金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021)
私の手元にある一番古い版が1981年出版の「補正版」。1976年出版の「初版」の次の版。
5年経っても補正版どまりとは、牧歌的な時代ですね。
もちろん、現役で購入したわけでなく。
昔の租税法教科書がどんなものだったのか知りたくて、あえて購入したものです。
人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開
○
ということで、新旧ボリューム比較をしてみます。
ただし、縦書き(補正版)・横書き(第24版)となっていて頁数では単純比較がしにくいので、割合もみていきます。
こんな具合。
全体が倍以上。租税実体法の増加率が突出している。
初版「はしがき」の時点から、「個別の課税要件を詳しく記述した」とされています。ので、他著と比べて記述割合がどの程度違うかを見てみましょう。
私の手元にある一番古い租税法教科書が、1972年出版の下記書籍です(もちろん現役で以下略)。
新井隆一編「租税法講義(青林講義シリーズ)」(青林書院新社1972)
こちらの記述割合を整理すると次の通り。
「租税実体法」に着目すると、全体の23.75%を占めています。
そこまで少なくはないように思うかもしれませんが、これは個別の税目の話ではなく、実体法の総論の話や通則法レベルの話がメインを占めています。
では、個別の税目の話はどこにでてくるかというと、巻末の「資料」のところです(全7頁)。表形式で簡潔にまとめられていて、解釈論の展開は皆無。
こちらの扱いのほうが、当時の租税法における個別税目の位置づけを代表しているのでしょうか。
だとすると、金子租税法がいかに画期的だったのかが分かります。
○
本書に話を戻して。
個別税目のうち、所得税法・法人税法・相続税法の頁数を拾ってみると、次の通り。
縦書き⇒横書きなので、文字数レベルで比較したらさらなる増加率になるはずです。
法人税法が突出しているわけですが、組織再編税制や国際課税あたりが特に増加に貢献しているでしょうか。
それにしても個別税目の記述、分解してみるとそれほど多いわけではない。所得税法とか137頁だけ。
本書は分厚いようにみえて、個々の記述は微に入り細に入り、という感じではない。あくまでも最初に通過すべきインターフェイスとして利用すべきなのでしょう。
○
いい加減、租税法学者による個別税目ごとの「体系書」が求められている。
私の知っている限り、岡村忠生先生の法人税法以降、プロパーの租税法学者による個別税目ごとの「体系書」を見かけていない。
岡村忠生「法人税法講義(第3版)」(成文堂2007)
岡村先生ご自身も共著の薄い教科書に行ってしまっているわけで、「今どきそんな需要はない!」ということなんでしょうか(体系書ノスタルジック)。
岡村忠生ほか「租税法 (有斐閣アルマ) 」(有斐閣2017)
○
以上、さしあたりの浅めな整理。本当はより微細に分析すべきものなのでしょうが。
そして、中身については、私がどうこう言えるようなものではなく。
とはいいつつも、本ブログでは「租税法規の明確性」「納税者の予測可能性」「権利確定主義」「借用概念論」といった、本書を代表するテクニカルタームについては、総じて否定的な立場から論ずることが多いです。
ではありますが、本書の「基本書」「基準書」としての役割は、いささかも揺るがないものであることに変わりはないはずです。
金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021)
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