金額500万円以下)

 前年 適用なし
 当年 扶養親族がいなくても適用できる

 死別すれば「寡婦」となります。
 離婚と違って、扶養親族がいなくても適用を受けられます。
 ひとり親控除が受けられる場合はそちらが優先です。

12 ひとり親控除(合計所得金額500万円以下)

 前年 適用なし
 当年 扶養親族(子)がいれば適用できる

 離婚すれば「ひとり親」になります。

13 勤労学生控除

 前年 適用を受けていた
 当年 本人が勤労学生の場合だけなので影響なし

14 住宅ローン控除

 前年 適用を受けていた
 当年 影響なし

 ただし、「単身赴任」で配偶者のみ居住で適用を受けていた場合、この状態で配偶者と死別をすると当年から適用できなくなりそうです。
 この「単身赴任」の例外は通達レベルでの緩和ですが、同通達では、配偶者死亡の場合については何も触れられていません。死を予知したら速攻、戻ってこなければならないでしょうか。


 以上、各控除間には、法的な連動だけではなく、事実上の連動というものもありました。こういった記述、世の「税務本」ではほぼほぼ望み得ない。

 もちろん、実務家として大量処理をするなかで、そんなところまで気を遣ってられるか、ということもあるかとは思います。
 が、『当事務所はそこらの敷居の高い士業事務所などとは異なり、顧客に《寄り添った》サービスを提供します』とか謳いたいのならば、そういったきめ細やかな気遣いもしてあげたらいいんじゃないですかね。

○所得税法

(扶養親族等の判定の時期等)
第八十五条 第七十九条第一項(障害者控除)又は第八十条から第八十二条まで(寡婦控除等)の場合において、居住者が特別障害者若しくはその他の障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日(その者がその年の中途において死亡し、又は出国をする場合には、その死亡又は出国の時。以下この条において同じ。)の現況による。ただし、その居住者の子がその当時既に死亡している場合におけるその子がその居住者の第二条第一項第三十一号イ(定義)に規定する政令で定める子に該当するかどうかの判定は、当該死亡の時の現況による。
2 第七十九条第二項又は第三項の場合において、居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が同項の規定に該当する特別障害者(第百八十七条(障害者控除等の適用を受ける者に係る徴収税額)、第百九十条第二号ハ(年末調整)、第百九十四条第一項第三号(給与所得者の扶養控除等申告書)、第二百三条の三第一号ト(徴収税額)及び第二百三条の六第一項第五号(公的年金等の受給者の扶養親族等申告書)において「同居特別障害者」という。)若しくはその他の特別障害者又は特別障害者以外の障害者に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。
ただし、その同一生計配偶者又は扶養親族がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
3 第七十九条から前条までの場合において、その者が居住者の老人控除対象配偶者若しくはその他の控除対象配偶者若しくはその他の同一生計配偶者若しくは第八十三条の二第一項(配偶者特別控除)に規定する生計を一にする配偶者又は特定扶養親族、老人扶養親族若しくはその他の控除対象扶養親族若しくはその他の扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。ただし、その判定に係る者がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
4 一の居住者の配偶者がその居住者の同一生計配偶者に該当し、かつ、他の居住者の扶養親族にも該当する場合には、その配偶者は、政令で定めるところにより、これらのうちいずれか一にのみ該当するものとみなす。
5 二以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、政令で定めるところにより、これらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなす。
6 年の中途において居住者の配偶者が死亡し、その年中にその居住者が再婚した場合におけるその死亡し、又は再婚した配偶者に係る同一生計配偶者及び第八十三条の二第一項に規定する生計を一にする配偶者並びに扶養親族の範囲の特例については、政令で定める。

○所得税基本通達

(控除の対象となる生命保険料等)
76−1 法第76条第1項に規定する「新生命保険料」(76−6において「新生命保険料」という。)、同項に規定する「旧生命保険料」(76−2において「旧生命保険料」という。)、同条第2項に規定する「介護医療保険料」、同条第3項に規定する「新個人年金保険料」(76−8において「新個人年金保険料」という。)又は同項に規定する「旧個人年金保険料」(76−8において「旧個人年金保険料」という。)に該当するかどうかは、保険料又は掛金を支払った時の現況により判定する。
posted by ウロ at 09:38| Comment(0) | 年末調整
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